2020年春季総合特集Ⅴ(3)/トップインタビュー/菅公学生服/社長 尾﨑 茂 氏/教育ソリューション拡大に手応え/企業連携で商品開発も推進

2020年04月24日 (金曜日)

 菅公学生服は2020年入学商戦で、学生服、スクールスポーツとも販売が計画通りに推移する。制服モデルチェンジ(MC)校の獲得は昨年に続き堅調な勝率で、注力する教育ソリューション事業も案件が増加傾向にある。今後、研究データを生かして多様な企業と連携し、衣料型ウエアラブル端末なども開発する。(インタビューは4月1日)

  ――10年後の繊維産業と御社の展望を。

 10年はかなり長いスパンで予測ができない部分もありますが、業界はある程度の再編など変化が起きるかもしれません。ユニフォームの価値を支えるため、学生服の製造と併せて教育ソリューション事業を軸に取り組み、同事業を着実に認知させていきたいですね。

  ――新型コロナウイルスの影響は。

 営業の方では日程調整などで多少の影響が出ています。学校では、座席間隔を広く取る分散式で入学説明会などが行われ、採寸も間隔を空けての実施や採寸をしない(体格に合わせた既定サイズでの納品)といった対応が取られています。

 納入は、各学校ごとの入学式の実施や授業の再開次第ですが、慎重に状況を見ながら適切に対応していきます。ただ、全国的に見ると大きな影響はなく、比較的順調に出荷が進んでいます。

 当社の業務面では、テレワークを進めています。本格的に始めたのが偶然新型コロナの感染拡大のタイミングに当たり、準備をしていたことがよかったと思います。

  ――2020年入学商戦の進捗(しんちょく)は。

 全体的に販売計画の通りに進み、制服MC校の勝率も昨年と同じく堅調に推移しています。地域差はありますが、大手3社とも例年通り安定してMCを獲得しているのではないでしょうか。

 学生服ではLGBTQ(性的少数者、Qはクエスチョンで自身の性自認や性的指向が定まっていない人々も含む)の流れが強まり、特にスラックス・スカートの選択制の広がりでスラックスの採用が目立ってきました。

 スポーツでは17年発表の「カンコープレミアム」など自社ブランドの認知度が向上し、こちらも好調な実績を挙げています。採用校数は前年を上回る見込みです。

 一方、企業ユニフォームは新型コロナの影響を受けて納品が遅れています。景況感の悪さもあり、納品の延期や受注の停止が大きく影響しました。

 今後、新型コロナによる経済の冷え込みが間違いなく長期的に影響します。情勢を注視し、顧客に支持されるモノ作りに取り組んでいきます。

 ――設備投資は。

 昨年11月に前橋市、12月に宮崎県都城市で物流センターを新設しました。全国5カ所に物流拠点を集約し、今後、岡山県などでも進めます。工場では人工知能(AI)やモノをインターネットにつなげるIoTを導入しています。今年から全拠点の仕組みを入れ替え、人間の判断を減らし自動化を進めます。刺しゅうや裾上げなどの2次加工設備も取り入れていて、大規模な投資を想定しています。

  ――教育ソリューション事業の認知度が高まっていますね。

 関心が高まり、順調に引き合いを得ています。一方、社会全体の理解はまだ不十分で、今後も必要性を訴えていきます。私学では理事長や校長の決済で案件の採用が進んでいますが、教育委員会含めて広い範囲で取り組む場合は合意を得るのに時間がかかっています。

 非認知能力を育むアンクスプログラムなど独自のプログラムについても、岡山県の井原市や瀬戸内市など積極的な地域がある一方、各自治体で温度差が見られます。規模の大きい都市になればなるほど全体で進めるには教育長や学校長の判断に左右されます。地道に提案を継続していきたいと思っています。

 教育関連の案件は昨年の80件から増えています。教育は学校・家庭・社会の3分野に分けられ、当社ができるのはこの社会教育です。学校は社会の一部ですから、地域ごと学校ごとに違うニーズを捉え、企業への橋渡しを含めてキャリア教育の場を提供することで解決をサポートします。

  ――昨年の展示会「ミライフォーラム2020」も教育や制服研究を前面に展示を刷新しました。

 学生服に求められるものはデザインではなく、学生に関する基本の動向です。生徒の身長や体重、日々の過ごし方などの特性を踏まえることで、自社の専門機関であるカンコー学生工学研究所を中心にモノ作りの基礎データを展示しました。

 多様な企業との異業種連携も進めていて、同研究所発の取り組みとしては生体情報を収集する衣料型ウエアラブル端末の拡販を準備しています。

 社会や学校に対するソリューションの提供へ準備を整えていきます。

  ――20年7月期の見通しを。

 今期は売上高360億円の想定ですが、達成できる見込みです。

〈10年前の私にひと言/ローマは一日にして成らず〉

 社長に就任して15年、「10年前の私に一言」アドバイスするなら「ローマは一日にして成らず」と尾﨑さん。例えば教育ソリューション事業は立ち上げて7年になるが、この間学んだのは「人の意識が変わるには10年ほどかかる」ということ。企画が戦略的に優れ、制度を変えたとしても「社員のモチベーションがついてこなければ組織は変わらない」。組織全体で取り組みごとの“イズム”(主義や流儀)を携えて取引先に対応できるようになるには時間を要するため、「性急に結果を求めず長い目で取り組む」。

〈略歴〉

 おざき・しげる 1998年尾﨑商事(現・菅公学生服)入社。2001年取締役、03年専務。06年から社長。