特集 アジアの繊維産業Ⅱ(4)/わが社のアジア戦略

2020年09月11日 (金曜日)

〈双日/デジタルツールも活用〉

 双日は新型コロナウイルス禍で受けたアジア事業への影響について「生産に関して、特に中国では春節明けの稼働遅れ、ASEAN地域では中国産部材の入荷遅れなどが発生した。しかし、4月以降は平常通り稼働している」と言う。

 日本向け受注も一時的に減少はあったが、「ほぼ昨年並みに戻せた」という状況にある。中国政府は2月中旬から操業再開の緩和指令を出しており、5月の全国人民代表大会でも経済回復に力を入れる方針を示した。実際、世界の中でも経済回復面で先行している。

 とはいえ、新型コロナ禍は世界的に人の移動を制限している。このため在宅勤務も多い「現地事務所と連携をとり、デジタルツールも活用して対応」を進めている。

 中国でも人の移動制限を受けている。同社の生産は沿岸部中心である。日本の顧客は新型コロナ禍で先が読めない商環境にあり、「今後はQR対応をますます要望してくる」とみている。

 ASEANはこれまで感染者が比較的少なかった。しかし、ベトナム・ダナンでは7月25日に100日ぶりに市中感染が広がるなど、ASEANでも再び警戒感が強まってきた。人の移動、物の移動が制限される可能性があり、「地産地消を推奨していく必要がある」と見込む。特に縫製地内での原料手配ができるよう対応している。

 サステイナビリティーの一環としてCSR(企業の社会的責任)工場監査が求められている。「上海の子会社にCSR専門チームを組織して対応」している。

 「サステイナビリティーは、顧客の要望もあり、サステイナブル素材の使用を推進中。原料だけでなく、在庫リスク軽減のためのQR対応もサステイナビリティー対応であり、その仕組みも検討」しているところだ。

〈日清紡テキスタイル/取り組み型ビジネス重視〉

 日清紡テキスタイルは、紡織のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、シャツ縫製のナイガイシャツインドネシアで環境配慮型生産プロセスの導入を進める。一方、これまで力を入れてきた欧米への輸出は新型コロナウイルス禍で事業環境が大きく変わったとして、個別取引先との取り組みを重視した戦略で臨む。

 同社はこれまでインドネシアで生産するシャツ地を欧米アパレルに販売する“外・外”ビジネスの拡大に力を入れてきた。ただ、新型コロナ禍によって欧米のアパレル・流通が大きな打撃を受けた。村田馨社長は「有力アパレルも破綻するなど欧米市場が今後どうなるのか不透明になってきた」と指摘。このため今後は日本、欧米、ASEAN内需の区別なく、販売先との取り組み型の商談を重視する。「不特定多数を相手にした商談を減らし、原料からのモノ作りで取り組める先とのビジネスを重視する」と話す。

 一方、これまで強化してきた環境配慮型生産プロセスの導入には引き続き力を入れる。このほど次世代の無糊製織技術も開発した。そのほか節水や廃水処理の強化、使用薬剤の削減、二酸化炭素排出量削減、省エネルギーに取り組む。

〈クラボウインターナショナル/各国各様で商量拡大狙う〉

 クラボウインターナショナルは、インドネシアの自家工場で現地スタッフの人材育成に努めるほか、新型コロナウイルス禍の収束後をにらみ、「素材メーカー系商社として素材からの付加価値戦略を追求」(西澤厚彦社長)しながらアジア各国でオペレーション能力の向上に取り組む。

 海外で唯一自家工場を持つインドネシアでは新型コロナ禍で時短操業を強いられ生産効率がやや低下している。この改善のために外注工場のオペレーションを改めて強化するとともに、優秀社員の幹部登用など人材育成に引き続き取り組む。

 ベトナムではクラボウの現地法人クラボウ・ベトナムとの連携を強める。同法人がデニム、パンツ向け布帛、丸編み地などを同国で生産する体制を整えたことに連動するもの。

 バングラデシュは、感染拡大が続くダッカではなくチッタゴンに事務所を置くため新型コロナ禍の影響が軽微。引き続き商量拡大を狙う。

 近年はチャイナ・プラスワンを進めてきたが、「新型コロナ禍を機に日本市場でQR、小ロットのニーズが高まっている」ことから中国縫製の再活用を図る。

 将来をにらみ、特にベトナム、インドネシアからアジア各地域への製品販売の可能性も模索する。

〈澤村/中国事業で第3の柱作る〉

 澤村の中国事業が好調だ。上海法人の2019年12月期は、売上高が前期比15%増となり黒字も確保。累積損失も一掃した。インナー製品事業から撤退し、生地の内販に特化した戦略が奏功している。今後は中国で新たな柱事業創出に取り組むとともに、ベトナム事業の拡大や「市場としてのアジア」を模索する。

 上海法人での生地販売は、日本と中国で生産したトリコットや丸編み地を現地の加工メーカーに販売するもので、最終消費地は欧米のアウトドアブランド。もう一つは、中国の加工メーカーへの医療用サポーター向け生地で、前期の増収にはサポーターの拡大が貢献した。

