シリーズ事業戦略/クラボウ/事業モデルを転換へ/存在価値ある事業であり続ける/取締役兼常務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏

2020年09月07日 (月曜日)

 クラボウの繊維事業部は事業モデルの転換に取り組んでいる。従来型の“モノ”消費だけでなく“コト”消費にも対応した商品開発やビジネス形態の構築を進める。新型コロナウイルス禍によって事業環境も激変する中、繊維事業部長である北畠篤取締役兼常務執行役員は「繊維事業が存在価値のある事業であり続けることを目指す」と強調する。

  ――2020年度(21年3月期)は新型コロナ禍で想定外のスタートとなりました。

 やはり影響が大きかったです。今期は元々、昨年の暖冬の影響もあって生地の受注は弱含みでスタートしたのですが、そこに新型コロナ感染症の問題が起こり、春夏に向けたオーダーが止まってしまいました。

 分野別でも、原糸は産地の受注が減少していることで販売量が落ち込みました。ただ、ここに来てやや回復傾向です。特に改質技術によって天然繊維に機能性を付与する「ネイテック」は引き合いが多いです。やはり天然繊維の生分解性への要望が高まる中、そこに機能性をプラスアルファできる点が評価されています。ユニフォーム地も第1四半期(4~6月)は低調でしたが、その後は回復傾向となっています。カジュアルも小売店の休業や営業時間短縮の影響で低調でしたが、こちらも6月以降は秋冬に向けた受注が戻り始めています。モノ作りが停滞したことで、実際に商品が足らなくなっているという実態があります。このため次の春夏に向けた商談も徐々に始まりました。

  ――新型コロナ禍によって事業環境が激変しました。

 新型コロナに限らず、異常気象など想定外の事態が常に起こっています。そういった変化を踏まえた事業戦略や計画を立てることが必要でしょう。実際に“ウィズコロナ”“アフターコロナ”に向けた新しい需要も生まれています。例えば抗ウイルス素材などです。当社には抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」がありますが、注目が急速に高まりました。

 一方、カジュアルなどは従来の形に完全に戻るということはないでしょう。そう考えると、やはりこれまで取り組んできた事業モデルの転換をさらに進めることが重要になります。単純な“モノ”の販売ではなく、“コト”消費にも対応できるビジネスモデルです。そしてそれを可能にする独自技術・商品の開発が欠かせません。こうした流れは、新型コロナによって一段と加速するのではないでしょうか。

  ――下半期に向けた重点戦略は。

 原糸はネイテックの引き合いが多いですから、取引先と話し込みながら販売を拡大させます。カットソーを扱う部署があり、クレンゼ使い製品の販売を伸ばしています。インドネシアやベトナムでも加工できる体制を整備しました。ユニフォームは備蓄アパレルとの取り組みを重視しながら、個別の取引先に対応した商品も強化します。防炎素材「ブレバノ」による消防服やクレンゼと撥水(はっすい)加工を組み合わせた防護服などでも新規案件があります

 カジュアルに関しては裁断くずを原料に再利用する「ループラス」を軸に提案を進めます。現在、エドウインをはじめ数社との取り組みがスタートしており、エドウインから供給された裁断くずを原料として再利用したデニムの輸出も決まり始めました。ベトナムでもループラスを生産できる体制を整備しています。

 その他、染色加工の徳島工場(徳島県阿南市)で8月からクレンゼの製品加工も開始しています。今後、さまざまなカジュアルアイテムでクレンゼを活用することができます。中わた素材「エアーフレイク」も原料に再生ポリエステルを使ったタイプを“サステイナブル・インサレーション”として打ち出しています。設備も昨年に増強し、生産能力を2倍に高めました。

  ――こうした取り組みが今後の方向性を示しています。

 繊維事業が存在価値のある事業であり続けることを目指しています。そのためには市場や消費者から必要とされる商品を提案することが不可欠です。サステイナビリティーの追求など社会的責任も果たさなければなりません。そのために他社とも連携しながら取り組みを進めます。その上で、しっかりと利益を確保することが当然の目標となります。利益を確保してこそ、市場や消費者の要望に応えることができるし、社会的責任を持続的に果たすこともできるからです。21年度は中期経営の最終年度です。新型コロナ禍によって状況は大きく変わりましたが、何とか最終年度の目標数値に近づけるところまで業績を回復させるのが今期の目標となります。