特集 スポーツ・アウトドア(3)/ポストコロナ、サステイナビリティー推進/素材編

2020年08月04日 (火曜日)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で例年のような展示会を開けない中、素材メーカーでもウェブなどを使ったプロモートを試みる取り組みが目立つ。スポーツ・アウトドアウエア市場では、高機能性に加え、リサイクル素材や天然素材を中心とするサステイナビリティーを訴求する流れが引き続き強い。

〈非フッ素「キューダスXT」打ち出す/東レ〉

 東レは21秋冬向けのスポーツ素材で、サステイナビリティーに配慮した素材群の販促に重点化したい考えで、新たに開発した非フッ素系の撥水(はっすい)加工素材「キューダスXT」を投入するとともに、再生ポリエステル「&+(アンドプラス)」やストレッチ素材「プライムフレックス」による拡販を計画する。

 同社によると、環境に配慮した素材を求めるニーズがここにきて強まっているといい、21秋冬に向けては、環境配慮型の素材に「いかに機能性を付与して提案できるかが鍵を握っている」とみている。

 非フッ素系の撥水剤を使った撥水加工の商品開発に力を入れており、この一環として開発したキューダスXTの販売を21秋冬から開始する。1本1本の糸にシリコン系の撥水剤を強固に付着させてあるため、耐摩耗性に優れているのが特徴。

 アンドプラスはペットボトルのトレーサビリティーにまでこだわって開発した再生ポリエステル。白度を大きく向上させたほか、マイクロタイプや異形断面タイプなどを生産できるのが武器となる。

 ここ数シーズン、プライムフレックスの販売は右肩上がりを続けており、21秋冬では新タイプもラインアップし引き続き拡販を計画する。

〈「エコセンサー」で拡販/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスは21秋冬向けのスポーツ素材で、環境に配慮した全社横断型のプロモート素地群「エコセンサー」の販促、市場浸透に全力を挙げる。

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で例年のようなスポーツ素材展の開催を見送る一方、7月21、22の両日、「エコセンサー ウェブ総合展」を開催しエコセンサーによる各種企画を紹介した。

 同社は「ベンベルグ」や再生スパンデックス「ロイカEF」、同ポリエステル、同ナイロンのようなエコ素材100%で商品化したテキスタイルをひとくくりにする。ブルーサイン、エコテックス認証を取得している染工場で加工した素材群をエコセンサーブランドに統合して打ち出す販促に力を入れている。

 スポーツでは、ダウン向けの軽量極薄織物「インパクト」、透湿防水「ソファンデ」、吸汗速乾「モイステックス」などをエコセンサーとして打ち出している。

 サステイナブルな企画を拡充する一環として、リサイクル糸100%で商品化した水着ブランド「リフィレッシュ」の販売にも乗り出しており、5月から自社の公式サイトを通じ販売をスタートさせている。

〈高機能ニットを拡販/東洋紡STC〉

 東洋紡STCのスポーツアパレル事業部は2019年度、グループ内での商圏移管などがあった影響で減収となったが、利益で前年実績をクリアしたという。

 アイテム別の状況はアウトドア・アスレチックが好調、スクールが前年並み、ゴルフがやや苦戦となった。

 21秋冬に向けては、エコ・サステイナビリティー関連の企画提案を重視。また、新型コロナ禍の影響で「抗菌、抗ウイルスなどが必須のキーワードとして浮上している」とみており、「ナノバリアー」、「ヴァイアブロック」に続く新タイプを開発中。

 各カテゴリーでニット化が進んでいるとみており、販売が好調な「Zシャツ」、「Eシャツ」で培ってきたノウハウを活用し、スポーツでの拡販を目指すとともに、引き合いを集めるスクール、ビジネスへのアプローチを改めて強化する。

