繊維ニュース

旭化成/中計2年目も着実な前進を/先手を打ち企業価値向上

2020年06月18日 (木曜日)

 中期経営計画「Cs+ for Tomorrow(シーズプラス・フォー・トゥモロー)2021」を推進中の旭化成。新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済は混迷の色を濃くしているが、小堀秀毅社長は「先手を打って行動することで企業価値向上につなげる」と前向きな姿勢を崩さない。中計2年目の2020年度(21年3月期)も着実に歩を進める。

 「シーズプラス・フォー・トゥモロー2021」は、19年度(20年3月期)を初年度とする3カ年の中期経営計画。計数目標を改めて見ると、最終の22年3月期連結業績を売上高2兆4千億円と営業利益2400億円に設定。設備投資・投融資は3年間で約8千億円を実施する。26年3月期に売上高3兆円、営業利益3千億円以上という展望も掲げた。

 具体的には「Environment&Energy」「Mobility」「LifeMaterial」「Home&Living」「HealthCare」の五つの分野で成長戦略を加速する。設備投資・投融資額(M&Aを含む)の8千億円は前中計「シーズ・フォー・トゥモロー2018」の6700億円を大きく上回るなど、成長のための積極投資のスタンスを維持する。

 初年度の20年3月期連結決算は売上高2兆1516億円(前期比0・9%減)、営業利益1772億円(15・4%減)、経常利益1840億円(16・4%減)、純利益1039億円(29・5%減)で減収減益だった。中国市場の成長鈍化や自動車産業の減速、新型コロナウイルス禍による世界経済悪化の影響を受けた。

 新型コロナ感染拡大に伴う世界経済へのインパクトは大きく、中計2年目の21年3月期業績についても合理的に算定することが困難として未定とした(5月12日決算発表時点)。中計最終年度の計数計画の見直しもあり得るが、小堀社長は「目標数字を降ろすのではない。環境変化を見据えながら中身を変える」と言葉を強める。

 かじ取りが難しい経営環境にさらされているが、視線は前を向いている。売上高、利益とも18年度の実績を下回った19年度だが、4千億円以上の投資(設備投資、M&Aなどの投融資)を意思決定した。前中計の年平均が2千億円強だったことを考えても積極性が伝わってくる。

 新型コロナ禍がいつ終息し、どれほどの影響を残すかは不明だが、現中計の基本的な考え方は堅持しながら、社会全体の革新の機会と認識し大きな変化に対して自発的に行動する。業績については三つの領域で展開する事業ポートフォリオが奏功し、「住宅」「ヘルスケア」が安定的に収益を創出することで健全な財務基盤は維持できるとしている。

 現中計の実行スタンスについては、小堀社長が5月25日のオンライン会見で説明。事業環境変化を好機と捉え、「多様性と変革力で先手を打ち企業価値の向上につなげる」と語った。短中期的に需要減退の可能性があるとするモビリティーや衣料向け繊維も「抗菌やヘルスケア関連などに目を向ければ伸ばすことができる」との考えを示した。

〈構造変化をチャンスに〉

 オンライン会見で小堀社長が強調したのは「現状が革新の機会である」こと。「Environment&Energy」「Mobility」「LifeMaterial」「Home&Living」「HealthCare」の五つの価値提供注力分野で、新型コロナによる非連続で不可逆な構造変化を想定した上で、強みである「多様性」と「変革力」で先手を打つ。

 その一環となる財務規律の徹底では「投資案件の厳選」「投資効率管理」に重きを置く。体質強化では「ポートフォリオ転換の加速」「全社横断的なコスト削減」を図り、将来変化に向けた変革推進では「サステイナビリティー(持続可能性)への貢献」「新トレンド、構造変化へ向けた取り組み」に力を入れる。

 価値提供注力5分野の経営環境見通しについても言及した。新型コロナの影響は一様ではなく、マーケットニーズのトレンドを的確につかむ。

 短中期の需要は、ヘルスケアや5G向け電子材料で堅調・成長が見込めるとした一方で、モビリティーや衣料向け繊維は減退の可能性があるとした。住宅関連と環境エネルギーでは需要影響を注視する。

 そのような環境下で、グループの経営リソースをヘルスケア領域に優先投入して成長を加速させる。クリティカルケア事業領域をこれまで以上に深耕するほか、北米展開の推進で第3の柱へ育てる。「Home&Living」や「Environment&Energy」は生産性向上で影響の低減を図る。

 「Mobility」と「LifeMaterial(繊維関連)」は、コネクテッドの「C」、自動運転の「A」、シェアリングの「S」、電動化の「E」を組み合わせた造語「CASE」の進展加速、衛生材料へのニーズの高まりなどの構造変化をチャンスと捉える。高付加価値品へのポートフォリオ転換加速、キーカスタマーへのマーケティング強化などを進める。

〈皆と一緒に働く企業へ〉

 持続的な成長に向けた事業基盤づくりにも力を入れる。コネクトやケア、コンプライアンス、コミュニケーション、チャレンジといった多様な“C”によって基盤を構築するが、その中でもニューノーマル(新常態)における従業員のための環境づくり(コミュニケーション)や事業高度化(チャレンジ)に重点的に取り組み、生産性アップに結び付ける。

 世界的な問題である新型コロナに対する主な貢献では、表面材用スパンボンド不織布が医療用ガウンに、面材・ふち材用のスパンボンド不織布がマスクに、セルロース不織布は消毒ワイパーに用いられている。人工呼吸器は月産400台から1万台への対応を段階的に進め、治療薬関連についても可能性を探っている。

 コミュニケーションでは、ニューノーマルにおいて従業員が活躍できる環境の整備に加えて、ワーク・エンゲージメントを向上させるためのマネジメント力の強化に取り組む。さまざまな社員が活躍することでチームとして成果を創出し、社員一人一人の働きがいや充実感を高める。

 自分たちの業務が、世界の人々の“いのち”と“くらし”に貢献していることを意識することでモチベーションアップを図る。こうした取り組みによって「働かなければならないI have to work」から「皆と一緒に働きたいWe want to work together」に変える。

 重視しているサステイナビリティーでは、温室効果ガス(GHG)削減の加速、プラスチック問題への取り組み、環境貢献製品(イオン交換膜法食塩電解プロセス)の選定、国際的なイニシアチブへの参加などを推進している。健康経営担当役員の任命や健康経営宣言、ホワイト物流宣言なども行った。

 繊維関連に目を向けると、繊維事業全体ではなく、地域を含めて個別の判断が求められるとした。キュプラ繊維「ベンベルグ」はインドが都市封鎖(ロックダウン)を行ったことで民族衣装の需要が減少しているが、自動車関連ではカーシートなどで殺菌・抗菌のニーズが高まるとみている。不織布もマスクや衛材関連で伸長の可能性があると語った。