特集 アジアの繊維産業Ⅱ(5)/アジアで新型コロナ禍と戦うカケン/日本市場の回復を期待

2020年09月11日 (金曜日)

 カケンテストセンター(カケン)の海外事業所は機能性を中心とした試験機導入とともに、労働生産性を上げるなどに取り組んできた。ここに来てセミナーを通じた情報提供にも力を注ぐ。それぞれの現地の新型コロナウイルス事情に対応するが、「日本市場が元気にならなければ業務の拡大はない」という点で一致する。カケンの中国、アジアの試験室の現状を追う。

〈上海科懇検験服務/衛生試験関係が増加〉

 中国でCSR工場監査も進める上海科懇検験服務は1~2月に苦戦したが、2月の稼働再開以降は徐々に業務も回復し、現在80~85%の稼働状況にある。「衛生関連の試験や問い合わせは増加しているが、それ以外の試験依頼は減っている」ようだ。

 試験は日本向けが中心のため、今後の見通しは「日本のアパレル市場の回復次第」とみる。現地では「上海国際映画祭」も感染防止策を講じて1カ月遅れで7月末に開催された。街中でマスクを着用する人は1~2割程度に減っている。厳しい時は検温や消毒をして建物に入った。モバイルアプリの「密着検出器」も入れたが、今は「市民の意識はほとんど通常に戻りつつある」と言う。

〈南通分公司/短納期対応の依頼多い〉

 上海科懇検験服務の南通分公司は、春節明けから3月後半まで試験依頼が少なかったが、4~5月は多くなった。日本のゴールデンウイーク明けから停滞したものの、6月後半から再び増加。現在、前年を5%ほど上回る水準に回復している。特に「短納期の依頼が多い」。これは分公司とはいえ、試験設備を備えていることもある。

 最近ではUVカットとストレッチ性の試験機を新たに導入した。新型コロナ禍の中で、「試験の基礎」「試験結果の見方」などを中国語で説明する個別企業セミナーを開催。現在は繁忙期にあるため、セミナーは行っていないが、資料などの更新は進めている。

 「今後も短納期対応は求められていく。その対応を強化する」。南通地区でも新型コロナ禍の収束感があり、「外出でマスクを着用していない人が大半」になってきた。

〈香港検査所/7月からコロナ再燃〉

 香港検査所は「旧正月(春節)明けも試験量は変わらなかった。新型コロナの影響が出てきたのは4月以降」だった。試験の依頼は広東省の企業が多いためだ。南アジアからの試験もあるが、インドやバングラデシュのロックダウン(都市封鎖)の影響が出てきた。

 物流の混乱などの影響もあった。今後の動向が不透明な状況である。「6月に新型コロナの感染は一時下火になったが、7月から再び感染が拡大しており、在宅勤務の会社が増えた。経済活動も停滞」している。

 日本向けが中心だが、「欧米系のオーダーを受けている検査機関は、経済的な制裁を見越して受注が減っていると聞く」。ベトナム・ハノイからの試験依頼も受けるが、香港のオフィスが在宅勤務で閉まり、試験を一時的にベトナム試験室で対応している。新たな試験設備の導入は「香港情勢もあり、様子見」している。

 昨年の民主化への抗議デモが激しかった時期は、スタッフも半分ほどしか出勤できなかった。「今はデモの危険性は減っているが、政治リスクを判断して対応していく」と言う。

 「マスクの着用は100%。旧正月明けは香港でもマスク、トイレットペーパー、消毒液が不足したが、4月以降は市場に出てきた。外食が夕方6時(現在は9時)以降できない」状況である。

〈青島試験室/吸水速乾性試験を増設〉

 青島試験室は春節明けから試験依頼が減少傾向にあったものの、徐々に回復してきている。「6月以降は顧客先にも訪問できるようになった。抗菌性や抗ウイルス性などの機能性試験の相談を受けている」。セミナーの提案は機能性試験に特化した内容で行う。企業別に行っており、「セミナーは営業ツールとして継続」していく。

 最近では吸湿発熱性試験機を導入し順調に試験の依頼が続いている。吸水速乾性の試験機を増設する予定もある。

 「本格的なスポーツ分野以外でも、吸水速乾加工の要望は多い。山東省は肌着の生産地でもあり、機能性試験のニーズは多い」。今後については、日本向けの試験依頼が主なため、日本市場の回復速度が影響しそうだ。

 市民の生活は、「屋外でマスクを着用していない人が、徐々に増えてきている。商業施設ビルには携帯電話の健康アプリを提示して入館」する。

〈ベトナム試験室/7月以降警戒感高まる〉

 ベトナム試験室では旧正月明けも新型コロナ禍の影響はなく、試験も昨年並みで推移した。しかし、7月ごろから試験依頼が減少傾向にある。「日本市場の製品在庫が多く、オーダーが減少」しているためだ。

 ベトナム・ダナンでは7月25日に100日ぶりの市中感染が明らかになった。ダナン周辺やハノイ市、ホーチミン市でも感染が広がり、警戒感が強まっている。ベトナムは4月に1カ月のロックダウン(都市封鎖)を行い、その策は有効だった。今回も政府は対策を講じた。

 同試験室では昨年、吸水速乾性試験の設備を入れ、今年4月にはUVカット試験機を稼働した。先上げの製品検品も好評だが、現在は移動が難しく、いったん中止している。国際検査機関のビューローベリタスと提携しており、「欧米情報が入手でき、今後も連携を強めていく」。ベトナム語で企業向けに試験検査方法の解説や研修セミナーも開催。現地企業と密接につながる。

 「7月末からのダナンの市中感染で店舗も閉まり、必ずマスクの着用が求められている」。

(取材日:8月6日)