 ダウンウエア向けに展開してきた軽量極薄織物「シルファイン」の再開にめどを付けており、6DTX、8DTXによる高品質素材の販売を22春夏から立ち上げる。

 21秋冬向けのグループ総合展の開催は見送ったものの、12月に22春夏向けの総合展開催を計画している。

〈ウェブ展で「スパンドール」/クラレトレーディング〉

 クラレトレーディングは21秋冬向けのスポーツ素材で、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ開発した吸汗速乾「スペースマスター」や抗ピル「パナパック」などに練り込みで機能性を持たせた“抗菌”シリーズ、環境配慮型素材「エコトーク」を打ち出し拡販を目指す。

 同社は7月にスポーツ素材展の開催を計画していたが、新型コロナ禍で見送ることにした。その代わりに、7月21日から23日にかけてウェブ上で行われた米国の「ザ・デジタル・マテリアル・ショー」にクラレグループとして出展。

 現在、開発中のエラストマー使いの新素材「スパンドール」をお披露目した。衝撃吸収性に優れているのが特徴で、これをどう生かせるのか、「顧客とともに共同開発を進めていきたい」としている。

 同社はかねてベトナム生産を駆使した製品OEMで事業拡大に取り組んできた。この取り組みを高度化するため、日本から高機能糸をベトナムに持ち込み現地で製品までを一貫生産するオペレーションを今年後半から本格化させる。

 国内では昇華プリントの増設に意欲を示しており、新型コロナ禍で半年遅れとはなるものの、21年の前半から稼働させることにしている。

〈5千色の原着糸提案/モリリン〉

 モリリンは原着ポリエステル糸「モコフィーロ」の提案に力を入れている。5千色という豊富なカラーバリエーションに加えて色の再現性にも優れる。原着糸の環境負荷を低減した製造工程からサステイナブルな素材として、スポーツやユニフォーム向けに訴求する。

 新規に立ち上げた工場で製造する。同社独自の技術を活用することで豊富な色展開や再現性を実現した。さらに、1色500キロからの小ロットにも対応するほか、これまで原着糸では困難とされてきた杢(もく)調の糸も製造でき顧客の幅広いニーズに応える。

 原着糸であることから色落ちがなく高い堅ろう度を備える。原料段階で染色してあるため水の使用量を抑え、二酸化炭素の発生も抑制。糸だけでなく、生地や製品でも提案する。

〈「エコフレンドリー」で拡販目指す/ユニチカトレ―ディング〉

 ユニチカトレーディングは21秋冬向けのスポーツ素材で、サステイナビリティーに配慮した原料、加工方法を駆使して開発した素材群を重点的にプロモートする。

 同社によると、2019年度の業績は減収減益にとどまったという。韓国で発生した日本品の不買運動の影響を受け、韓国向けの販売がストップしたことが大きな要因になったという。

 21秋冬に向けては、まだ販売には至っていないものの、既に多くの引き合いを集めるサステイナビリティーに配慮した素材、加工を前面に商戦に臨んでいる。

 ケミカルリサイクルを中心とする再生ポリエステル「エコフレンドリー」を全社横断型の戦略素材に位置付けており、スポーツでもエコフレンドリーの市場浸透を目指す。

 スポーツアパレル側でも19年度以降、「エコ素材をかなり意識して企画に取り入れ始めた」と見ており、海洋プラスチック問題の解決に貢献するという「エアーホールドNB」の拡販にも力を入れる。

 同社はインドネシアの生産拠点を駆使した製品OEM事業を強化しており、高機能素材による企画で新規商流の掘り起こしに取り組んでいる。ユーザーからの要望があれば、「ベトナム、中国でも対応する」と言う。

〈持続可能性への要求一段と/レンチング〉

 レンチングは再生セルロース繊維「テンセル」の特性を生かし、スポーツ分野で一段と高まるサステイナビリティーへの要求に応える。得意とするフィットネスウエアやヨガウエアといった分野に加え、シューアッパーでもテンセルの採用拡大を目指す。

 新型コロナウイルス感染拡大でスポーツを取り巻く環境も大きく変化した。“ステイホーム”が求められる中で、室内で行うエクササイズへの注目が高まる。こうした用途はレンチングのテンセルが従来から得意とするものだ。

