特集 カーペット(3)/メーカー・素材メーカー/白糸の一部生産終了へ/世界潮流への対応課題に

2019年04月15日 (月曜日)

 世界のカーペット用BCFナイロンは、後染めの白糸よりも、原着糸が主流になっている。その潮流の中、国内BCFナイロンでトップシェアを持つとされるインビスタ ジャパンが2019年末をめどに白糸の一部生産を終了する。国内カーペットメーカーは対応を迫られている。

 原着糸は紡糸工程の前段階で顔料を添加して糸自体に色を付けるのに対し、白糸は顔料を添加せず後染めやプリントで使われる。素材メーカーによると、十数年前は世界のカーペット用ナイロンのうち白糸が9割、原着糸が1割の割合だったが、現在は原着糸が8割、白糸が2割と逆転した。

 インビスタ ジャパンは国内のカーペット用BCFナイロンの約50%のシェアを持つとされ、そのうちの半分を白糸が占める。同社にとっても白糸の生産終了は大きな影響があるが、「環境面やビジネスの持続性など長期的な視点」から決断し、原着糸へ経営資源を重点配分する戦略をグローバルに進める。

 同社は白糸のうち中空・異染糸の生産をやめる。異型断面糸のトライローバルは残す。生産を止める中空・異染糸は主にオフィスなどのコントラクト用途で使われている。

 あるカーペットメーカーは「国内のカーペット業界に与える影響は大きい」と指摘する一方、「大量の染料や水、エネルギーを使って大量に染める生産は今の時代にそぐわない。世界レベルでは原着糸へシフトしており、白糸をやめていくのは当然の流れ」と受け止める。

 ただ国内ではコントラクトを中心としたタイルカーペットのトップメーカーである東リが、後染めを強みにしてきた。トーア紡マテリアルも保有する連続染色設備を生かしてグラデーション染色の特許を取得するなど、意匠性に優れたカーペットに対応している。

 染色設備を持つカーペットメーカーでは、生産が終了される中空・異染糸のレギュラー、ディープ、ペール、カチオンの4区分の染め分けができる白糸を駆使して複雑な柄域を表現する技術を培ってきた。さらに糸を膨らましてボリュームを出したり、撥水(はっすい)性や抗菌性など機能を付与したりする加工技術にも優れる。その染色加工は、世界のカーペットと差別化できる強みとも言える。

 あるカーペットメーカーは「後染めには原着糸では出せない色合いができる。原着糸ばかりだと、世界のメーカーと同じ土俵でしか戦えないことにもなる」と危惧する。

 東リは、国内のカーペット用BCFナイロンで約4割のシェアを持つといわれる東レと、今後の方向性について協議しているとみられている。世界の潮流を踏まえて、強みである国内の後染めをどのように生かしていくのか。白糸と原着糸のバランスを考えたモノ作りが求められている。

〈次代を担うキーパーソン/堀田カーペット 社長 堀田 将矢 氏/残り99・8%の市場が存在する〉

  ――トヨタ自動車に勤めていました。

 大学卒業後、トヨタ自動車に7年間勤めていました。グローバルにガラスやゴムの部品を調達する業務に携わり、問題解決の仕方をはじめ仕事に対するスタンスなどさまざまなことを教わりました。その経験が今につながっています。

 サラリーマンとして不満はなく楽しい日々でしたが、当時社長だった父の繁光から「帰ってくるかこないか決めてくれ」と言われました。父は私が子供の時から家でも仕事のことを楽しそうに話していました。こんな会社にしたいと、よく未来を語っていました。仕事人として尊敬する父と一緒に仕事がしたいと帰ることを決断しました。

  ――国内に約20台しかないとされるウィルトン織機のうちシングルウィルトンを中心に試作機を含めて9台を保有する織りカーペットメーカーです。

 シングルウィルトンは生産効率が悪く、最新鋭の機械を使っても大したスピードはありません。1日8時間稼働して10~15㍍ほどです。生産技術もかなり必要です。生産効率を高めたダブルフェースウィルトンもありますが、シングルウィルトンほど多様な糸が使えません。シングルウィルトンは、大小さまざまなループが使えるなどテクスチャーで意匠を表現できます。機械織りですが、「人の手伝いを機械がしている」というベテラン職人の表現がぴったりきます。手間はかかりますが、手を加えられる部分が多く、ほかの織機に比べて自由度が高い。100年後もウィルトンカーペットを織り続けるというのがビジョンです。

