特集ニット(1)/苦境にこそ真価を見せる/海外、国内ともに不透明さ増す
2020年05月13日 (水曜日)
国内の横編み、丸編み地製造業は、それぞれの強みを生かした事業領域拡大に取り組んでいる。高い独自性を生かしたファッション衣料用途だけでなく、機能性を生かしたスポーツ、作業服での採用も広がる。新型コロナウイルスの感染拡大によって、経済活動が世界的に停滞する中でも将来を見据えた模索が続いている。
ここ数年、独自性の高い編み地を製造する製造卸は独自に海外販路を開拓する動きを強めている。
欧州のプルミエール・ヴィジョン・パリやミラノ・ウニカのほか、米国の展示会へ出展する企業が目立ち、著名メゾンへの採用が広がるなど一定の成果を上げつつある。
2020年も2月ごろまでは、その流れが継続していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が出始めてからは状況が一変した。
カネマサ莫大小(和歌山市)の百間谷和紀社長は、「ここまでの受注分の納品はできたが、欧州各国の市場が閉鎖されていることもあり、おそらく製品になることはないのでは」と話す。結果、来年の商談も大きな影響を受けると見通す。
森下メリヤス工場(和歌山県紀の川市)の森下展行社長も、「海外市場向けは3、4月の商談が止まった状態で、実績は落ちるだろう」と指摘する。ただし、「ここに来て、イタリア、中国の客先からは、バルクオーダーが入りはじめ、多少は明るい兆しが見えてきた」と早期回復への期待感も出てきたようだ。
一方で、国内向け市場はいまだに不透明感が濃い。
今城メリヤス(和歌山市)では、春分の日(3月20日)前後の3連休まで、自社ブランド品を中心に商談は比較的活発だった。3月下旬から大都市圏の移動自粛が呼び掛けられるようになって以降は、対面での商談が難しくなった。
今城満夫会長は、「今秋冬の提案が西日本ではできたが、東日本で難しくなった」と指摘する。電話や写真データのやりとりでのフォローを進めるが、「できていたことができなくなる影響は大きい」と不安を語る。
20秋冬について、森下メリヤス工場の森下社長も、「5月以降、オーダーの減少を予測している。先行きの不透明感は、かなり強い」と話す。
厳しさが増す中、編み地製造関連業では、市中で不足するマスクを製造するケースが目立った。ネット通販など直販ルートを活用する事例や行政や地元自治体の要請に応える形で緊急避難的に行われたケースなどさまざまだが、自社が持つ柔軟な製造リソースを有効に生かせたようだ。
産業資材など、衣料品以外に用途を広げることでの事業の安定化を模索する企業が複数ある。今回のマスク製販事業のノウハウを奇貨として、次のビジネスモデルにつなげることが期待される。
〈和歌山ニット工業組合/今城満夫理事長/価値のあるブランドに〉
和歌山ニット工業組合は和歌山ニット産地のブランド「WAニット」の知名度向上に向けた動きを進めている。これまでもブランド名を表記した下げ札を組合で作成し、アパレルへの採用拡大を進めたが、現段階では、一部にとどまっている。今城満夫理事長(今城メリヤス会長)は「ブランドの価値が上がらなければ、採用も広がらない」と厳しい目を向ける。現在の取り組みを聞いた。
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現在、製品に縫着する、和歌山ブランドの織りネームの発行を検討しています。この産地で作られた品質保証のネームとする計画です。
それに向け、ネームを縫着する製品が満たす基準作りに着手しています。例えば、編み地の斜行がどの程度まで許容されるのか、安全性を担保するのであれば、どのような染色加工を用いるべきか――などを検討し、ブランドを冠する編み地の規格を統一したいと考えています。
織りネームのデザインはインターネットを通じ、一般から公募する予定です。今夏には詳細を公表できそうです。
さらに、産地ブランドとして、一般消費者にも伝わりやすいブランドストーリーの確立が必要だと感じています。
和歌山ニット産地の低速の編み機だからこそ作れる、希少性の高い編み地は、どのような歴史を経て現代に至ったのか、それを現代に伝えるクラフトマンシップなどは各社各様の個性が打ち出せる要素です。これらを交え、和歌山ニット産地のストーリーを構成していきます。(談)
〈JBKS2020/国内ニット企業が共演〉
日本全国からえりすぐりのニット関連企業が集う展示会「ジャパン・ベストニット・セレクション(JBKS)2020」が、12月8、9の両日に東京都千代田区の東京国際フォーラムで開催される。13回目となる今回はスポーツやユニフォームをはじめとする新たな客層の呼び込みも狙う。
節目の10回展を2017年に終えて新しいステージに突入しているJBKS。昨年の12回展は来場者数が11回展と比べると減少したものの、「社数自体は大きく減っていない。(採用の)決定権を持つ人はきちんと来場した」(JBKS実行委員会)とするなど、確かな成果を残している。
ただ流通構造は大きく変わり、新型コロナウイルス禍も繊維業界に大きな変化をもたらすと言われている。JBKSに新たな形が求められているのも事実であり、JBKS2020ではスポーツやアウトドア、ユニフォーム関連など、これまで接点が少なかった分野とのつながりを強める。共通テーマによるトレンドブースの設置も検討する。
出展社数は60社を予定。各社の開発力や企画力は着実に高まり、ブースのクオリティーも上がっている。今年も国内ニット企業の共演から目が離せそうにない。