 一方、“アフターコロナ”においてスポーツ用途はサステイナビリティーへの要求が一段と高まるとの見方が強い。機能性とサステイナビリティーのバランスが重要になる。こうしたトレンドを受け、同社は天然由来原料や循環型製造プロセスによって生産するテンセルの特性を強く打ち出す。ウエア以外の用途への提案も重視。特に近年はシューアッパーでテンセルの採用が拡大傾向にある。このためスポーツシューズも重点分野に位置付ける。

 7~17日にはライフスタイルブランド「プラナ」とタイアップし、テンセル使いTシャツを消費者にプレゼントするプロモーションイベントも実施する。

〈リラクシング×スポーツ/クロスプラス〉

 クロスプラスは“おうち時間”に着目し、リラクシングとスポーツテイストを両立したアクティブなウエアを打ち出す。

 ウィズコロナで生活様式が変化し確実に増加するおうち時間。巣ごもり生活を少しでも充実させるため、ストレッチやヨガといった軽い運動にも適したリラクシングウエアを打ち立てた。同社がライセンス権を持つ「ヘッド」で展開する。

 色使いはアイボリー・ベージュ・黒のモノトーンを軸にスモーキーなピンクとブルーを加える。従来のヘッドはパステルやビビッド系のカラーを差すことが多いが、おうち時間をリラックスして過ごせる配色を意識した。色使いの差別化を図ったことでトレンド感がより一層引き立った。

 素材は表がフラット、裏メッシュで柔らかいソフトプレーンメッシュを使用。高いストレッチ性を保つため着用時のストレスも少なく運動にも適する。エクササイズ時の着用に配慮し吸汗速乾や抗菌防臭といった生地加工も付与した。

 アイテムは6種類。トップスは抜け感のあるドロップショルダーの長袖・半袖Tシャツにフルジップのトラックジャケットで構成する。ボトムは3種類で、ジャケットとセットアップ可能なトラックパンツを軸に据える。ワイドなリラックスパンツと細身のシルエットのヨガパンツもそろえた。

 同社が得意とするトレンドやニーズを迅速に形にする“ひきつけた”企画が顧客の支持を高める。今月末から展開する商品の動向を見ながら冬物の企画を早々に進めるという。ヘッドの基幹テイストであるランニングやストリートテイストと一線を画した新たな切り口として柱に育てる。

〈デルタなど独自品が基軸/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、機能性や質感に優れた生地「デルタ」シリーズとポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」を組み合わせた素材を、21秋冬のスポーツウエア市場に積極提案する。同シーズンでは軽さに焦点を当てた新素材も投入する予定だ。

 テキスタイル第一部の20秋冬向けスポーツ素材販売は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたものの、3月までは“もくろみ”通りに推移した。一方で21春夏は欧米向けと日本国内市場での展開が厳しく、「21秋冬は回復が早かった中国を中心」に巻き返しを図る。

 基軸となるデルタは、緻密でフラットな生地表面とかさ高性を持ち、物性と機能性、質感といった特徴も兼ね備える。豊富なバリエーションがそろい、スポーツウエア市場で幅広く受け入れられている。このデルタシリーズに伸縮性に優れたソロテックスを融合することで快適性を高める。

 21秋冬では高強力糸「パズモ」を使った軽量高密度織物の訴求も強める。パズモの「11デシテックス・10フィラメントという糸種は帝人フロンティアしか生産できない」とし、スポーツやアウトドア、資材関連など多様な用途・分野に打ち出す。

〈薄さに加え伸縮素材にも/YKK「フラットニット」〉

 素材はより軽く、薄く、柔らかいものが選ばれる。ファスナーにもそうした生地へのなじみが要求される。YKKの「フラットニット」は、そんな開発要望から生まれた。

 「フラットニット」とは、コイルファスナーの一種で、ニットテープ製造時に、エレメント(務歯)を編み込んだファスナーである。通常はテープとエレメントを別々に製造した後で、テープにエレメントを縫製する。編み込みにより、柔軟性も約2倍としなやかで、奇麗なシルエットの表現も可能になった。

