2020年春季総合特集Ⅱ(7)/トップインタビュー/大和紡績/社長 斉藤 清一 氏/ファイバーの価値をグローバルに/繊維事業再結集で垂直的に深耕

2020年04月21日 (火曜日)

 ダイワボウホールディングスは1日付で中間持株会社の大和紡績に繊維事業会社を統合し、繊維事業を再結集させた。大和紡績の斉藤清一社長は「今後、サステイナビリティー(持続可能性)などがグローバルに求められる時代になる。それに対応するためにも“ファイバーの価値”や“機能性の追求”を各事業横串で実行しながら、それぞれの事業を垂直的に深堀りする」と話す。多様な分野・用途が組み合わさった複合的な事業体を目指す。(インタビューは3月30日)

  ――10年後の繊維産業はどのようになり、その中で大和紡績としてどのような立ち位置を占めることを目指していますか。

 今後ますますサステイナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)の実現がグローバルに求められるようになることは間違いありません。繊維産業もファイバーを軸にリサイクルやリユースの取り組みが拡大し、循環型経済へと転換することが求められるでしょう。その場合、“材料としての繊維”の優位性というものが改めて認識されるようになるのではないでしょうか。現在、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、こうした不安要素、不確定要素は今後もますます増えていくはずです。それをファイバーの力でなんとか解消できないかを考えるときでしょう。

 当社もこれまで“ファイバーの価値”を追求し、機能性を追求する方向で事業を推進してきました。これをグローバル化の中でどのように実践していくかが問われます。4月1日付で事業会社5社を大和紡績に統合し、繊維事業として再結集したわけですが、そこで現在の新型コロナの問題が発生し、世界がカオス化しています。グローバル化の在り方も再考が求められるでしょう。日本に限らず、いまや1国で繊維産業が完結する国は存在しません。原料、生産、市場全てがつながっています。このためグローバル化が新たなリスクにもなります。BCP(事業継続計画)の観点をもっと見直す必要があるでしょう。域内で完結した“地産地消型”のビジネスモデルが求められる場合も増えるはずです。そして、問題が発生した場合にマンパワーに頼るのではなく、ITや自動化技術を駆使することで生産体制を迅速に組み替える仕組み作りも必要でしょう。今後10年間で、そういった仕組みを作ることが求められます。

  ――2019年度(20年3月期)をどのように振り返りますか。

 合繊部門は中国の法規制強化によるインバウンド需要減退などで勢いがありませんでした。産業資材部門も後半から公共事業関連の需要が減退しています。製品・テキスタイル部門は中国やインドネシアの縫製子会社を活用した生産と販売が好調に推移し、日本向けだけでなく対米輸出など三国間貿易も含めて善戦しました。全体としても市況が悪い中で善戦していたとみていたのですが。年が明けてから新型コロナ問題で状況が一変しています。急激にものが作れない、出荷できない、売れないという状態になりました。

  ――波乱の中で20年度がスタートしたと。

 今期は新型コロナの問題がいつ収束するのかにかかっており、現段階では先行きが全く読めません。ただ、合繊部門はマスクや除菌シート関連で原綿・不織布ともに引き合いが急増しています。これは社会的要請でもありますから、9月まで増産体制を敷きます。問題は製品・テキスタイル部門です。日本だけでなく米国でも外出の自粛が続いていることで、衣料品市場はとにかくお客がいなくなってしまいました。このままでは減収になるのは目に見えています。どこまで減少幅を抑えることかできるかです。

  ――1日から大和紡績はダイワボウグループの繊維事業の中核会社として再スタートしました。

 合繊、産業資材、製品・テキスタイルの3事業による複合事業体として再結集したわけですから、それぞれの事業が複合的に組み合わさった上で、それぞれの領域で事業を垂直的に深掘りすることになります。そして3事業を有機的に結合させるものが“ファイバー”。3事業をファイバーで横串を通し、人材、技術、資金、海外拠点を融合させることになります。例えばサステイナビリティーへの対応でもポリプロピレンで生分解性を実現することに挑戦します。ダイワボウレーヨンのレーヨンなど生分解性素材の活用も進めます。

 製品・テキスタイル部門は国際綿花評議会(CCI)が認証する「コットンUSAマーク」の認定サプライヤーですが、新たに不織布でも認定を取得しました。CCIが積極的に打ち出しているように、米綿はサステイナブル(持続可能な)素材の代表になっています。これにオーガニックコットンやレーヨンを複合させるなどバイオマス原料を重視したモノ作りに取り組みます。

  ――海外拠点の拡充にも取り組むとか。

 繊維事業にとって特に重要になっているのがインドネシアの拠点です。そこでインドネシアの子会社全体を統括する法人を作る必要があるでしょう。中国は上海に事務所、蘇州に縫製子会社2社があり、香港に大和紡績香港がありますが、やはり中国本土と香港は経済的には別地域です。そこで上海事務所を法人化し、中国の子会社を統括する機能を持たせることを検討します。

 米国ニューヨークにも事務所がありますが、これまでは製品・テキスタイル部門のための仕事しか担っていません。そこで新たに衛材やフィルターなど合繊部門と産業資材部門の情報収集も行う形にします。こうした取り組みに着手するのも20年度の課題です。

〈10年前の私にひと言/やれることをやったら笑顔で〉

 「10年前といえば、ダイワボウノイの社長になった頃。衣料品事業は赤字続きだったので改革を進めたところ現場のスタッフの頑張りもあって黒字化できた」と振り返る。その時に印象に残っているのが現場スタッフの明るさ。「苦しい時こそ、気持ちを明るく持つことが重要だと実感した」とか。現在、新型コロナウイルスの感染拡大など大変な状況だが「自分ではどうしようもない問題に向き合う時も、やれることをやったら、あとは笑顔でいるぐらいの胆力があるのがちょうどいい」と話す。

〈略歴〉

さいとう・きよかず 1982年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。ダイワボウノイ社長などを経て2016年ダイワボウホールディングス執行役員、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績専務兼ダイワボウポリテック社長。19年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績社長兼ダイワボウポリテック社長。20年4月から大和紡績社長。