特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(3)/商社編/産地との新たな連携へ

2020年07月30日 (木曜日)

〈北陸支店の人員増強/蝶理〉

 蝶理の繊維事業本部は新型コロナウイルス禍による市場の変化に対応するプロジェクトを通じて産地との取り組みを強化する。新型コロナの第2派に備え、北陸支店の営業担当者を増員して産地とのコミュニケーションを強化する。

 今期は17年ぶりに改編を行い、従来の3本部制を1本部制とした。グローバルに川上から川下まで展開する繊維事業の総合力を結集し、一体化運営で強みを発揮する狙い。

 その一環で、さまざまなプロジェクトを開始した。それぞれの部署が扱う商材は非常に幅広いが、繊維事業全体で共有して展開することで、顧客に最適な商品を提案するとともに、スケールメリットも出して拡販につなげる。「差別化糸」「環境」「縫製」「テキスタイル」「地政学」のほか、新型コロナ禍による変化に対応する「マスク、不織布」「抗ウイルス、抗菌」「健康」「デジタル」などの切り口で展開する。うちデジタルでは産地企業とネットワークでつながった効率的な生産体制構築や、駐在員や現地企業との連携強化によるグローバル展開の拡大などデジタル技術の活用による新しい営業の在り方を目指す。

 産地との関係をさらに深めるため、北陸支店の営業担当者を増員することとした。感染拡大の第2波を見据えての決断でもある。営業担当者は現在1人だが、夏ごろに3人に増やす予定。

〈「住ごもり生活」を展開/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスの繊維事業は今上期、当初計画比20%の減収となる見込み。ジオテキスタイルが堅調など資材用途は横ばいを維持するが、衣料用途が新型コロナウイルス禍の影響を受ける。

 今後は将来に向けた開発を強化するとともに、新型コロナによる市場の変化を見据えた取り組みを強化する。重視する分野の一つがEC(電子商取引)で、巣ごもり需要に対応する商品をそろえる「住ごもり生活(すごもりせいかつ)」の展開を始める。衣料だけでなく、雑貨や寝具など幅広いアイテムをそろえ、B2Cを伸ばす。産地と取り組み、ここで販売する商品の開発を進めていく。

 抗ウイルス加工素材も強化する。資材用で既に展開を始めており、今後は衣料などでも展開していく。

 7~9月以降は、北陸産地とのコミュニケーションを密にして、将来に向けた開発を強化する。「ベンベルグ」「ロイカ」を軸に、サステイナビリティーやエコなどの切り口で、アウター、インナー、スポーツとも開発を強化する。ベンベルグの先染めを中心とする山梨産地との取り組みは、裏地市場が縮小傾向にある中、B2Cでのベンベルグ裏地の認知度向上などを進める。インナーなどでの和歌山産地との取り組みは回復が早い用途の一つとみており、独自商材の開発をさらに強化して、産地活性化につなげる。

〈EC対応を強化/一村産業〉

 一村産業の前3月期は増収増益だったが、4~6月は新型コロナウイルス禍の影響を受けた。7~9月はさらに市場環境が厳しくなるとみて、商流・商品の見直しなどの手を打つ。

 繊維事業の4~6月売上高は同19%減だったが、事業利益は9%増だった。以前から取り組んでいたコストダウンや新販路開拓などの成果が出た。7~9月は最悪の場合で売上高が前年比40%減になる可能性もあるとみて、コストダウン、商流・商品の見直し、経費削減などに取り組む。

 60%を占める国内生産は「先が読めるモノは継続発注していく」と急激に減らすことはしない考え。まずは海外生産分を絞り込んで在庫を適正量に調整する。

 新しい商流の開拓では、特にEC対応を強化する考えで、工業系通販の「モノタロウ」が展開するプライベートブランド(PB)「作業着スーツ」への生地供給が始まった。ビジネススーツの見た目で現場作業に必要な耐久性も備える商品で、2ウエーストレッチ素材「ラクストリーマ」が採用された。今後、PBを展開する企業への生地販売を中心にEC対応を強化していく。

 商品面では、高次加工の幅を広げる。糸加工から製織、染色加工まで各段階に関与して開発する強みを生かして、同社が関与する工程を増やしながら高付加価値化を図る。

〈こだわりの糸で産地支える/ヤギ・山弥織物〉

 ヤギグループのモノ作り拠点の一社である山弥織物(浜松市)は地元の遠州だけでなく、全国の産地に付加価値の高い糸を供給している。綿の細番手強撚糸などこだわったオリジナルの糸作りには定評があり、全国の生地産地を下支えする存在だ。

 社名に織物と付くが撚糸販売を本業とする。元々は傘地の織布工場からスタートしたが、1970年頃から撚糸の展開を始めた。衣料向けを中心としており、糸の売上高に占める割合は織物向け6割、ニット向け4割。農業資材のネットやロープ向けの糸も手掛けている。

 撚り回数や異番手の交撚などこだわった糸作りを長年続けてきた。顧客や紡績工場とパートナーを組みニーズに合った糸を開発し協力工場で生産する。付加価値の高いモノ作りを志向する全国の産地はもちろん、海外の著名ブランドにも糸が採用されるなど評価は高い。

 ただ今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きい。特に5、6月の受注は前年同期比で半分ほどに落ち込んでいる。今後の見通しも明るくないが、よりニッチな需要が高まると予測。石塚新紀社長は「こだわったモノ作りを続け、そうした需要に応えられる体制を作っていきたい」と述べる。

〈サステとトレースを両輪に/豊島〉

 豊島は綿やウール、合繊といったさまざまな原料を使い多彩な糸を販売している。全社的にサステイナビリティーとトレーサビリティーを両輪とした取り組みを進めており、その流れに合致した糸や生地の提案を強化する。

 今年6月からトルコ産オーガニックコットン「トゥルーコットン」の本格的な拡販に乗り出した。トルコ産オーガニックコットン自体は3年ほど前から販売していたが、ブランド価値を高めるためトゥルーコットンと名付けた。生産農場から紡績までの流れを追跡できるトレーサビリティーを確保した素材だ。

 独占契約を結んだトルコの紡績グループ・ウチャクテクスティルが綿花栽培から紡績工程までを一元管理することで、「生産者の顔が明確に見える」というコンセプトを打ち出す。豊島は糸と生地在庫を持ち製品までのニーズに応えるため、全社横断的な取り組みとして進める。

 「フードテキスタイル」は廃棄食材を染料に活用するプロジェクト。豊島が廃棄食材の流通や染色の工程を厳格に管理している。これまでは生地や製品での展開だったが、このほど新たに糸での供給も始めた。杢(もく)糸で6色そろえ備蓄販売する。

 ウールでもリサイクル糸やノンミュールシングウールを使った糸をそろえる。