 薄さと同時にストレッチ素材への追随を要望する声も出てきた。このため、2013年からはファスナーのニットテープを、よりしなやかなBPSテープに替えた「フラットニット エクストラソフト」を販売している。

 通常の№3コイルファスナーに比べ、約20%薄く、約20%軽い。縦方向で約4倍、横方向で約2倍の柔軟度を備え、スポーツ・アウトドア分野、ポケッタブル商品にも引き合いがある。

 現在、YKKでは、スポーツ・アウトドア分野向けに、「フラットニット 止水タイプ(45FKT10 BPS)」を開発しており、今年度中の販売開始を目指している。

〈スタクティカ/Fリーガーがユニ事業〉

 日本フットサルリーグ(Fリーグ)2部、トルエーラ柏所属の山田翔司選手がスポーツユニフォーム事業を始めた。

 山田選手は愛知県出身。大学卒業後サッカーからフットサル選手に転向し現在はトルエーラ柏に所属する。5月から知人と共同で「スタクティカ(STACTICA)」ブランドで昇華プリントユニフォームの取り扱いを開始。手頃な価格設定でオリジナルデザインが具現化できるとあって着実に販売を増やす。

 ボディーの生産とプリントは中国で一貫して行う。新規の注文は5枚から、追加は1枚から対応可。手描きのイメージをもとにユニフォームデザインを決めることも可能だ。カラーは54種類あり文字や番号の書体も豊富。サイズは子供用で100㌢から160㌢、大人用はS~5Lまでそろう。

 山田選手は「唯一無二のユニフォームをそろえて起こる『コト』を提供したい」と話す。ユニフォームをそろえるワクワク感や楽しさに加え、仲間と思いを重ね士気を高める熱い気持ちに寄り添う。

 現在は主にサッカー・フットサル向けのユニフォームを扱う。価格はシャツ・パンツ・ソックスの3点で6800円から。注文やデザインの相談は会員制交流サイト(SNS)のアカウントで受け付ける。デザイン検討の一助となる制作例も多数載せている。

〈ロータス/新型コロナ禍で愛好家増/ランニングシューズ市場が熱い〉

 新型コロナウイルス禍による在宅勤務の普及などを背景に、運動不足解消を目的としたロードランニング、トレールランニング人口が増えている。比例するように拡大するランニングシューズ市場では、専業メーカーによる商品が注目されている。

 米国発のランニングシューズブランド「アルトラ」の日本独占販売代理店ロータス(東京都多摩市)代表を務める福地孝氏。米国で運動生理学を学び、自身もトレーナーとして活動していた経験を持つ。その縁からブランド創業者に知己を得て、2010年の製品発表時には、米国とほぼ同時期に日本での発売を行った。

 現在、国内で展開している「アルトラ」は約20種。主な販路はアウトドアやランニングの専門店と、直営「ストライドラボ」5店。直営は売り上げ構成比で15%程を占め、そのうち半分はEC(電子商取引)で販売する。

 「生涯スポーツとしてのマラソンやジョギングでけがをしない」というのが商品コンセプト。速く走ることではなく、自然な走り方によってランニング障害を防ぐことを目的としている。

 主な特徴はバランスクッションとフットシェイプ。シューズのヒール部分とつま先部分の地面からの高さを同じにすることで、ヒールストライクを減少し着地面積を広げるバランスクッション。正しい姿勢を保ち、関節、腱にかける衝撃を減らし自然な走りを実現できる。フットシェイプデザインでは、足指部分が自然に広がり、リラックスできるようにした。バランスと安定感を得ることができ、着地時のショックを和らげる能力も高まる。商品価格帯は1万3千~2万2千円。

 福地氏は、ウェブセミナーを中心に、顧客と触れ合うことも大切にする。かつては、思ったように販売してくれないとの理由で、大手スポーツ量販店から商品を引き上げたこともある。「ちゃんと商品を理解してくれるファンを少しずつ増やしていきたい」と話す。