 この二つの販路が同社中国事業の柱だが、「3本目の柱も必要」とし、提案を強める。新型コロナウイルス禍で不透明感も強まっているため、田中一志執行役員営業本部長代行は「あまり広げすぎないことが重要」と慎重に今後の事業拡大対象を見極めていく考え。

 ベトナムでの事務所、法人設立も計画していたが、新型コロナ禍でとん挫した。ただ、既にドレスシャツ向けトリコットや衣料用裏地などの生産を現地で進めており、今後も拡大を狙う。アジア全域を対象に内販、輸出も模索する。

〈グンゼ/製販両面でアジア戦略加速〉

 ミシン糸を製造販売するグンゼの繊維資材事業部は、「同一品種同一品質」をテーマに生産ロスの低減に努めるともに、アジア全域で販売拡大に取り組む。

 同社は現在、基幹工場である津山グンゼ(岡山県津山市)のほか、中国、ベトナム、インドネシア、バングラデシュに自社工場を持ち、ミシン糸を生産している。対日縫製品生産地の中国シフト、チャイナ・プラスワンの流れに連動して工場を順次建設。今ではミシン糸生産の7~8割が海外生産となっている。

 課題は同一品種同一品質。「どこで買ってもグンゼの品質であることが大事」(岡修也執行役員繊維資材事業部長)とし、品質向上に努めている。具体的には津山グンゼに「カラーセンター」を設置して、海外工場で色のぶれなどが発生した際に瞬時にノウハウや解決策を提示できる体制を敷く。新型コロナウイルス禍で日本人スタッフが渡航できない現状、この機能の重要性がより増しているという。この体制を、ナショナルスタッフの技術向上、人材育成にもつなげる。

 販売についてはインドネシアの不振が課題と見る。そのほか子会社の中央繊維資材での各種資材販売でもアジア展開を加速する。

〈QTEC/コロナで試験依頼が変化〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)のバングラデシュ・ダッカ試験センターは、日本人スタッフが4月2日に退避帰国し、現在は再渡航のタイミングを計っている。現地スタッフが業務に当たっており、報告書の確認などはリモートで対応する。「2カ月半ほど経過し、作業にも慣れてきた。現地職員の成長につながれば」と期待する。

 ただ、8月初旬までは試験依頼も予想通りあったが、21春夏は出遅れ感がある。航空機が減便となり、コスト面も上昇している。

 ベトナム試験センターは、提携先のインターテックベトナムの協力を得て展開。「日本人スタッフもおり、オペレーションは変わっていない。試験量は回復途上」にある。

 中国には5拠点を設ける。新型コロナウイルスの影響はあったが、2月中に営業を再開した。「試験依頼では在宅関係の衣料がいい」と言う。ホームウエアやパジャマ、ニット、丸編み製品などである。その一方で、従来の外出着は型数、ロットが減る傾向にあり、カジュアル化が進む。

 深セン試験センターは、傘、バッグ、靴など雑貨試験も扱う。4月に電子顕微鏡を導入した。毛穴や断面を見ることで、革靴の革鑑別を開始した。

〈日新運輸/カンボジア物流強化〉

 日新運輸(大阪市此花区)はカンボジアで8月から、店舗別アソート(荷物仕分け)サービスを開始した。

 中国やベトナム、ミャンマー、インドネシアなどでは店舗別アソートサービスを既に実施しているが、カンボジアでは初めて。業務提携する現地企業の物流倉庫が完成したことに伴い実現させた。

 通常はアパレル製品をサイズ別にアソートするが、店舗別にすることで、日本に船便が到着してからの仕分け作業よりも低コストとなり、供給スピードも向上する。

 店舗別アソートは多店舗展開するSPAなどで重宝される手法。今回のサービス開始を機に、カンボジアでのアパレル物流受注拡大を狙う。

 同社のアパレル物流は新型コロナウイルス禍で「物量的には例年の7掛けぐらい」と苦戦を強いられている。3月に開設したバングラデシュ・ダッカ事務所も新型コロナ禍で活動休止状態という。ミャンマー・ヤンゴンとバンコクを陸路で結んで輸送期間を大幅に短縮するミャンマー・日本間の輸送サービス「スマートマイロード」も新型コロナ禍の影響で苦戦中。

 今後は新型コロナ禍の状況を注視しつつ日系商社との連携を深めて反転を期すほか、対日だけでなく外・外輸送の拡大にも力を注ぐ。

〈アジア点描〉

 香港では、新型コロナウイルス感染が6月に一時下火になったが、7月から再び拡大している。これを受けて香港政府は、レストランにおける午後6時から翌午前4時59分までの店内飲食の禁止、公共の場での集合制限(2人まで可)、屋内外の公共の場所及び公共交通手段利用時のマスク着用義務付け、サウナ、カラオケ、ジムなどの営業停止などの措置を継続している。