  ――国内に残る織りカーペットメーカーが減っています。17年秋には名門の織りカーペットメーカーが破産申請してなくなりました。

 危機感があります。泉州で歴史を築いてきたウール織物産地を維持できるかの瀬戸際です。ウィルトン織機を持つメーカーは数社程度ですが、これ以上減ったら維持できなくなります。機業もたいへんですが、全体の生産数量が減っている中でウール紡績糸、染色加工企業、撚糸企業にとって厳しいものがあります。自社の利益を上げることももちろんありますが、生産量を追い掛けないと産地の維持ができない環境になっています。いかにここで踏ん張れるか。産地全体を考えて動かないといけません。

 一方で可能性もあります。国内の新築住宅に占めるカーペットの敷き込み比率は0・2%ほどです。逆に言えば、99・8%の市場が存在します。敷き込み比率を1%にできれば、市場が5倍に広がります。私自身は10%まで上がってもおかしくないと考えています。それくらいカーペットには魅力があります。

  ――さまざまなメディアに積極的に出ています。

 モノ作りとともに、伝えることをテーマにし、さまざまな角度からカーペットの良さを伝えようとしています。中でもB2Cのコミュニケーションに力を入れています。エンドユーザーがカーペットを買う機会は一生のうち5回ほどではないかと思います。ただカーペットの良さを語るだけではその機会をつかむことは難しい。工夫して伝えることがカーペットとの接点を増やすことになると考えて行動しています。

 15年には自邸「カーペットの家」を竣工(しゅんこう)し、自ら生活者としてカーペットの暮らしを体感しながらショールームとしても活用しています。16年にはウールラグブランド「コート」を立ち上げ、全国の家具店や雑貨店で取り扱ってもらっています。18年には本社工場の事務所を大改装し、床全面に自社のウール製定番カーペットを敷き詰めました。オフィスそのものが注目されてメディアに取り上げられることもあり、カーペットも併せて伝えることができます。

 今年末には、モノ作りを伝える個展を開きたいと考えています。

1978年大阪府生まれ。北海道大経済学部卒後、2002年トヨタ自動車入社。08年に堀田カーペット入社。17年2月代表取締役社長。

〈原着ナイロン糸拡充/防汚性タイプも/インビスタ ジャパン〉

 インビスタ ジャパンは、カーペット用原着ナイロン糸「アントロン ルーミナ」のラインアップを拡充している。今年に入って色数を15色増やしたほか、防汚性に優れたタイプも打ち出した。

 カーペット用原着糸は、紡糸工程の前段階で顔料を添加して糸自体に色を付ける。耐光堅ろう度に優れ、デザインの幅も広げられるとして世界で急速に普及している。

 アントロン ルーミナは豊富なカラー展開が強み。新たに加えた新色も含めて全180色を国内に備蓄して販売する。994デシテックス(T)の「ファイン」は83色、1383Tの「スタンダード」は97色をそろえる。

 4月には防汚性を高めた「アントロン ルーミナ ディーエヌエー」を発売。機能材を練り込んだタイプで汚れにくい。

〈海外展へ積極出展/東南アジアで商談進む/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアのインテリア部は、カーペットの輸出拡大へつなげようと、今年1月にドイツで開かれた世界最大級のフロアカバリング国際見本市「ドモテックス」に3年連続で出展した。

 ドモテックスでは「メード・イン・ジャパン」をコンセプトに、桜や紅葉、竹などの日本をイメージさせるデザインを高機能タフト機やプリント機で表現した。特に前回展で要望が多かったプリントカーペットに力を入れ、ドットが0・3㍉と細かく、色数が無制限で細やかなデザインを自在に表現できるデジタルジェットプリント機「クロモジェット800」を活用し、大きな一枚柄をタイルカーペットで違和感なく仕上げてアピールした。海外では、ロールでの大きな一枚柄はあるが、タイルカーペットでは珍しいという。

 3回の出展で引き合いやサンプル出しは多いものの、価格や納期がネックになり本契約には至っていない。ただ海外販売への積極的な取り組み姿勢によって別ルートで東南アジアのインテリア卸との商談が進んでいる。

