特集 差別化ヤーン/社会的要請に応える糸たち

2020年09月03日 (木曜日)

〈新型コロナ禍打開の起爆剤に〉

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって世界各国でロックダウン(都市封鎖)や大規模行動制限が行われるなど世界の姿が一変した。繊維業界も大きな打撃を受ける。一方で新型コロナ禍によって新たな社会的要請も強まった。そうした社会的要請に応える糸が繊維業界では求められている。新型コロナ禍を打開する起爆剤としての期待が高まる。

 新型コロナ禍によって小売店休業や外出自粛で世界的に消費の低迷が深刻化している。繊維も例外ではない。このため繊維産地の稼働率も大幅に低下し、糸の消費量も減少するなど危機的状況に陥った。

 一方、新型コロナ禍を契機に繊維に対する新たな社会的要請も生まれる。清潔や衛生などの要請に応える機能糸への注目が高まる。後加工と異なり、機能糸を採用するだけで機能を持つ生地・製品の開発が可能になることから、特に産地の繊維企業にとっては利便性が高い。衣料品だけでなくレッグウエア、インテリア、雑貨など幅広い用途に採用される可能性が高まった。

 一方、世界的にSDGs(持続可能な開発目標)追求やESG(環境・社会・ガバナンス)重視などの社会的要請も引き続き高まり続けている。こうした要請に応える糸へのニーズも高い。環境負荷を抑えた生産プロセス、生分解性、廃棄時の二酸化炭素排出量抑制などさまざまな特徴を持った糸が求められるようになった。

 こうした糸たちこそ、新型コロナ禍で打撃を受けた繊維業界が復活するための起爆剤となることが期待される。あらゆる繊維素材は、普及の前提として社会的要請が存在する。新型コロナ禍は、現在の社会的要請を顕在化させた。それに応えることが、繊維産業の復活には欠かせない。その有力なツールとして糸の存在感は一段と高まるだろう。注目の差別化ヤーンを紹介する。

〈豊島/サステとトレースを軸に〉

 豊島はサステイナビリティーとトレーサビリティーを軸とした提案を進める。トルコ産オーガニックコットンの「トゥルーコットン」や、廃棄食材を染料に生かした「フードテキスタイル」といった差別化素材をそろえる。

 トゥルーコットンは6月から本格的な拡販に乗り出した。独占契約を結んだトルコの紡績グループ、ウチャクテクスティルが綿花栽培から紡績工程までを一元管理することで徹底したトレーサビリティーを可能とした。

 「生産者の顔が明確に見える」というコンセプトで訴求。トルコ産オーガニックコットン自体は3年ほど前から手掛けていたが、ブランド価値を高めるためトゥルーコットンと名付けた。

 フードテキスタイルは生地や製品だけでの展開だったが、多様な顧客の要望に応えるため糸の展開も始めた。綿100%で計18色のバリエーションがあり、うち12色は備蓄し6色は別注で対応する。

 「さくら」「抹茶」「ブルーベリー」「赤カブ」「ルイボス」(紅茶)「コーヒー」といった6種類の廃棄食材を活用。この6種類をベースに淡色から濃色までの豊富なカラーをそろえる。

 フードテキスタイルも同社管理のもと、染色から紡績、織布、編み立てなどの工程でどのような流通経路を経たのかが分かる仕組みで、徹底したトレーサビリティーを実現している。

〈ヤギ/有機栽培綿でブランド投入〉

 ヤギは糸、生地、製品の垣根なくサステイナビリティーへの取り組みを強めている。その一環として今期から投入して好評を得ているのが、同社が取り扱う数種のオーガニックコットンの総称ブランド「ユナ・イト オーガニック」だ。

 ユナ・イトには、「糸」で「UNITE(つながって)」という思いを込めた。基本的には糸での展開だが、社内連携、グループ間の連携によって生地、最終製品での供給も行う。ブランドロゴを配したタグも用意し、業界だけでなく消費者にまで「本物のオーガニックコットン」を訴求していく。

 原産地はインドがメインだが、他国産のものも一部用意する。単糸で7~80番手クラスを取りそろえ、糸種は現在20数点。備蓄も行い、小口・短納期需要にも応える。

 同社によると既に旺盛な引き合いから成約へと進むケースが多数あり、今後の拡販にも期待をかける。

 同社はオーガニックコットンの国際基準である「GOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)」、国際環境認証の「GRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)」、持続可能な綿花栽培に取り組む「BCI(ベター・コットン・イニシアチブ)」などを取得しており、GOTSに関しては生地での認証取得も間近。全社を挙げてサステイナビリティーに取り組んでおり、糸ではオーガニックコットンだけでなく、生分解性の合繊、再生合繊なども取りそろえている。

〈東洋紡STC/除菌機能高い「アグリーザ」〉

 東洋紡STCは、新型コロナウイルス禍を契機にニーズが急速に高まっている衛生機能糸として、除菌繊維「アグリーザ」を活用した糸を重点提案する。

 アグリーザは銀イオンを活用した高い除菌性能が特徴。このため綿などに少量を混紡するだけで高い抗菌機能を実現することができる。既にタオル用途では綿との混紡糸を「金魚AG」として販売しており、さらにタオル以外でもアウターやインナー、シャツ用途にも広がり始めた。

