産資・不織布通信(37)/東洋紡/3年後のフル操業目指す「ザイロン」

2020年06月01日 (月曜日)

 「ザイロン」の名前で広く知られているPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維は、1970年代の後半に米国空軍の手によって開発されたスーパー繊維だ。現存している有機繊維の中で最高レベルの強度と弾性率、耐熱性、難燃性という特徴を持っている。

 開発されて以降、商業生産はなかなか進まなかったが、90年代に入って東洋紡と米国大手化学会社が共同研究を始め、98年に東洋紡が世界で初めて商業生産・販売に単独で成功する。当初は防弾チョッキが主用途だったが、現在は耐熱資材や消防服、レーシングカーの車体などに使われている。

 東洋紡によると、同社の生産量は年間約200トンで、顧客は200社を数えるという。販売数量は「年によって変動があるものの、安定して利益が出せる事業に育っている」と話す。2019年度(20年3月期)については前年度を20%上回る販売となるなど、「良い1年だった」と振り返る。

 下支えしたのは自転車のチューブレスタイヤ用途。ザイロンの特徴の一つである弾性率などが高く評価され、イタリアのタイヤメーカーが採用した。19年度の20%増販の半分程度はチューブレスタイヤの伸長が寄与し、ザイロン全体の約10%を同用途が占める。

 ザイロンのチューブレスタイヤはロードバイクに使われているが、レース用ではなく、趣味として一般的に乗られるタイプ。健康志向の高まりや自転車人気を追い風に継続的な伸びを期待していたが、新型コロナウイルスの世界的流行が水を差した。チューブレスタイヤ用途の需要は激減し、他の用途も伸び悩む。

 こうしたことから20年度は大きな成長は見込めないとしている。ただ、期待できる用途・分野もあり、消防服がその一つ。大手化学メーカーであるデュポン社(米国)の日本法人、デュポン・スペシャルティ・プロダクツに短繊維を独占的に供給することで合意に達し、今年4月から本格展開を開始している。

 世界の消防服市場は中国やインドで拡大していることから成長が予想されている。ザイロンの活用によって軽量性と遮熱性を両立した次世代の消防服が供給できる。東洋紡は「デュポン・スペシャルティ・プロダクツに独占供給することで消防服の高性能化につなげ、消防士の安全確保に貢献する」と語る。

 現在のザイロンの稼働は7割程度で推移しており、23年度にはフル操業を目指したいとした。欧米諸国には競合相手が少なく、中長期的にも欧米市場などでの拡販を中心に成長を図る。