大手紡績の2020年度業績予想/新型コロナで見通し立たず/事業継続、雇用維持を最優先

2020年05月26日 (火曜日)

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で経済活動が停滞する中、大手紡績も2020年度業績予想を現段階では未定とする企業が大半となるなど見通しが立たなくなっている。今後、新型コロナの経済への悪影響が本格化する可能性も高く、各社とも20年度は事業継続と雇用維持などを最優先する“守り”の事業運営が重要になりそうだ。

 20年は現在まで新型コロナの感染拡大防止のため欧米や日本、アジア各国でのロックダウン(都市封鎖)や行動制限・自粛が実施され、工場の操業停止や小売店の休業など生産・消費がともに停滞する異常な経済情勢となった。繊維を含む多くの産業セクターで需要急減に見舞われる可能性が高まる。

 このため大手綿紡績の20年度業績予想も、21年3月期決算の企業ではダイワボウホールディングス(HD)、クラボウ、シキボウ、富士紡HD、日東紡がいずれも現段階での合理的な算出が困難として未定とした。12月決算の日清紡HDは19年12月期決算段階で20年12月期業績予想を発表しており、20年1~3月期決算段階でも予想修正しなかったものの新型コロナの影響が判明すれば速やかに修正するとした。

 毛紡績では11月決算のニッケ、12月決算のトーア紡コーポレーションともに20年度の業績予想を発表しているが、その後に新型コロナのパンデミックが本格的に拡大したことで予想の前提条件が大きく変化している可能性がある。

 今後の見通しが立たない中で、クラボウの藤田晴哉社長は「今期は従業員とその家族の安全を第一に考えなければならない」と感染防止策の徹底を強調。自動車関連などを中心に受注急減に見舞われる可能性もあることから「その場合は雇用調整助成金など政府の制度を活用し、雇用の維持に努める」と話す。トーア紡コーポレーションの長井渡社長も「自動車関連は受注大幅減少の可能性がある。場合によっては雇用調整成助成金の活用も検討する」と話すなど、各社とも事業継続と雇用維持を最優先する。

 抗ウイルス加工など新型コロナを背景に需要拡大が見込める商材の拡販も今期の重要テーマになる。「需要が回復した段階で迅速に商品を供給できるよう提案活動を継続することが必要」(大和紡績)となり、ウェブ会議などを活用した商談の重要性も高まった。

 その上で「グループ全体で危機に応じた財務対応を講じ、経営に支障が生じないよう手配している。外出を控えるという環境下で需要が拡大しているビジネスもある」(ニッケ)と言うように財務対応力や事業多角化によるリスク分散も問われることになりそうだ。