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2020年春季総合特集Ⅲ(10)/トップインタビュー/旭化成アドバンス/社長 西澤 明 氏/生活必需品の国産増必要/10年後は2千億円企業に

2020年04月22日 (水曜日)

 旭化成アドバンスは積極的な拡大戦略を進める。年率で5%の成長を描き、10年後には売上高2千億円の到達を目指す。西澤明社長は「繊維事業も成長はできる。繊維の売上高は現状で600億円だが、1千億円規模に拡大する」と強調。その繊維事業では車輌資材、防災、メディカル、エコロジー、寝装の五つの重点分野で伸ばすとし、体制も整えた。(インタビューは3月26日)

  ――10年後はどのような世界になっていると予想しますか。

 新型コロナウイルスの感染拡大で分かったことは、非常事態が起こったときはどこも自国・自国民の利益を優先するということです。日本では米は国内生産で賄えていますが、これからは生活必需品についても国内生産を増やすことが不可欠になるでしょう。生活必需品に関わる産業はもっと増えていってほしいと考えています。

 製造業や建築業に目を移すと、まず雇用の吸収力がすごいと改めて感じますね。スキルを持った人はもちろん、特定の技能を保有していない人でもカバーすることができます。都市部への一極手中が問題視される中、全国に拠点を持つため地方の雇用も創出しています。こうした観点でも製造業や建設業は守らなければならないでしょう。

  ――繊維産業はいかがですか。

 衣料品は約98%が輸入で、かなり縮小しています。とはいえ、衣料品分野でも特殊な生地で競争力のあるもの、産業資材などは存在感を示しています。日本の政府純債務残高は国内総生産(GDP)の200%を超えると言われ、為替相場は円安が大きな流れですが、国内外を問わず市場ニーズにあった製品を開発すれば存続は可能です。

 旭化成アドバンスは、連結売上高が1200億円です。年率5%で成長すると10年後は2千億円になるので、ここをターゲットにしたいです。今、繊維が約50%を占め、樹脂、化学品、建材などで50%です。この比率を大きく変えることなく、成長していきたいと思っています。繊維製品も多いのでまだまだいけます。営業利益率も最低1ポイントは高めたいですね。

  ――足元の2020年3月期の見通しは。

 売上高は前期比微減に踏みとどまっていますが、利益については20%程度減少する見込みで、厳しい結果で終わりそうです。大きく苦戦したのは紳士服向けを中心とする裏地です。そのほかでは、ダウン地やタイツ・ストッキングが暖冬の影響を受けました。

 一方で、溶接現場などで使うシート「ラスタン スパッタシート」や断熱材など、建築・建材関係は比較的良好で、防災関連で環境資材事業部が展開する法面保護・護岸の「ファブリフォーム」も順調でした。布製型枠を応用したもので、現場打ちコンクリートと比べて少人数化や時短が可能になります。繊維から生まれた技術です。

  ――前期に取り組んだ施策は。

 さまざまな仕込みを行いました。ベトナムにエアバッグの縫製工場を設立しましたし、米国には販売会社を作りました。中国ではエアバッグの包装材料工場を立ち上げるなど、布石は着実に打っています。組織も再編し、車輌資材営業部を発足しました。これまではバラバラで動いていましたが、一体で動けるようになりました。

 今期も繊維事業では車輌資材、防災、エコロジー、寝装、メディカルの五つを重点領域に成長のための策を積極的に進めます。メディカルでは4月1日付で「ウエルビーイング部」を立ち上げました。これまでは開発営業部という名称でしたが、人員も増強し、メディカルだけでなく、ウエルネス関連や介護領域を含めて拡販を図ります。

  ――成長策を進めるということですが、今期の事業環境は。

 プラスとマイナスの二つの側面があると考えています。プラスから言うと、電子商取引をはじめとする“巣ごもり”需要の拡大と衛生材料です。衛生材料はマスクのほか、防護衣料やクリーナー関係の動きが活発化しています。ただし、マイナスのインパクトは大きく、今期はかなり厳しい事業環境になると予想しています。

 マイナス面は新型コロナ、暖冬傾向、インバウンド需要の剥げ落ち、欧米景気の悪化、自動車・家電・電子材料分野の減速などです。サプライチェーンの分断と実需の減少も問題です。サプライチェーンの分断は既に顕在化しましたが、実需の減少がどれほどになるのか、現段階でははっきりとは言えません。

  ――そのような状況下で採る具体的施策は。

 五つの重点領域のうち、今期は車輌関係の事業環境が厳しく、エコロジー関連も不透明ですが、他の3領域は前向きに伸ばせるでしょう。防災は政府の国土強靭化の計画による需要を取り込んでいきます。寝装は多様な商品をそろえており、昨年には三次元立体編み物のベッドパットを発売しました。

〈10年前の私にひと言/ドイツで危機を乗り越え

 10年前の西澤さんはドイツで過ごしていた。ロイカ事業のドイツにおける営業のトップを務めていたが、2008年にリーマン・ショックを経験する。需要が一気になくなり、「半年間は休みのような状態が続いた」と振り返る。2010年には利益も戻ってきていたが、一緒に危機を乗り越えたスタッフ、顧客、エージェントは今でも心の友達だ。あの頃の自分に「そのような友達をたくさん作りなさい」という言葉を送るとともに、「10年はあっと言う間に過ぎる。1日1日を大切に」と伝えたいと話す。

〈略歴〉

 にしざわ・あきら 1986年旭化成(旧旭化成工業)入社。2013年旭化成スパンデックスヨーロッパ〈ドイツ〉会長兼CEO、15年旭化成せんいロイカ事業部事業部長、19年4月旭化成アドバンス副社長執行役員兼繊維本部長などを経て、同年11月旭化成アドバンス代表取締役社長兼旭化成執行役員。