2020年春季総合特集Ⅰ(11)/3検査機関の今年度方針

2020年04月20日 (月曜日)

 検査機関は中国において新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けたものの、2月中に事業所の活動を再開できた。その後も感染は世界に広がっているが、3検査機関に今年度(2021年3月期)の方針を聞いた。

〈日本繊維製品品質評価技術センター(QTEC)/山中 毅 理事長/“継承”こそ重要/各事業所のミッション遂行〉

  ――10年後の日本繊維製品品質評価技術センター(QTEC)にどのような姿を望まれますか。

 昨年6月に理事長に就任以来、「100年続くQTEC」を目指しています。職員が生き生きと、誇りを持って働く姿を想像しています。前理事長の利益を上げる路線を踏襲しながら、さらに新たな施策を加えて財団としてより成長を遂げていきたいと考えています。

 QTECには高いスキルと経験を持つ職員が多い。100年続くためには、職員のノウハウを後進に継承することが重要です。このため、マイスター的職員には、これを書面に残し財団の資産としていく取り組みも進めています。海外の試験センターの引き継ぎでも、定型化された書式で引継ぎを行えば、後任は仕事もスムーズにスタートできます。職員研修も積極的に行っています。

  ――新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に影響を与えています。

 1月10日に中国・武漢で新型コロナが発生したという新聞記事を読みました。2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)はあっという間に広まりました。そこで、即刻全職員に風邪など健康に気を付けるよう指示しました。その後の新型コロナの感染拡大は驚くほど急速でした。

  ――2月中に中国の試験センターは稼働を再開できました。

 職員は1人の感染者も出さず、頑張ってくれました。1月中旬まで好調でしたが、2~3月は業績にだいぶ影響を受けました。

  ――今年度の方針は。

 各事業所にミッションを出しており、これを確実に遂行することです。東部事業所は生活雑貨、産業資材があり、マーケットの中心である首都圏をカバーしているので、営業体制を充実させます。全社的RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入のスターターとなり業務の自動化、効率化を図り、その分、新規業務推進など職員がチャレンジできる環境を整えたいと考えます。

  ――中部事業所は。

 羽毛、福井試験センターは燃焼性試験に特徴があります。西部事業所は既存顧客の掘り起こしと、持続可能な営業に取り組みます。神戸試験センターは抗菌・抗ウイルス性試験を行っていますが、新型コロナで問い合わせが増えています。

  ――海外事業所は。

 上海、南通、無錫の華東3拠点は機能性など試験のバリエーションを広げます。上海スタッフのCSR工場監査の研修も終えました。好調だった青島、深センもようやく元に戻ってきました。ダッカはナショナルスタッフの育成、ベトナムは提携するインターテックとの連携強化を進めていきます。本部機能も強化し、これらミッションの確実なる遂行を支えていきます。

(インタビュー日は3月24日)

〈ボーケン品質評価機構/吉田 泰教 理事長/品質保証を行うパートナーへ/サステイナブル・アパレル連合に加盟〉

  ――10年後の繊維業界とボーケン品質評価機構をどのように構想しますか。

 繊維は個人のニーズに合わせたカスタマイズ型のモノ作りが広がるでしょう。安心・安全へのニーズも間違いなく高まります。どんな状況になっても役割を果たすボーケンであり続けることが重要。変化に対応できる人材の育成が不可欠です。

  ――2019年度(20年3月期)を振り返ると。

 現在、「お客さまと共同で品質保証を行うパートナー」をメッセージとして発信しています。社会の変化に合わせて生産プロセス全体の品質を保証することが求められるようになりました。当機構も検査機関として事前検査業務のほか、最近では工場監査の支援やサンプルチェックなどに業務の幅を広げています。これをさらに強化するため、19年度から繊維、生活産業資材、機能性、認証・分析、海外の5事業本部制に移行しました。多様なニーズに対して技術力と専門性を高め、分野ごとに問題点も明確に見えるようにすることで新しい分野にも挑戦できます。現在を輸出検査、試験業務に続く第3の創業期と位置付けています。サステイナブル・アパレル連合(SAC)にも加盟しました。SDGs(持続可能な開発目標)やサステイナビリティー(持続可能性)への要求が高まる中、サービスプロバイダーとしてSACの評価ツール「Higgインデックス」の運用に関するサポートを提供します。将来的にはSACの「トレーナー」資格を持つ人材も育成し、本格的にコンサルティング事業に参入することを目指します。

