2020年春季総合特集Ⅲ(9)/トップインタビュー/帝人フロンティア/代表取締役社長執行役員 日光 信二 氏/グローバル化、デジタル化が進展/自動車など3分野に重点投入

2020年04月22日 (水曜日)

 帝人フロンティアは今年度から新中期計画をスタートした。前中計は環境配慮型ビジネスの拡大などの成果を挙げたが、新中計ではモビリティー、環境、インフラ関連の3分野を成長領域に位置付けて経営資源を重点投入するとともに、ウエアラブルなど新規事業の強化にも力を注ぐ。基礎収益力の強化も重点方針に掲げ、マザー工場の技術力醸成や自動化による業務の効率化、不採算事業の見直しなどにも取り組む。(インタビューは4月8日)

  ――10年後の帝人フロンティアはどういう姿になっていると思いますか

 10年後はますますグローバル化とデジタル化が進展しています。繊維産業でも売上高や営業担当者の人数は国内よりも海外が上回り、工場のIoT化やオフィス事務のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が進みます。そういった中で日本企業にはより高度な技術開発力や課題解決力が求められるでしょう。当社は現在、環境保全や健康増進のためのさまざまな新事業を立ち上げています。10年後にはこれらエッジの効いた技術で、世界中の人により良い暮らしを提供できたらと思います。まさにコーポレートメッセージである「暮らしは、せんいで進化する」の実践です。

  ――前期(2020年3月期)で中期計画を完了しました。

 前中期計画は、初年度の17年4月に、帝人・高機能繊維事業本部のポリエステル繊維事業を統合し、「繊維・製品事業グループ」としてスタートしました。衣料繊維と産業資材の両分野で、顧客ニーズへのスピーディーな対応を実践し、特に環境配慮型ビジネスが拡大するなどの成果を得ました。ガバナンス強化も着実に進展し、海外への生産移管を主体とする構造改革も18年度でおおむね完了しています。

  ――19年度を振り返ると

 中国や欧州の自動車市場減速でモビリティー・プロジェクトの収益発現は遅延しています。また、暖冬の影響で国内衣料品販売は軟調でした。1月までは前年比増益で推移していたのですが、新型コロナウイルス感染拡大による環境変化もあって、通期では厳しい形となった見通しです。

  ――20年度から新中期計画が始まりました。

 企業理念の実現や社会課題の解決を目指した上で、自社の強みを生かした成長を図ります。「モビリティー」「環境」「インフラ」などの分野を成長領域と位置付け、積極的に経営資源を投入していきます。また、センシング技術を中心としたウエアラブル素材の開発など新事業の強化に取り組みます。

  ――成長領域に位置付ける各分野の拡大策は

 自動車関連はゴム補強資材、カーシート、エアバッグ、タイヤコード、吸音材などがあります。日本、中国、ASEAN、米国とグローバルにわたる自社サプライチェーンと、高機能繊維の独自技術を生かし、EV化や自動運転化の革新の中で、販売拡大を図ります。インフラ補強材、「かるてん」「かるかべ」などでは、自然災害対策やインフラ補強対策といった社会全体にソリューションを提供していく。加えて防災カーテンや「もうたんか」といった「室内の防災」をパッケージで提案することにも注力します。環境関連は液体・空気清浄フィルター、リサイクルポリエステル、植物由来原料などがありますが、全社の環境活動指針としている「THINK ECO」の取り組みをさらに深耕し、SDG'sに貢献するとともに、美しい環境を守る企業として認知されることを目指します。

  ――新中計では「基礎収益力の底上げ」を重点方針の一つに掲げています。

 自社マザー工場での技術力のさらなる醸成とともに、協力工場へのOEMを最適バランスで実施することで、高収益かつ面の広いビジネスを構築します。伝票処理や工場管理の自動化で業務の効率化を図り、開発力や営業力の強化につなげます。不採算事業については見極めを実施します。

  ――今期(21年3月期)の市場環境をどうみますか。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動は世界的に停滞しています。暖冬の常態化で衣料品ではシーズンレス化が進み、環境やエシカルニーズの顕在化で環境面での競争が激化するとみています。自動車産業の長期にわたる回復の遅れも懸念材料となります。

  ――今期のポイントは。

 取り組むべき課題は、モビリティー関連事業の収益力改善、環境・サステイナビリティー(持続可能性)対応力の強化、グローバルサプライチェーンの強化、EC(電子商取引)やモノコト化、シーズンレスなど市場構造変化への対応などが挙げられます。ウエアラブルサービスなど新事業領域でのビジネスモデル構築に注力するほか、RPAやBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)などで、本社コスト構造の改善や働き方改革に取り組みます。

  ――今後、中国から他地域へのシフトなど生産地が変わっていく可能性はあるのでしょうか

 新型コロナの感染は世界的に拡大しています。当社では、中国から他地域ということではなく、日本、中国、タイの3極での重点開発・生産を基軸に、グローバル顧客の要望に応じて適地でのサプライチェーン拡大の検討を進めていくことになるでしょう。

  ――グローバル展開での今後のポイントは

 グローバル全般ではリスク回避から分散化が鮮明になるでしょうが、当社は日本、中国、タイの3極での開発・生産を基軸とします。その中で車両関連はジーグラー社のあるドイツをはじめ、ASEAN地域、米国会社と連動したメキシコ拠点を活用し、製販両面で事業展開を強化します。衣料分野ではグローバル顧客の要望に対応し、ASEAN地域で生産背景の強化を図ります。

〈10年前の私にひと言/私は今も頑張っている〉

 2008年春に米国法人の社長としてニューヨークに赴任し、その半年後にリーマンショックが起こった。09年、10年は「新たなチャンスを追い求めて挑戦するも、何一つ成就できずにもがき苦しんだ」という時期だった。歴史は繰り返し、今は新型コロナウイルスで社会は混乱。10年前と同様に将来が見通せない状況となっている。10年前の自分には「私は今も掲げた目標に向け、強い執着を持って頑張っている」と伝えるとともに、「これからも不断の挑戦と開拓に努めていきたい」と今後に向けて話す。

〈略歴〉

 にっこう・しんじ 1979年帝人商事入社。2013年6月帝人フロンティア常務産業資材部門長兼工繊・車輌資材本部長、14年6月専務衣料繊維第二部門長、17年4月帝人グループ常務執行役員繊維・製品事業グループ長兼帝人フロンティア代表取締役社長などを経て、18年4月帝人フロンティア代表取締役社長執行役員。