夏季総合特集Ⅱ(5)/事例研究/令和を生き抜く 発展への道/「わが社の次代ビジネスへの萌芽」

2019年07月23日 (火曜日)

〈フジボウテキスタイル/機能性繊維で新分野開拓〉

 富士紡ホールディングスの紡績・加工事業子会社であるフジボウテキスタイルは、グループ会社であるフジボウ愛媛の小坂井工場(愛知県豊川市)が生産する機能性繊維を活用することで新分野の開拓に取り組む。

 一般衣料用途の市況が厳しい中、同社は新分野の開拓に力を入れる。特に資材や手芸、産業用刺しゅう糸など糸そのものを製品として販売できる分野を重視する。

 そのためフジボウ愛媛の小坂井工場で生産する蓄光糸「ルミフィーロ」、熱接着繊維「ジョイナー」、感温変色糸「サーモフィーロ」、紫外線変色糸「UVマジック」、ステンレス糸など機能性繊維の活用を進める。

 ユニフォーム用の糸・生地も重点用途と位置付ける。特に医療用ユニフォームや農業用ユニフォームをターゲットに開発を進めている。いずれも機能性繊維の活用に加えて意匠性も重視。山本公彦社長は「ユニフォームのカジュアル化・ファッション化が進んでいる。これまでカジュアルや婦人服用途で培ったノウハウを投入する」と話す。

 一方、生産基盤の高度化にも取り組む。特にニット染色加工の和歌山工場(和歌山市)は、液流染色機を低浴比(生地に対する染料液の重量比が小さい)タイプに順次更新を進める。水・染料の使用量を減らすことでコスト競争力の一段の強化を目指す。

〈ダイワボウノイ/革新プロセスを積極導入〉

 ダイワボウノイはESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続的な開発目標)を事業に組み込むために、特に染色加工で革新プロセスの開発・導入を積極的に進める。

 同社は現在“エコ染色加工”をテーマに段階的に開発高度化を推進している。レベル1としてオーガニック原料・加工の国際基準であるGOTS認証基準への対応を進めた。レベル2としてカセイソーダ非使用の精練法を開発した。廃水の中和工程が不要になるなど環境負荷が低いことに加え、強アルカリを使用しないことで綿へのダメージが少なく、ウールやシルクなどタンパク繊維との混紡品にも適用できる。現在、有力取引先に提案しており、実用化に向けた商品開発が進む。

 さらにレベル3として使用する染料・薬剤全てを化粧品として使用できる安全性レベルのものに限定した染色加工も開発した。こうした開発の最終レベルとして紡績、織り・編み、染色加工で使用する薬剤の全てを可食性原料からのものにする“ケミカルフリー”を目指す。そのため薬剤の独自開発にも力を入れている。

 社外とのアライアンスも重視。海外で実用化が進む超臨界染色(無水染色)でポリプロピレン(PP)を染める実験を開始した。同社はPP短繊維「デューロン」を持つ。PPの超臨界染色で新規市場の開拓を目指す。

〈日清紡テキスタイル/“環境・エネルギーカンパニー”へ〉

 日清紡テキスタイルは、日清紡グループが掲げる“環境・エネルギーカンパニー”への転換を繊維事業としても実現する。そのために環境に配慮した生産プロセスの導入や商品開発、グローバル生産・販売の拡大、“モノ”作りと“コト”提案の強化に取り組む。

 同社では事業にESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続的な開発目標)の視点を盛り込むことに取り組む。例えば染色加工で環境負荷の小さい革新生産プロセスの導入を積極的に進めるとして、インドネシア子会社の日清紡インドネシアで廃水処理関連の設備投資を強化した。紡績でもブラジル子会社のブラジル日清紡に革新精紡機を導入し、製造工程の短縮を実現する。

 商品開発ではノーアイロンシャツ「アポロコット」のバージョンアップに取り組む。布帛シャツだけでなく綿100%ニットシャツも開発した。画像分析による形態安定性の試験方法なども独自開発したほか、今後はノンホルマリンでの加工の開発にも挑戦する。傘下の東京シャツが保有するデータを活用することで“モノ”作りと“コト”提案を融合したデジタル技術や電子商取引(EC)の導入にも取り組む。

 インドネシア生産を起点にしたグローバル販売の拡大も重点テーマ。設備更新や“カイゼン”活動の強化で海外販売の拡大を目指す。

〈東亜紡織/海外市場に活路〉

 トーア紡コーポレーションの衣料事業子会社である東亜紡織は、海外市場に活路を見いだすことで、縮小する国内ウール市場を補うことを目指す。ベトナム合弁会社を活用した三国間貿易など、東南アジア域内での販売拡大を進める。

 近年のウール価格の高騰やビジネススタイルのカジュアル化によるスーツ需要の減退から同社では、国内のウール市場の縮小はさらに進む公算が高いと分析している。これをカバーするために、ベトナム合弁会社であるドンナム・ウールン・テキスタイルが生産する糸・生地の東南アジア域内での販売拡大を進める。

 海外ユニフォーム向け原反やニット糸の提案を特に進めており、各営業部の垣根を低くするなどアイテムや用途を超えて営業担当者が連携した活動を行えるように体制も整備した。そのためにドンナム・ウールン・テキスタイルでのさらなる設備投資も検討する。

 一方、国内の紡績拠点である宮崎工場(宮崎県都城市)の維持も至上課題。そのためには国内生産が必要不可欠な用途での販売拡大が必要として、スクールユニフォーム地や官需ユニフォーム地の強化を進める。特にスクールユニフォーム用途は、引き続き重点分野として力を入れる。提案のバリエーションの拡大などにも取り組む。

