2020年春季総合特集Ⅰ(9)/ユニチカ/代表取締役社長執行役員 上埜 修司 氏/繊維 すそ野の広がりに期待/国内外に環境配慮型素材

2020年04月20日 (月曜日)

 4月から新しい中期経営計画をスタートさせたユニチカグループ。前中計に掲げたグローバル、グロース、ガバナンスという3Gを引き続き強化しながら、フイルムや樹脂といったグローバル市場で競争力を発揮させられる同社の強みに経営資源を重点的に投入する。さらに、環境配慮型の商材を国内外に打ち出していく構えを示しており、繊維事業では「エコフレンドリー」などの拡販に期待を寄せる。この間、企業規模の縮小を強いられてきたが、新中計を通じ業績反転を目指すユニチカグループ。上埜社長に中期戦略を聞いた。(インタビューは3月23日)

  ――10年後の繊維産業はどう変わっていると思いますか。

 より生活に密着した領域で繊維産業は伸びていくのではないでしょうか。特に人口が増えるエリアで繊維の需要は増えていくでしょうし、生活レベルの向上に伴い、繊維のすそ野が広がっていくと思います。新しい産業の発展に伴い、産業資材の市場も成長していくはずです。一方、人口が減少基調を続ける日本の繊維は少しずつシュリンクしていくのでしょう。

  ――ユニチカの繊維事業はどうなりますか。

 当社の連結売上高に占める繊維比率は現状で40%強です。私個人のイメージとしては、10年後に繊維比率は30%くらいに下がると見ています。というよりも、そういう方向に向かわなければなりません。

 当社は10年以上前から機能資材の会社を目指してきましたが、業態転換は未だ道半ばです。4月1日付の組織改正で高分子と機能資材との2事業本部制に再編しました。10年後の稼ぎ頭は高分子になっているでしょうし、機能資材では強みのある事業を底堅く伸ばしていくことになります。

  ――4月から新しい中期計画が始まりました。

 前中期計画では134億円の営業利益を目標に掲げました。しかし、宇治事業所で発生させた火災の影響などで実績は半分以下にとどまりました。これが一番の反省点です。売り上げが伸び悩んだのは、当初の想定よりも原料価格が下がり売り値も低迷したことがありますが、大きく伸ばすはずだったフイルム、樹脂、スパンボンドを伸ばし切れなかった影響の方が大きい。しかし、前中計で打つべき手は打ってきましたから、現中計でこれらを花開かせます。

  ――ナイロンフイルム、スパンボンドの海外工場で増設を実施しました。

 ナイロンフイルムでは1万㌧というこれまでにない大がかりな増設でした。今年の年末に操業を開始し、3~4年でフル操業させます。食品包装向けを主力に展開しており、市場ではコンビニの数が増えればフイルム需要も伸びるといわれています。中国では一時、爆発的に需要が拡大し、今後も年率5%前後で伸びていくでしょう。食文化の発展に伴い、アジアトータルでは5%を超える市場拡大を見込んでいます。

 ポリアリレート樹脂「Uポリマー」の生産能力も少し増やしましたし、こういう特徴のある樹脂にも期待しています。スパンボンドは多少スペックインが遅れ気味ですが、販売量は順調に拡大しています。

  ――ユニチカトレーディングは。

 衣料繊維事業は消費不振によって2019年度は低調でした。暖冬による秋冬物の低迷に加えて、善戦していたユニフォーム事業も苦戦に転じました。衣料繊維を今後、どうやって立て直していくのかが当社にとっての大きな課題です。

 新型コロナの影響が最終的にどうなるかという問題がありますが、売り上げを伸ばすことよりも収益の回復に重点的に取り組んでいきます。

 特徴ある商材でユーザーとしっかり取り組めている案件をもっと増やしていくことが重要ですし、一方で環境に配慮した素材群が注目を集めている最近の状況にしっかり対応していくことを重視しています。

  ――再生ポリエステル「エコフレンドリー」の拡販に取り組んでいます。

 アパレルとの連携で企画ものを立ち上げていく、という取り組みが進行中です。私は社長に就任して以来、お客さまに選ばれ続ける企業でありたいと言い続けてきました。当社は繊維だけでなくフイルムでもケミカルリサイクルによる商材をラインアップしています。

 環境配慮へのニーズが高まっている状況を踏まえ、もう一度、グループ内で環境配慮型の商品を見直し、SDGs(持続可能な開発目標)が定める2030年のゴールに向けて当社がどう貢献できるのかを表明するための準備を急いでいます。

  ――新しい中期計画における定性的な目標は。

 前中計に掲げたグローバル、グロース、ガバナンスという三つのGに引き続き力を入れていきます。一方で、強い事業をさらに強化し収益基盤を固めたい。世界を相手に戦っていける事業をグローバルに伸ばしていきます。ナイロンフイルムや「Uポリマー」、バイオプラスチック「ゼコット」、スパンボンド、産業資材向けの複合繊維を国内外で拡大します。当社の海外売上比率は現状で24~25%です。これを新中計の実践で30%台に乗せたいと考えています。

  ――新中計における設備投資への考え方は。

 海外で増設したナイロンフイルムの新設備が業績に寄与してくるのが3~4年後。スパンボンドは19年度から寄与させる予定だったのが1年余り遅れています。今後も強みを発揮させられる事業への設備投資を継続させますが、新型コロナ感染拡大騒動の長期化が懸念されるため、現在は多少、慎重に構えています。しかし、成長への投資はメーカーには欠かせないもの。今後も数10億円規模の設備投資を実施していきます。

〈10年前の私にひと言/スピードアップしメリハリを〉

 10年前といえば、リーマンショックの直後。このとき、ユニチカは構造改革の真っ最中で、「私は経営企画室にいたため、仲間の血も流した」と言う。選択と集中を強化し会社の立て直しに取り組んだものの、今になって思うのは、「もっとスピードを上げ、メリハリをつけて取り組むべきだったのかも知れない」ということ。さらに、「もう少しグローバルに目を向けて、海外とのつながりを深めることができていたら」と反省も込めて当時を振り返る。

〈略歴〉

 うえの・しゅうじ 1983年4月ユニチカ入社、2011年6月執行役員技術開発本部長兼中央研究所長、12年6月取締役執行役員、同年7月取締役上席執行役員、15年4月取締役常務執行役員、15年6月代表取締役常務執行役員、19年6月代表取締役社長執行役員