2020年春季総合特集Ⅰ(12)/トップインタビュー/カケン/理事長 長尾 梅太郎 氏/新中計がスタート/考え、戦い、挑戦する

2020年04月20日 (月曜日)

 カケンテストセンター(カケン)は昨年、持続可能な繊維に取り組むテキスタイル・エクスチェンジ、ZDHC(環境系への有害化学物質の排出ゼロを目指す企業連合)に加盟し、世界的な潮流であるSDGs(持続可能な開発目標)への対応を進める。この4月から新たな中期経営計画をスタートした。長尾梅太郎理事長に新中計の概要、今後の方向性を聞いた。(インタビュー日は3月30日)

  ――カケンテストセンターの10年後はどのような姿を想像されますか。

 日本の企業の廃業率は7%です。これにより10年後に企業の半分が消え、20年後には約4分の3が消えてもおかしくないという試算ができます。新しい企業が生まれてこないかぎり、大変なことになるということです。

 10年後はともかく、このほど「2020中期経営計画」(2020~22年年度)を策定し、4月からスタートしました。「考える人材、戦う組織、挑戦を尊ぶ企業風土」の構築と、「サステナビリティ」の推進を掲げたもので、10年後はその延長線上にあると考えます。

  ――その中計とは。

 カケンの将来像としては、「試験の品質確保」を基礎に、「グローバルな視点」で活動する。「情報企業」を目指しますが、そのためには情報に敏感で、それを踏まえて考えることができる人材を育成していくことです。「コミュニケーション」と「コンプライアンス」も重視し、活発で活力があふれ、働きがいのある職場作りを通して100年企業に挑戦していきます。

  ――中計の重点戦略は。

 独自メニューの開発。例えば、防護服に関わる特殊試験や繊維くず(マイクロプラスチック)測定などです。需要が伸びそうな分野も強化します。有害化学物質試験がそれで、今年1月に「環境化学分析ラボ」(神戸市東灘区)を開設しました。大阪事業所の分析ラボを移転拡張したもので、衣料品の有害化学物質試験についてはほぼ実施可能です。

 ZDHCのMRSL(製造時使用制限物質リスト)の試験業務、排水試験業務の実施も目指して機能を拡大します。繊維製品取り扱い記号に関わる商標を使用許諾するジネテックジャパンとしての契約は、7社になりました。

  ――拡大の一方で、労働生産性も重視されています。

 縮小・不採算分野の整理も重要です。手数料の適正化も課題です。海外事業は堅調ですが、国内事業は人件費増もあり、収支が悪化してきました。経費節減などを含め経営のスリム化を推進します。労働生産性を向上させないといけません。このため、パフォーマンス指標の充実、試験項目ごとの原価管理指標の開発を進めます。海外事業所定点観測を基にして施設・部門・要員の適正配置や効率・効果の向上を図っていきます。IT技術の活用による業務や試験プロセスの見直しも行っていきます。情報力の強化も重点戦略の一つです。

  ――情報収集では国際ネットワークへの参加も推進している。

 ケアラベルのジネテック社をはじめ、テキスタイル・エクスチェンジ、ZDHCに加盟しました。情報収集・提供とともに、事業化を目指します。環境・化学分析、CSR(企業の社会的責任)監査なども専門性を生かして遂行します。

  ――海外事業での施策は。

 タイは提携先のビューローベリタスの試験場に拠点を移して再スタートを切りました。同社はミャンマーにも拠点があり、ミャンマー企業の試験をタイで行えるようになりました。インドはバンガロール事務所を開設して、試験受け付け、試験相談、技術アドバイスを行っていますが、業務提携によるラボの開設も視野に入れています。バングラデシュのダッカでは韓国のKOTITIと提携し、KOTITIバングラデシュの日本チームが、日本語で対応。増床・設備増強なども進めます。インドを含む南アジアを強化していきます。

  ――20年3月期は新型コロナウイルスの影響を受けました。

 内外とも前年比若干増収で計画していました。1月までは順調に推移していましたが、新型コロナ感染拡大の影響で、2月から様変わり、大幅に落ち込みました。3月は中国の工場も再開しており、前年同月比2桁%増の試験室も出てきました。しかし、世界的に感染は拡大しており、楽観できる状況ではありません。

 特に国内は感染防止のため外出の自粛、小売店舗の休業などもあり、市場そのものが縮小しています。需要面ではネット通販の拡大、不要不急な買い物をしない、在宅勤務でカジュアル化が進むなどの変化があるかもしれません。新型コロナ禍がいつまで続くのか。それ次第の様相です。リスク管理も強化しないといけません。今は9月収束を前提にして今年度の計画を進めているところです。

〈10年前の私にひと言/世の中の流れは〉

 長尾さんは10年前、現在の東京商品取引所の役員を務めていた。国内の需要が激減し、取引所にとって大変厳しい時代だった。このため、新しいサービスメニューの開発、顧客の利便性を増すシステムの導入や取引ルールの見直し、新しい需要につながる金融商品の開発、海外からの顧客獲得など、打てる手は講じた。他の取引所は解散していった。同取引所も昨年、日本取引所グループに経営統合した。「世の中の流れは大きい。経済の構造変化に立ち向かうには知恵と苦労が必要」と言いたい。

〈略歴〉

 ながお・うめたろう 1974年4月通商産業省入省。92年6月日中経済協会北京事務所長、2001年8月環境事業団理事、2007年7月東京工業品取引所専務理事に就任。12年6月からカケンテストセンター理事長。