〈三共生興/「ダックス」軸に反転攻勢〉

 三共生興は今期(2020年3月期)を、「反転攻勢の期」と位置付ける。その軸になるのは主力ブランド「ダックス」。同ブランドの創業125周年を記念して積極的な広告宣伝活動を展開するほか、アジア各国でターゲット顧客層の拡大を狙うとともに、国内外で新規店舗開設を計画する。

 この間進めてきた構造改革は「ほぼ完了した」。その上で「今期から攻めに転じる」。攻めの一環として、125周年も絡めて広告宣伝活動を強化する。今年3月には銀座シックスでファッションショーなどのイベントを開催。8月には英国・ロンドンでもイベントを予定する。今秋からは、英国人女優ケイト・ウィンスレットさんをモデルに起用する。

 ターゲット戦略も変更する。これまではアダルト世代向けのブランドとして商品を構成してきたが、20~30代に対応した新しいカテゴリーの開発に着手した。20春夏から香港、中国、台湾で一部販売を開始し、20秋冬からの本格化を予定する。19秋冬から韓国で展開し好評を得ている子供服も、新たに香港、中国、台湾などで展開を始める。特に子供服市場の拡大が見込まれる中国での拡販に意欲を見せる。

 攻めの一環として新規店舗開設も国内外で加速する。国内は大型旗艦店を優先的に出店し、海外では各国で契約する現地パートナーとの連携で新規出店を進める。

〈イテマ/次世代の織機発表〉

 織機製造大手の伊イテマ社は、次世代のコンセプト機として“フライングシャトル”織機「ディスカバリー」を、スペイン・バルセロナで6月に開催された国際繊維機械見本市「ITMA2019」で披露した。レピア織機の汎用性とプロジェクタイル織機の信頼性を融合する形で開発したと言う。

 ディスカバリーは新しい緯糸挿入方式を採用している。複数のレピアヘッドを持ち、それを一方向に飛ばして製織する。緯入れ4色に対応する。織機のメカニカルなパーツを極力排除してサーボモーターに置き換えるなど、エアジェット織機のようにメンテナンスが簡単で扱いやすい機種を目指して開発した。

 ITMA会場で、デニム製織を1分間400回転で実演したが、今後500~600回転にすることを目指している。価格はレピア織機よりも少し高い程度になる見込み。

 レピア織機の「R9500」については、改良型「R9500―2」を発表した。オイル循環システムとメカ機構を見直すとともに、空冷だったメインモーターに油冷システムを採用し、電力消費量を従来機種比10%削減したことが大きな特徴。デニム用の「R9500デニム」もマイナーチェンジし、「R9500―2デニム」として発表した。電力消費量を10%削減したことに加え、給糸側の捨て耳を不要にした。従来は生地の両端に捨て耳が必要だったが、片方が不要になる。

〈小松マテーレ/成長にらみ、中国で新工場〉

 小松マテーレは次の一手として中国に染色加工の新工場を立ち上げる。全額出資(2千万ドル)により、5月27日付で設立した小松美特料繊維〈海安〉は江蘇省南通市海安市に本社・工場(敷地面積5万4600平方㍍)を置き、今年11月着工、2021年から生産を始める。

 ポリエステル、ナイロンの織・編み物の無地染め、複合膜素材、コーティング加工とテキスタイル販売を行う。月産能力は第1期が約2・8万疋、第2期は4万疋以上、第3期に8万疋と現有の小松精練〈蘇州〉の2倍に拡大する計画で、受託50%、自販50%を想定する。

 「地産地消を考えた場合、海外の事業拡大は中国になる」とし、中国の成長を取り込むには増強が難しい小松精練〈蘇州〉だけで対応しきれないと判断した。

 新会社は成長する中国市場だけでなく、欧州や日本市場の需要にも柔軟に対応する予定。衣料・非衣料の両分野で高効率、高品質な高次機能加工に向けて新技術を積極的に導入し供給体制を整える。

 同社によると、中国で新規の繊維工場が認可されるのは「排水処理が整っている海安市ぐらいしかない」。海安市は中国企業、韓国・台湾企業も進出を進めている。「他社から出資を募っていては間に合わない。まずは全額出資で設立を決めた」とする一方、拡大に伴い、他社からの出資も募る。

〈ミマキエンジニアリング/前後処理までカバーする商品展開〉

 インクジェットプリンター大手のミマキエンジニアリングは、テキスタイルプリンターを成長分野に位置付けている。高速化のニーズに対応するプリンターの開発に取り組み、国内外でアパレル業界から高い評価を獲得してきた。

 プリントの前後処理を担う設備まで一貫して手掛けるトータルソリューションの提案にも力を注ぐ。同社は2017年に豪州のリムスロー社から、デジタルテキスタイルプリント向け前後処理装置の製造販売に関する事業を取得。18年から自社ラインアップに加え、TRシリーズとして展開している。

 インクジェットプリンターでの捺染は、生地に薬剤を塗布してインクのにじみを防ぐ「前処理」、プリントしたインクを定着させる「蒸し」、生地に残った前処理剤や余分なインクを除去する「洗い」という工程を経て完結する。各工程の設備もシステムとして提案し、ユーザーを総合的にサポートする。

 6月にスペインで開かれた国際繊維産業機械展「ITMA(イトマ)」で、TRシリーズを打ち出した。合わせて、ネットワークを活用したソフトウエア「ミマキジョブ コントローラーTA」も提案した。ソフトを使った生産管理システムを構築することにより、省人化につながるメリットを訴求。ユーザーのデジタル化を後押しする企業姿勢を示した。