繊維ニュース

2020年春季総合特集Ⅰ(6)/トップインタビュー/旭化成/社長 小堀 秀毅 氏/当初の予想とは別の未来も/五つの分野で価値を提供

2020年04月20日 (月曜日)

 「少し前に予想していた未来とは別の世界が訪れる」――旭化成の小堀秀毅社長は、世界を襲った新型コロナウイルスの感染拡大が経済の流れを大きく変える可能性があると示唆し、デカップリングの進展やサプライチェーンの動きなどに注視した上で、しっかりと見極めることが重要と説く。2年目に入っている中期経営計画では「設備投資・投融資は慎重な判断がいる」とするが、5分野で価値を提供するという基本方針は揺るぐことなく、成長への道を着実に前進する。(インタビュー日は3月31日)

  ――10年後の経済や製造業がどのようになっていると思われますか。

 今回の新型コロナの世界的な感染拡大がきっかけとなり、これまでの流れとは違う、別の未来をもたらすのではないかと予想しています。サプライチェーンのほか、マーケットの地図、場合によっては産業構造を含めて大きな変化が起こる可能性があり、流行が終焉した後に世界がどのようになるのかをよく見極める必要があります。

 新型コロナは中国が発信源とされましたが、その後、欧州や米国で爆発的に広がっていきました。そうした観点から言えば、終焉のタイミングも国や地域によって違ってくるでしょう。このため各国・地域における対応は一律にはならず、それぞれの国と地域の関係性もこれまでとは違ったものになります。これによって経済自体が大きく変わる可能性も否定できません。

 中長期的には環境対応は避けて通ることができない問題ですが、今回の新型コロナのように人間の命に関わるような突発的な問題が発生した時にはそれに関連する産業が極めて重い役割を担います。中でも情報の重要性や遠隔での作業を考慮すると、5G(第5世代移動通信システム)の進化・進展が加速しているとみています。少し前に予想していた10年後とは違う10年後が訪れているかもしれません。

  ――繊維産業についてはどう予想されていますか。

 繊維という一つの「産業」のくくりでは分かりませんが、繊維の素材・テクノロジーはまだまだ新しいものが出てくるでしょうし、さまざまな分野・領域で応用されていくと思っています。その一つが防護服などの医療機器・器具の分野です。これら医師、看護師が着用する衣料品も含めたヘルスケア全体の領域でとらえると、繊維のテクノロジーが活躍する場所はかなり大きいと言えるのではないでしょうか。

  ――旭化成全体の10年後はいかがですか。

 「人と地球の持続的な発展に貢献し続けていく」という基本的な姿勢は変わることはありません。成長領域を「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の三つに定めて、「エンバイロメント&エネルギー」「モビリティー」「ライフマテリアル」「ホーム&リビング」「ヘルスケア」の五つの分野で価値を提供していきます。

 新型コロナ禍で改めて気付かされた部分もありますが、幾つもの柱を持っていることが当社の強みと言えます。その意味で事業ポートフォリオをしっかりと確立していくという方針もまた変わりがありません。

  ――新型コロナですが、長期化への対策と終息後を見据えて打つべき手の二つがあると思います。

 事業によってかなり違いますが、目先のことに視線を注ぎながら中長期的な視野を持つことも欠かせません。先程お話しした通り、各国の政治や経済が大きな影響を持つからです。デカップリングがさらに進展することもあり得ます。繰り返しになりますが、世界経済に地殻変動が起こる場合があり、サプライチェーンやマーケットの見極めは不可欠です。

 終息後の世界では5Gなどを活用した新しいビジネスモデルの台頭が考えられ、製造業とサービス業が一体となっていることも在り得るでしょう。そのような世界ではよりマーケットに近い場所にアンテナを張っておくことが重要です。繊維についても同じようなことが言えます。繊維のテクノロジーを使い、どのような用途を開拓するかが鍵です。そのキーワードの一つがヘルスケアなのだと思っています。

  ――2019年度は中期経営計画の初年度でした。この1年を振り返ると。

 これまで世界は緩やかな景気回復基調をたどってきましたが、それが転換した年になったのではないでしょうか。中国経済の成長鈍化、自動車産業の減速などがその理由です。本当に大きな節目と言えますが、その一方でサステイナビリティー(持続可能性)が注目され、働き方改革も問われるようになりました。将来の方向性が明確になった1年であるとも言えます。

 われわれにとっては中計スタートの年でしたが、サステイナビリティー推進部やマーケティング&イノベーション本部を新設するなど、打つべき手は打てたと思っています。設備投資・投融資は中計の3年間で約8千億円を計画していますが、意思決定ベースで既に4千億円を超えました。事業環境が変わっているので、今後の設備投資・投融資についてはシビアに考えます。

  ――20年度の事業環境をどのようにみていますか。

 予想すること自体が難しいのですが、極めて厳しくなるとみています。昨年度に転換期となり、そこに新型コロナの影響が加わります。国・地域でもある程度状況は違ってくるのでしょうが、世界中で個人消費が低迷しているのが大きい。

 日本だけで言えば、東京五輪・パラリンピック延期の影響も無視できないでしょう。われわれ製造業は仮に稼働率を落としたとしても、生産を続けることが重要です。需要動向を念頭に置きながら、設備投資計画もしっかりと見極めを行います。

〈10年前の私にひと言/覚悟を持って経営に〉

 10年前は旭化成エレクトロニクスの社長だった小堀さん。その頃の自分に伝えたいのは「リーマン・ショック級の出来事は起こり得るとの覚悟で経営に当たるべき」との言葉。同社は08年のリーマン・ショックによって需要が一気に消えてしまうなど、厳しい経営を強いられたこともあった。その後、景気は緩やかに回復し、旭化成本体に戻った小堀さんも会社とともに成長の道を歩む。リーマン・ショックを超えるとも言われる今回の新型コロナ禍。10年前の自分に送った言葉を胸に経営のかじを取る。

〈略歴〉

 こぼり・ひでき 1978年旭化成工業(現旭化成)入社。2010年旭化成エレクトロニクス代表取締役社長兼社長執行役員、12年旭化成取締役兼常務執行役員、14年旭化成代表取締役兼専務執行役員などを経て、16年4月に旭化成代表取締役社長兼社長執行役員。