2020夏季総合特集(7)/コロナショックに負けない/事例研究/検査機関の戦略

2020年07月20日 (月曜日)

 新型コロナウイルス禍は検査機関の業務に影響を与えた。しかし、従来の組織・体制を強化することで第2波・3波に備える動きもある。コロナに対応する検査機関の動きを紹介する。

〈カケン/マスクなど試験依頼殺到/BCPも検討課題〉

 カケンテストセンター(カケン)は新型コロナウイルス禍の影響について「国内は生地や製品の検査が落ち込んだ。6月は前月より回復が見られるが、元の状態ではない。テレワークなどで顧客が試験依頼を出しにくいこともある」と説明する。

 海外事業所は中国が2月に稼働できなかったが、3月から順次回復している。好調なベトナムも依頼は減退した。バングラデシュは6月1日に再開したが、日本人駐在員が戻れない状況が続く。インドのバンガロール事務所は6月15日に再開した。試験を受け付け、香港に送って検査する。駐在員1人は現地に残っているが、増員予定の1人は渡航できていない。

 試験面では大阪事業所で行うマスク関連の試験(バクテリア飛沫〔ひまつ〕捕集効率、ウイルス飛沫捕集効率〈VFE〉試験など)に依頼が殺到した。VFEはカケンが開発した独自のもので、マスクや医療用ガウンを含めて世界中から問い合わせが来ている。抗ウイルス性試験もキャパシティーを超える依頼が続いている。

 「VFEや抗ウイルス性だけでなく、抗菌性や抗かび性試験など衛生関連は新型コロナ後も需要が続く」とみる。海外からの依頼もあり、試験所・校正機関の能力に関する一般要求事項の国際標準規格ISO17025の取得に向けて動いている。

 衛生関連の試験は繊維だけではない。建材、プラスチック、カーテンなどの依頼もあり、異業種の新規顧客が増えている。

 「コロナ対策のテレワークで、できることと、できないことが分かった」。今後はコロナ第2波への懸念だけでなく、災害などの非常事態も予想される。このため、「BCP(事業継続計画)も検討」している。大阪事業所でしかできない試験をどうするかといった分散化も課題である。

 生産性向上もカケンの中期計画のテーマだ。自動化できる部分とできない部分もあるが、「取り組んでいく」と言う。

〈QTEC/抗菌、抗ウイルスに対応/医療用ガウン、防護服も〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は新型コロナ禍で、これまでの体制の改善点を見つけた。バングラデシュのダッカ試験センターは日本人スタッフが日本に戻っており、現地スタッフだけの体制。感染拡大で渡航できないためだ。

 「現在はリモートワークで対応。現地スタッフを育成中だが、新型コロナ後は現地化をさらに進めたい」と言う。

 国内ではこの間、出勤率30%を徹底した。このため、業務の停滞を招いた側面もある。東部事業所はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、業務の自動化、効率化を図る。その一方で、第2波に備え、地方の事業所、試験センターの役割強化、業務の分散化に取り組んでいく。

 新型コロナ禍で試験業務は厳しいが、抗菌性、抗ウイルス性の試験依頼は多い。「今後はシェアビジネスも増える。衛生や抗菌へのニーズも高まっていく。シェアビジネスに必要な衛生の仕様書などもアドバイスしていく」とする。

 花粉やダニに付着したタンパク質による繊維製品の抗アレルギー評価方法についても取り組んでいる。羽毛試験ではダウンフェザーの汚れだけでなく、菌の測定法も確立した。

 医療用のガウンや防護服の性能試験も行う。JISの光散乱方式による粒子濃度測定だけでなく、ISOの炎光光度計法も可能。QTECは英国のノウハウを取得し、独自機械も開発した。

 化学防護服は浮遊個体粉じん浸透性や耐液体浸透性などが要求される。医療用ガウンでは衝撃透過性なども必要。こうした防護性能を評価するための試験を行い、「医療用ガウンや防護服の試験をホームページで紹介。問い合わせが殺到している」ようだ。

 SDGs(持続可能な開発目標)関連では東京と上海でCSR(企業の社会的責任)監査業務を開始し、外国人技能実習生問題も改善する。

〈ニッセンケン/目に見えない安全で貢献/ZDHC適合証明発行〉

 ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)は新型コロナウイルス感染による自粛要請で、テレワーク、時差出勤、交代勤務などを組み合わせた業務で対応してきた。海外ではインドとバングラデシュの事業所から日本人は戻り、リモートワークで業務を行う。「インドは日本向けが減っているが、インド国内の試験機関が稼働停止。欧州向けのISO試験依頼が増えている」と言う。

 中国での事業も影響は大きい。「2月の試験は完全にストップ。3月から動き出した」。しかし、仕事量は前年を下回っている。好調なのは「マスクや抗菌性試験」である。ベトナムは現状維持の状況。検品関係は縫製工場が素材を調達できないと、業務につながらない。

 そうした中でエコテックス事業は落ち込んでいない。エコテックススタンダード100認証だけでなく、素材の安全性や生産地を示せるトレーサビリティー証明「メイドイングリーン」への関心が高くなった。「アフターコロナでは、ますますサプライチェーンの安全性のトレーサビリティーが重要視される」とみる。

 地球環境が破壊されている。「目に見える破壊だけでなく、有害化学物質のように見えない人体や環境への破壊もある。そうした分野で貢献していく」。ニッセンケンはエコテックス事業に加え、ZDHC(有害化学物質ゼロ)ゲートウェイ・ケミカルモジュールで、MRSL(製造時規制物質リスト)適合を評価する試験機関に認定されている。6月にはユケンケミカル(愛媛県今治市)の化学薬剤3点を試験し、適合証明を発行した。

 厚生労働省登録検査機関として化粧品などの定量試験も実施。新型コロナ禍ではオンラインシステムを利用した無料のコンサルティングサービス「クオリティ・コンシェルジュ・サービス」(QCS)を開始した。外出自粛の中で、品質向上に関わるサポートを行う。