2020年春季総合特集Ⅴ(4)/トップインタビュー/明石スクールユニフォームカンパニー/社長 河合 秀文 氏/“装い”の文化を残したい/防災教育など新たな柱を

2020年04月24日 (金曜日)

 明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)は今入学商戦で、過去10年で最多の制服モデルチェンジ(MC)校を獲得し、スクールスポーツも堅調だったことから2020年5月期の売上高で計画の達成が見えてきた。防災教育「明石SUCセーフティプロジェクト(ASP)」や制服リサイクルも新たな収益の柱として見据え、地域の繊維産業や制服文化の振興を図る。(インタビューは4月9日)

 ――10年後の繊維産業と貴社の展望は。

 礼節のある“装い”という文化が残っていてほしいと思います。新入社員にも話しましたが、現代はビジネスでもカジュアル化が進み、(人前に出る時の)装いや服装という言葉が死語になりつつあります。衣料品業界が先導して賛同する人をたくさん作り、装いの文化を終わらせないように、高められるようにしていく必要があります。

 当社も礼節ある装いの価値を訴えていきます。10年後、今の小学生が高校生になった時に当社の制服を着てほしいです。

 防災教育のASPなどこの10年に立ち上げた事業も多いので、一歩一歩目標を持って新しい柱に育てたいと思います。

  ――新型コロナウイルス禍が市場の脅威になっています。

 3月ごろは納品などの調整に厳しさが見えましたが、採寸は分散式や採寸自体をしない(体格ごとに合わせた規定サイズの納品)ことなどで対応でき、全体的には順調に納入できました。

  ――2020年入学商戦の状況は。

 今期はこの10年で最も多いMCを獲得しました。大型の高校で数件の採用が決まったことが大きいです。公立高校は引き続き生徒数の減少が目立ちますが、一方で私学は高校の授業料の無償化によって人気が高まり、採用が増加しています。

 LGBT(性的少数者)の社会的な流れで中学校の獲得率も高まりましたね。中学校を中心にスカートとスラックスの選択制を採用する動きが目立ち、それが要因でMCを決める学校が増えてきました。スラックスのロットを組み込んだ発注になり、生産計画を調整しています。先行する福岡市は市場で1万枚のブレザーの需要があり、(数量の面で)別格と言えます。

  ――日本セクシャルマイノリティ協会とフレンドリー契約を結び、専任スタッフ「レインボーサポーター」が教育現場の課題に対応していますね。

 順調に評価され、MCにつながるケースも増えています。

  ――スポーツやメディカルなどその他分野の採用状況は。

 競争が激化していますが、ライセンスブランド「デサント」で累計の採用が2千校弱まで増えました。20年度に2020校の達成を目指しています。昨年販売を本格化させた自社ブランド「アスリッシュ」も継続して提案します。

 アクティブチャレンジ部は、メディケア向け「ルコックスポルティフ」の販売が堅調で、病院での大型案件を数件獲得したことから計画を達成できそうです。介護の分野でも堅調に採用が進みました。一方、新型コロナの影響で病院・介護とも施設に営業できないことが今後も響きそうです。

  ――コラボレーション企画については。

 アイドルグループAKB48などの衣装を手掛けるオサレカンパニー(東京都千代田区)とのコラボ制服「オーシーエスディー」や、人形玩具「リカちゃん」をモチーフにした女子学生服ブランド「リカ富士ヨット」なども理解が広まり、販売は堅調に推移しています。

  ――防災教育ASPの進ちょくは。

 17年に神戸学院大学(神戸市)社会防災学科と産学連携を始め、認知が広がっています。災害が頻発する中で小学校の意識が高まり、折り畳める防災用ヘルメット「セーフメット」や非常食、防災学習教材で引き合いが増えています。昨年発表の中高向けの教材もすぐに採用が決まり、新たなMC校獲得の足掛かりになればと思っています。

  ――20年5月期に売上高272億円(前期267億円)を計画しています。

 達成する見通しです。原材料費や人件費、物流費などの高騰で利益面が圧迫されていますので、コスト削減や生産の効率化に努めていきます。

 松竹梅と選択肢がある中で消費者が付加価値の高いものを買う傾向も見えてきました。安いものを大量に生産するのではなく、価値の高いものを適量で生産することはSDGs(持続可能な開発目標)に通じます。

 社会がリサイクルに目を向けています。昨年は日本環境設計(東京都千代田区)と協力する制服リサイクル活動「リリングスクール」を発表しましたが、着実に取り組み、広げていきたいです。

  ――昨年末は岡山で30年ぶりに総合展を開催し新企画を展示しました。

 社員の意見を企画に取り入れ、継続的にチャレンジしていきます。今後、改めて倉敷市発の繊維企業としてのモノ作りを訴求していきたいですね。

〈10年前の私にひと言/その時にできることを〉

 「10年前の私に一言」は、「基本的に過去を振り返ることがない(とらわれない)」ため「特にない」と河合さん。当時は社長に就任して5年目の頃になるが、「その時にできることをやってきた」と言う。同社は2015年、社名を明石被服興業から明石SUCに改め、カジュアル感を打ち出すことで若い世代へのアピールを強めた。そうした新陳代謝を促す努力を長年続けている。学生服の製造を始めて90年近くが経ち、「ビジョンとして2032年の100周年に向けて体制づくりを考えている」。

〈略歴〉

 かわい・ひでふみ 1982年明石被服興業入社。89年取締役。2002年専務。05年から社長。明石SUC社長も兼務。