 新型コロナ禍をきっかけに衛生機能素材へのニーズがさまざまな用途で急速に高まっていることから、インテリアや雑貨、自動車内装材など産業資材といった衣料以外の用途への提案にも力を入れる。原綿自体に機能性があるため後加工が不要で機能に耐久性がある点なども特徴として打ち出す。

 消臭機能糸の提案にも力を入れる。原綿改質で機能を実現した「@デオ」は販売が拡大しており、インターネット販売のヒット商品でも採用されるなど消費者の間で評価が高まる。こちらも原綿改質による機能の耐久性の高さが特徴。洗濯50回後でも機能を確認している。

 新型コロナ禍によって繊維製品の消費が減退する中、特徴の明確な機能糸で需要の掘り起こしに取り組む。

〈シキボウ/「オフコナノ」でCO2排出抑制〉

 シキボウは、燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量を抑制する環境配慮型ポリエステル繊維「オフコナノ」を活用した糸を提案している。廃棄までの環境負荷低減を視野に入れた素材として注目が高まる。

 オフコナノは東京理科大学発のベンチャー企業、アクティブ(千葉県野田市)と連携して開発した。特殊な機能剤をポリエステルに添加することで燃焼時のCO2発生量をレギュラーポリエステルと比べて約60%削減する。フィルムなどでの実績に注目したシキボウが繊維として商品化。ベースとなるポリエステルも再生ポリエステルを採用した。

 ポリエステルはリサイクルが可能だが、繰り返すと劣化して物性が低下するため繊維としてリサイクル回数に限りがある。最終的には焼却処分されるが、この際に大量のCO2が発生する。これに対してオフコナノは原料に再生ポリエステルを使っていることに加え、最終処理となる焼却処分の際にもCO2発生量を減らすことができる。

 こうした特徴を生かし、衣料全般に向けて新タイプの環境配慮型素材として提案する。同社は現在、サステイナブルな繊維素材としてコットンを打ち出す戦略を強めた。これにオフコナノが加わることで、綿と合繊の両素材でサステイナビリティーを追求する。

〈新内外綿/機能糸のアピール強化〉

 新内外綿は機能糸のアピールを強める。10月に開かれるシキボウの展示会と北陸ヤーンフェアで「テンセル」リヨセル・レーヨン混糸「フィラゲン」と綿・ポリエステル混糸「リヨシルバープラスデオ」を投入する。

 フィラゲンは魚の鱗(うろこ)に由来するコラーゲンをレーヨン短繊維に練り込んだわたとリヨセルとの混紡糸で、生地や製品に吸湿発散性、保湿性、消臭、UVカットといった機能をもたらす。糸、生地に加えマスク、Tシャツといった縫製品でも展開する。

 サバヒーという海水魚の鱗由来のコラーゲンペプチドを練り込んだ。レーヨンはブナ材のパルプ、そして機能付加に魚鱗という天然原料を使うため、生分解性があり環境にも優しい。

 一方、リヨシルバープラスデオは13年前に開発したリヨシルバーの進化版だ。2017年にシキボウの抗菌加工ポリエステルを使うことで抗菌、吸水速乾、抗ピリング性もあるリヨシルバープラスに生まれ変わり今年、これにさらに消臭機能が加わった。

 新型コロナウイルス感染症の拡大で清潔・衛生機能を持つ繊維の需要が高まっていることを背景に開発した。綿75%・ポリエステル25%混で消臭機能は綿へのわた加工で付与した。機能は50回洗濯後でも維持されるという。インナー、スポーツカジュアルでの採用を想定する。

〈泉工業/バイオマス原料ラメ糸を開発〉

 ラメ糸製造販売の泉工業(京都府城陽市)は、サステイナビリティーを追求したラメ糸のラインアップを拡充している。このほど、バイオマス原料ナイロンを使用したラメ糸も開発した。

 ラメは樹脂フィルムが使われているが、このほど開発したバイオマス原料ラメ糸は、ラメのフィルムにバイオマス原料ナイロンを採用したもの。透明タイプは完成しており、現在は金属蒸着タイプの開発にも取り組む。

 同社は既にラメにセルロースフィルムを採用した生分解性ラメ糸「エコラメ」も開発しており、バイオマス原料ラメ糸が加わったことでサステイナブルなラメ糸のラインアップが一段と充実した。さらに再生ポリエステルのフィルムを採用したラメ糸の開発にも取り組む。

 現在、欧米のテキスタイル市場ではサステイナブル素材の採用が提案の前提条件となりつつある。このため同社では、主に欧米市場への輸出に取り組む産地のテキスタイルメーカーに対してサステイナブルなラメ糸を提案する。ラメ糸もサステイナブル素材となることで、ファッション性や付加価値を高めたテキスタイルの開発が可能になる。

 北陸ヤーンフェアなど展示会にも積極的に出展し、商品の認知度向上と新規取引の開拓に取り組む。