2020年春季総合特集Ⅱ(3)/トップインタビュー/クラボウ/社長 藤田 晴哉 氏/連携の中でスキーム提供へ/繊維事業の立て直しに全力
2020年04月21日 (火曜日)
「繊維産業も単独で社会の変化に対応することは不可能になる。さまざまな企業・団体と連携しながら、その中でビジネススキームを提供する存在にならなければならない」――クラボウの藤田晴哉社長は指摘する。そのための繊維のリサイクル・アップサイクルの取り組みやスマートテキスタイルの開発など種まきも積極的に進める同社。工場のスマートファクトリー化など生産体制も再編し、苦戦が続く繊維事業の立て直しに全力を上げる。(インタビューは3月31日)
――10年後の繊維産業や、そこでのクラボウの立ち位置をどのように構想していますか。
一つは、サステイナビリティー(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが製品、生産プロセス、流通構造いずれでも定着するでしょう。川上から川下までサプライチェーンの情報がインターネットなどでつながり、クイックレスポンスによる生産・販売が実現することで繊維製品の過剰生産・大量廃棄が抑えられるはずです。使用済み製品のリサイクルの仕組みや、それを原料として再利用するアップサイクルの技術も進化するでしょう。そうすることで繊維産業もサーキュラー・エコノミー(循環経済)を完成させなければなりません。そして最終的に廃棄する場合でも環境負荷の低い素材やプロセスが一段と求められるはずです。
もう一つは、パーソナル化した商品供給システムが発展し、マスカスタマイゼーションが普及することです。人々の多様なニーズに合った商品をスピーディーに供給することが求められます。さらにモノを超えた付加価値が重要になります。“モノ消費”から“コト消費”への転換が一段と進み、そこではシェアリングやサブスクリプションといった方法が広がっていくはずです。スマートテキスタイルの普及によってさまざまな生体データを活用できるようになり、安全や健康、美容といった分野でも繊維の役割が一段と大きくなるはずです。
こうした中で当社も変化に対応する必要があります。そこで裁断くずをアップサイクルする「ループラス」や原綿改質によって天然繊維を機能化する「ネイテック」、スマートウエアによる熱中症対策管理システム「スマートフィット」を開発・提案するなどさまざまな種まきを続けています。そして、こうした取り組みはいずれも一企業単独では普及させることができません。今後、さまざまな企業や団体と連携することが重要になります。そこで単純に部材や商品を販売するだけでなく、ビジネススキームを提供する存在になることを目指しています。
――2019年度(20年3月期)をどのように振り返りますか。
19年度は3カ年の中期経営計画の初年度でしたが、はっきり言って惨敗です。米中貿易摩擦の影響が予想以上に長引き、台風や暖冬など天候不順、消費税引き上げによる消費へのインパクトも想像以上でした。そして年が明けると新型コロナウイルス感染の世界的拡大が起こり、その影響が現在も続いています。
繊維事業は苦しい状況が続きました。特にカジュアルが厳しい。ヒット商品を出せていません。一方、原糸は回復傾向です。ネイテックの販売も拡大してきました。ユニフォームは定番品こそ不振ですが企業別注向けなどは堅調です。新商品への引き合い旺盛です。ただ、原料や染料・薬剤価格の上昇もあって利益率が低下しています。環境メカトロニクス事業はM&A(企業の買収・合併)で新たに傘下に加えた子会社が寄与し、半導体関連でも大口案件があったことから増収増益で推移しました。化成品事業は自動車向けで採用車種の生産立ち上がりがやや遅れたことと、半導体製造関連の精密樹脂加工が米中貿易摩擦の影響で回復が遅れました。食品・サービス事業はまずまずでしたが、今年に入ってからは新型コロナ問題でホテル事業が打撃を受けています。
――20年度の課題と戦略は。
まずは繊維事業の立て直しに全力を挙げることです。そのため3月末で紡績の丸亀工場(香川県丸亀市)の操業を停止し、生産を安城工場(愛知県安城市)と海外子会社に移管しました。丸亀工場は建屋も老朽化が進み、耐震補強の必要があったのですが、現在の需要動向を勘案すると丸亀工場に新たに投資するのではなく、スマートファクトリー化を進めている安城工場に集約し、さらに海外子会社に生産の一部を移管することでグループ全体の稼働率を高めることが合理的だと判断しました。スマートファクトリー化は今期で紡績工程が完了しましたから、次は染色、そして海外子会社に広げていかなければなりません。徳島工場(徳島県阿南市)にはネイテックの加工設備も導入します。そのほかループラスやスマートフィットもさらに広げ、新たなビジネスモデルやソフトウエア開発に取り組みます。
ただ、ここに来て新型コロナ問題が収束の兆しを見せていないことが最大の懸念材料です。世界中の工場が操業停止となり、サプライチェーンも分断されました。人が外出できないことで消費も大幅に減退しています。とにかくモノが売れない。商談もできない状態です。繊維でも欧米からのオーダーにキャンセルが出てきました。自動車関連はようやく中国が動き出しましたが、その代わりに欧米と日本での生産がストップです。まさに世界大戦以来の状態です。こうなると、既に決定した投資は実行するとして新たな投資の判断は再考せざるを得なくなります。そんな中で、バイオメディカル事業で新型コロナウイルス抗体検査試薬の販売を開始しました。あくまで研究機関・検査機関向けの試薬ですが、少しでも感染拡大の防止に貢献できればと考えています。
〈10年前の私にひと言/プランB、プランCを考える〉
「化成品業務部長になって管理の仕事を初めて経験したのが10年前。その時の経験が後に役に立った」と話す藤田さん。新工場の立ち上げでなどで活躍したが「一つの案件に対してPDCA(プラン、ドゥ、チャック、アクト)は回せても、複数の案件で同時に対応できなかった」と反省もする。現在、社会の変化は一段と激しくなった。「Pを立てる段階から変化を想定したプランB、プランCを考えてほしい」と話す。今まさにプランB、プランCを考えているに違いない。
〈略歴〉
ふじた・はるや 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。