ひと/クラレ 取締役兼常務執行役員 川原 仁 氏/明るく、逃げないリーダー

2020年10月30日 (金曜日)

 責任感が強そうな人――少し緊張した面持ちで会見場に現れた川原仁取締役兼常務執行役員を見て、そのような印象を持った。「リーダーとして明るさを失わず、決して逃げない」と伊藤正明社長に評された川原氏。「重責だがやりがいもある。しっかりと準備して任に当たりたい」と、来年1月1日付での社長就任に向けて豊富を語った。

 2006年に機能樹脂・フィルムカンパニーエバール事業部樹脂販売部長に就き、現任はビニルアセテート樹脂カンパニー長。繊維業界とは縁遠い人物に思えるが、キャリアはポリエステル長繊維織物の輸出でスタートする。原点とも言える繊維事業には通算で17年間携わった。

 思い出深いのは90~96年のドイツ駐在。28歳で赴任し、吸収することが多かった。当時はドイツの織物企業や染工場と連携し、日本の白生地を加工して販売していた。最初は順調だったが、結果的に多くの在庫を残して帰任することになり、「後任には迷惑を掛けた」と振り返る。

 厳しい事業環境が続いた繊維に身を置いた後、管理部門を経て、樹脂事業を担当する。エバールやポバール樹脂は世界シェアナンバーワンを誇っており、繊維事業とは方針や戦略の立て方が全く違ってくる。さまざまな事業を見られたことは貴重な経験と言え、大きな財産になった。

 そんな川原氏が社長就任を打診されたのは3週間ほど前のこと。後任になってもらうと伊藤正明社長から直接告げられた。「新型コロナウイルス禍が続く難しい事業環境の中、大きな人事はないと思っていたのでびっくりした」が、「次期中期経営計画の策定・実行を任せてもらえることにやりがいを感じた」と語る。

 9月29日に経営諮問委員会を開いて7人の委員に諮り、全員から承諾を得た。候補は4人いたが、川原氏が最有力候補だった。伊藤社長は「どのような時も明るさを失わず、逃げないことがリーダーに求められる。その意味でも川原取締役は適任。冷静でクレバーでありながら熱い思いを持ち、良いチームを作ってくれる」と期待を寄せた。

 川原氏は自身の性格について誠実、真面目、根が明るい、前向きとした上で「潔さもある。何事もきちんと自分で責任を取る」と強調した。会見の席上で「逃げたいと思った時はなかったのか」と質問され、「逃げ出したいことばっかりだった」と笑顔で答えた。(桃)

 かわはら・ひとし 1984年クラレ入社。2010年樹脂カンパニー企画管理部長、16年執行役員、18年常務執行役員ビニルアセテート樹脂カンパニー長(現任)などを経て、19年3月取締役。