東レ/繊維事業を原動力に中経推進/価値共創で持続的成長を

2020年07月29日 (水曜日)

 東レは、2020年度(21年3月期)を初年度とする中期経営課題“プロジェクト AP―G 2022”を始動した。中経を推進する上で原動力となる繊維事業は、不織布や人工皮革、エアバッグ、製品一貫型事業など五つを軸に強化を図り、3年間で売上収益1兆300億円、事業利益760億円の事業体に育成する。次のステージとして事業利益1千億円への到達も視野に入れる。

 東レの繊維事業は、連結売上高と連結営業利益で共に全社の約4割(2020年3月期実績)を占める中核事業だ。長期にわたる研究・技術開発の蓄積によるナイロン、ポリエステル、高機能繊維などの多彩な素材群と、糸・わた、テキスタイル、縫製品までの幅広い対応力、さらにそれらのグローバルな供給体制により、顧客の評価を獲得している。

 繊維事業の業績は着実に伸び、売上高は長期経営ビジョン“AP―Growth TORAY 2020”がスタートした2011年度からの8年間で約2400億円拡大し、19年度は8831億円に達した。営業利益も11年度比約150億円増の607億円を確保した。

 19年度が最終年度となった前中期経営課題AP―G 2019では、「事業体質・競争力強化」「成長分野での事業拡大」「グローバル事業拡大・高度化」「新事業創出戦略」「ビジネスモデル高度化」「組織と要員、人材の確保と育成」を主要課題に設定。さまざまな施策を実行し、確実に成果を収めた。

〈成長分野・成長地域で〉

 20年度に始動した新中期経営課題AP―G 2022では、たゆまぬ事業体質強化と成長分野・地域での事業拡大、差別化戦略推進とサステナビリティへの対応による繊維事業収益の拡大――を基本方針に掲げる。

 その基本方針の下、「成長分野・成長領域でのグローバル事業拡大」、繊維GR(グリーンイノベーション)素材・LI(ライフイノベーション)素材の拡大による「サステナビリティへの対応による事業拡大」「ビジネスモデルの高度化」を成長ドライバーとして、不織布・人工皮革、エアバッグ、衣料用ファイバー・テキスタイル・縫製一貫型事業の強化に取り組む。これらを「事業体質強化」「事業拡大と高度化を支えるインフラ整備」により下支えする。

 成長分野・成長地域での事業拡大は、不織布事業や人工皮革事業、エアバッグ事業で加速する。不織布事業では、長繊維と短繊維をそれぞれ展開しており、グローバル展開する「世界唯一の長・短総合不織布事業」の構築を目指す。

 長繊維不織布のうち、ポリプロピレンスパンボンドは衛材に、ポリエステルスパンボンドはフィルターに、短繊維不織布は自動車用吸音材で訴求するなど、重点用途での差別化品開発推進と需要拡大地域での拠点拡充で顧客の価値向上に貢献する。

 人工皮革事業は「ウルトラスエード」と「アルカンターラ」の2ブランド戦略を中核に、ブランド価値向上を継続的に推進する。日本発の先端材ブランドの「ウルトラスエード」は、「未来の美しき可能性に向けて進化を続ける」をブランド・プロミスとしてその価値を高める。

 「アルカンターラ」はイタリアマネジメントによる感性と機能の融合と、サステナビリティを特徴とするラグジュアリーブランドとして事業を拡大する。

 エアバッグ事業は、原糸で3極(日本、タイ、メキシコ)と基布で6極(日本、タイ、中国、チェコ、インド、メキシコ)に拠点を持ち、原糸・基布一貫による競争力、全ての拠点から同品質の基布を時機にかなった供給ができる強固な生産・販売体制を強みに事業を行っている。

 さらにスウェーデンのエアバッグ縫製会社アルバ スウェーデンを傘下に収めるなど、サプライチェーン延伸と次世代基布開発の加速によって一貫型モデルを深化させて事業の拡大につなげる。モビリティーの進化で新たな車内空間が求められる中、より快適で高品質な素材でソリューションを提案する。

〈GR・LI事業伸ばす〉

 サステナビリティ対応では、環境配慮型素材(GR事業)の拡大に力点を置く。気候変動や持続可能な循環型資源活用、安全な水・空気、海洋プラスチックごみといった環境問題・課題に対して、暖か素材・清涼素材で温室効果ガス削減に貢献するほか、バイオマス由来素材を強化。2020年代に100%バイオPET繊維の量産も目指す。再生型・循環型リサイクルも積極的に展開。回収ペットボトルを原料にした高付加価値リサイクル繊維の取り組みを「&+(アンドプラス)」のブランドで訴求し、循環型社会の実現を目指す。

 医療・ヘルスケア分野関連素材(LI事業)の展開もサステナビリティ対応の一環となる。医療の質向上・医療現場の負担軽減に資する用途として病院用白衣や患者衣用素材などをそろえる。健康・長寿社会への貢献に向けてはウエアラブル素材「hitoe(ヒトエ)」、人の安全のサポートに貢献する製品として保護服「LIVMOA(リブモア)」などを提案する。

 衣料用繊維事業におけるファイバー・テキスタイル・縫製品一貫型事業ではビジネスモデルの高度化を加速する。その一つとして進めているのがグローバルでバリューチェーンを組み立てる差別化モデルへのシフト。同時に糸・わた、テキスタイル事業も高度化する。

 成長市場に向けた衣料用繊維の一貫型拠点拡充にも力を入れる方針。中国では内需の高度化を捉え、素材・縫製品一貫型サプライチェーンの深化を図る。ASEAN地域では特にベトナムにおけるコンバーティング事業を強化。素材・縫製品一貫型サプライチェーンを拡充する。南アジアでも一貫型サプライチェーンを作り上げ、地産地消に対応する。

 東レの繊維事業の原点である事業体質強化では、たゆまぬ体質強化と競争力強化を継続するとともに、キャッシュ・フローや投下資本効率を意識した事業運営を徹底する。また、グローバル・リエンジニアリング(国内外工場の事業構造改革)を推進する。「事業組織の強化」「スタッフ機能の充実」「要員、人材の確保と育成」にも引き続き取り組む。

〈次ステージの成長に向けて〉

 今後、AP―G 2022における「成長分野・成長領域でのグローバル事業拡大」「サステナビリティへの対応による事業拡大」「ビジネスモデルの高度化」の三つの成長ドライバーに取り組み、繊維事業の強みである「グローバル展開」「素材開発」「バリューチェーン」の三つの軸を重層的に強化することで繊維商品を通じて新たな価値を創造し、顧客と一体となって価値共創することで、持続的成長を目指す。そして、次のステージと位置付ける事業利益1千億円の到達を狙う。