2020夏季総合特集(4)/コロナショックに負けない/クラウドファンディングが拡大する

2020年07月20日 (月曜日)

 クラウドファンディングは商品購入の一手段として消費者に定着しつつある。商品を供給する側にとっても、消費者からの反応を直接受けることができ、ニーズをつかむ機会も得られる。こうしたメリットに着目し、新たな販路を切り開こうとする事例を紹介する。

〈豊島/若手社員有志が企画運営/良質な製品を無駄なく届ける〉

 豊島は2019年から、クラウドファンディング(CF)サービス「マクアケ」を活用して、個性的な商品を消費者に直接提案している。CFを通じ、消費者に良質な製品の魅力を素材から理解してもらおうと、アパレル製品だけでなく生活雑貨なども販売する。

 CF事業を運営するのは、30歳前後の若手社員11人で、「新しいことを始めよう」という発案者の呼び掛けに応じ、組織の垣根を越えて集まった。

 大量生産・大量消費のビジネスモデルが見直しを迫られる中、良質な商品を必要な量だけ消費者に届ける手段としてCFを選んだ。中でも、マクアケは買い物ツールとしてのイメージが消費者に定着しているため、事業構想に合致したという。

 企画メンバーは各自の日常業務をこなしながら、会員制交流サイト(SNS)で情報を交換している。月に一度、会議を開き、商品構成の方向性を固めていく。

 商品を企画する上で、無駄のない生産、ストーリーのある製品、豊島ならではの素材、を基本方針に置いた。この方針に沿って作り出した第1弾の「365デーズ・ウール」「360度ストレッチパンツ」、旅行用枕「とりぴ郎」の3品を昨年末に発売し、CF事業を始動させた。

 以降、食品廃棄物を再利用する豊島のプロジェクト「フードテキスタイル」と連動させた商品など、独自性が高い企画を生み出してきた。マスクを出品すると、予想を大幅に上回る申し込みを受けた例もある。

 「商品の説明文や写真を用意するのにも一苦労だった」と当初を振り返る企画メンバーの田畑啓さん。ここまで手探りで事業を進めてきたが、今は販売が軌道に乗った手応えを感じている。一方で「品ぞろえがTシャツなどに偏ってしまう」と課題も浮上した。

 まだ試行錯誤が続くが、若手社員の自発的な挑戦は、社内を活気付ける効果をもたらしているという。田畑さんらメンバーも「消費者の声を聞ける経験は大きい。化粧品などアパレル以外の商品も扱いたい」と意気込む。

〈山陽染工/CFで自社の技術力発信/製品ブランド立ち上げ市場開拓〉

 染色加工の山陽染工(広島県福山市)は、独自の技術を生かした製品でクラウドファンディング(CF)に挑戦している。戸板一平取締役は「当社の技術力、そして国内のモノ作りの良さを、CFを通して発信していきたい」と話す。

 同社は受託加工がメインだが、2013年から、同社の加工と他社の生地や技術とをコラボレーションさせた商品の展開を行う「クロス・サンヨー」の取り組みを本格化してきた。その中で、「さらに当社の技術を一般層へ向けて発信していきたい」という思いから18年にCFに初挑戦した。

 CFでは、部分的に色の抜け具合を変えることで濃淡を表現する「段落ち抜染」の技術を落とし込んだ製品を展開する。1回目のCFでは、シューズメーカーのスピングルカンパニー(広島県府中市)とコラボレーションし、段落ち抜染加工を施したデニムを使ったスニーカーをCFサイト「マクアケ」に出品。開始から1~2日で目標に掲げていた50万円を上回り、最終的に201万円の支援が集まった。

 その後も、デニムのジャケット・パンツや、グループ会社の中国紡織(福山市)が製造する刺し子風デニムを採用したジャケットなど、コンスタントにCFに取り組んでおり、いずれも目標金額を上回る支援を得た。昨夏には製品ブランド「バッセンワークス」も立ち上げ、商品の拡充と発信を進めている。

 戸板取締役は「知名度が上がったことに加え、製品まで手掛けるようになったことで今まで接点のなかった企業とのつながりができた」と話す。CFについて「テストマーケティングができるほか、集まった情報は本業の染色加工における提案の参考になる」と指摘する。

 今後も1年に3~4回はCFで新商品を打ち出す。併せて製品事業部の立ち上げも計画しており、リアル店舗と通販サイトの両輪で販売を広げる。