  ――20年度の課題と戦略は。

 繊維事業本部は生産プロセス全体で品質保証をサポートする業務を拡充します。海外の試験センターも日本向け海外生産品の試験が中心でしたが、内販に向けた支援・情報提供サービスにも力を入れます。モニター試験など製品評価試験への対応も強化します。生活産業資材事業本部も外部パートナーと連携しながら中国の上海、広州、そしてベトナムなど海外ネットワークを構築し、品質保証サポート業務も強化します。機能性事業本部は抗菌や抗ウイルスなど微生物試験を強化します。機能性試験は大阪、東京、上海で実施していますが、中国の常州にも設備を入れ、納期対応力を高めます。クライアントと取り組み型の評価技術開発も重要です。認証・分析事業本部は繊維だけでなく化粧品や食品など幅広いアイテムに対する化学分析に取り組みます。未来研究所でも技術開発に加えてITによる情報管理を進めています。生産性向上やデジタル技術を活用した試験開発を進めます。最後に価値を生むのは人材です。人財育成センターも立ち上げ、教育体系も見直しました。スタッフが成長できるように個々人の役割を明確にし、幅広いクライアントからのニーズにさらに対応する体制を整えています。(インタビュー日は3月24日)

〈ニッセンケン品質評価センター/駒田 展大 理事長/社会貢献する検査機関に/海外の変化にも対応を〉

  ――10年後のニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)はどのような姿でしょうか。

 10年前、理事長に就任しました。現在柱事業となっている「エコテックス」も当時はまだ知名度が低かったが、10年を経過してその重要性が認められています。地球環境保護、SDGs(持続可能な開発目標)といった潮流があります。モノ作りのサプライチェーンの中で、製品の安心・安全、さらに労働環境を含めたシステムが求められているからです。第三者機関としてそうした社会に貢献できる検査機関になってほしいと思います。

  ――2020年3月期の業績は。

 前半はエコテックス事業も健闘し、そう悪くありませんでした。国内の試験は単価とコストが見合わなくなりましたが、中国での事業が好調でした。しかし、2月から新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、中国も厳しい状況です。

  ――新型コロナ以前の海外事業は。

 中国・南通の3拠点は競争が激化しましたが、堅調。上海や煙台も堅調でした。昨年6月には新たに無錫事業所も開設しました。中国内陸部での試験サービスを強化するためです。中国内販製品や雑貨などの試験にも対応していきます。

 バングラデシュのダッカ事業所は需要が戻りつつありました。インドはジャイプル事業所を中心に展開しており、現地での知名度は上がっています。しかし、現在は新型コロナの影響で両事業所の活動は停止しています。ベトナムのホーチミン試験センターは機能性試験を充実させていきます。

  ――エコテックス事業に加え、ZDHCゲートウェイ・ケミカルモジュールで、MRSL(製造時規制物質リスト)適合を評価する試験機関に認定されました。

 元々ZDHCとエコテックスは協力関係にあります。昨今は人権などを含めたSDGsが注目され、エコテックススタンダード100だけでなく、持続可能な環境・社会に配慮した生産現場認証「ステップ」や、素材の安全性や生産地を示せるトレーサビリティー(追跡可能性)証明「メイドイングリーン」への関心も高まっています。

 エコテックススタンダード100の認証から、次のステップ認証を目指す仕組みを作っていきます。

  ――今年度(21年3月期)の課題は。

 まず会社の体質強化です。管理本部もさまざまな事案に対応できるよう強化していきます。検査だけでなく、蓄積したノウハウや人材を活用していきます。海外事業は、リスクがあっても変化に対応していくことが重要です。エコテックス事業を中心に従来のノウハウを使って監査システムも検討します。

(インタビュー日は3月26日)