 同展への出展は今回で一区切りとなるが、海外販売への取り組みは引き続き行う。

〈インターミングル機増設/人員も拡充し需要増に対応/藤井撚糸〉

 カーペット用糸加工を主力とする藤井撚糸(三重県四日市市)は、糸加工のインターミングル機を増設した。フル生産が続いており、さらに今年伸びが見込まれる需要に応える。

 カーペット市場は、首都圏を中心としたオフィスを含む大型再開発案件が数多く進行し、訪日外国人の増加や20年の東京五輪・パラリンピックを受けたホテルの新設・増設ラッシュなどで、コントラクト用床材に追い風が吹いている。

 同社は国内カーペット用ナイロン糸加工の約50%のシェアを持ち、インターミングルに絞ると全体の約3分の2を担う。インターミングルは、2色以上のフィラメントか、性質の異なる複数のフィラメントを撚りを掛けることなく、絡み合わせて集束する。

 藤井由幸会長兼CEOは「ここ半年ほどフル生産が続いており、今年に入ってからも納期の短縮を求められるなどタイト感がある」と言う。「今年の需要のピーク時に(供給に支障をきたさない)使命がある」として増設を決めた。

 2018年末にインターミングル機3台を増設し、1台を更新した。新機を含めて39台(210錘)体制にし、月産50トン増の550トンまで高めた。さらに今年6月にベトナム人、カンボジア人の外国人技能実習生5人を受け入れる予定で600トンまで対応できるようにする。

 同社の事業はナイロン糸加工が6割、ポリプロピレン紡糸が3割、ガラス繊維の撚糸が1割を占める。

〈リサイクル率70%基布/欧米の環境要求に対応/フロイデンベルグ〉

 独フロイデンベルググループでカーペット基布大手のフロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパンは、アジアでリサイクル比率70%の基布を販売している。

 同社によると、欧米では既に非塩ビバッキングが主流になりつつあり、タイルカーペット全体でのリサイクル比率も非常に高くなっていると言う。

 「全体量からすると比率は小さいが、基布への環境面での要求も数年前から現実となっている。アジアにある欧米系タイルカーペットメーカーからは欧米と同様の要求がある」と言う。その要求に応えるため、リサイクル比率70%の基布の販売のほか、100%リサイクル品の技術も確立している。

 社内のリサイクル設備で、社内端材や産業廃棄物をポリエステルチップに再生できる設備も導入しており、カーペット以外の用途の製品では既にGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)の認証も取得している。

〈中国・上海で「ドモテックスアジア」/巨大市場の開拓にアクセル/カーペット・素材大手が出展〉

 アジア最大級の床材見本市「ドモテックスアジア/チャイナフロア」が3月26~28日、中国の上海新国際博覧センターで開かれた。出展者は成長する巨大市場の開拓に向け、アクセルを踏んでいる。

 タイルカーペットメーカーの東リは、高品質の日本製をアピール。中国では大手不動産デベロッパーが差別化のため、海外製カーペットを採用するようになっている。その恩恵を受け、年率2桁%で内販の売り上げを伸ばしている。

 ポリエステルスパンボンド不織布(SB)大手のユニチカは、タイ・ユニチカ・スパンボンド(タスコ)のカーペット基布用と自動車部材用をパネルで紹介。吉村哲也・上席執行役員不織布事業部長は「我々のSBにとって、中国は欧米とともにグローバル展開の核となる市場」と話す。

 フロイデンベルググループのブースはパネルもなく、テーブルと椅子だけのシンプルな構成で、顧客との交流に徹した。内販は、カーペット基布用SBが好調を維持する一方、自動車部材用は現地の完成車メーカーの生産調整の影響を受け、伸びが鈍化している。

 英国の高機能繊維メーカー、ロー・アンド・ボナー(L&B)は、中国子会社の博納高性能材料〈常州〉(江蘇省)が生産する複合紡糸SBのカーペット基布や人工芝、壁紙用途を訴求。同社はSBメーカー大手の中で内販では後発。13年に参入し、輸入品の販売を始め、15年に常州の新工場を稼働、17年から常州工場製の販売に乗り出した。