明日へ これが我が社の生きる道 染色加工編(89)/久山染工/手捺染機で手の込んだ加工

2020年11月06日 (金曜日)

 手捺染の久山染工(京都市)は1991年の設立で、染色工場としては新しい。2年前に社長に就任した久山健作氏の父が、それでまで勤めていた手捺染工場を辞めて事業を始めた。

 京都の婦人服地コンバーター1社から仕事をもらっていたが、久山氏が入社した2002年時点では既に注文が減り始めていた。そのコンバーターが生地の備蓄販売を止め、別注品の捺染のみを同社に依頼するようになったため、操業が不安定になる。

 久山氏は入社後1年間ほど、父の知り合いが経営する京都の手捺染工業で働かせてもらった。同工場は、デザイナーブランドから直接受注していた。同工場の社長に「アパレルと直接取引すべきだ」と諭され、そうかもしれないと思うようなる。

 自分の会社に戻った久山氏は「JFWジャパン・クリエーション」(JFW―JC)展への出展を決める。手捺染した生地を同展で陳列したが、誰も足を止めない。たまに立ち止まって見てくれたのは、手捺染の機械でオパール加工した生地だった。

 同社はその後も毎回JFW―JCに出展したが、2回目以降は、凝った加工を施した生地のみを出品するようにした。それが当たり、デザイナーブランドと取引のある従業員数人のコンバーターなどから注文が入り始める。インテリア関連企業からも注文を得るようになった。

 例えば、ボンディング加工で張り合わせた生地の表側に手捺染で柄を描き、その柄の輪郭部分のみを手捺染設備で溶かして裏面の生地がのぞくようにした生地が人気だ。綿布に硬いウレタン樹脂でプリントし、塩縮加工した生地も、同社ならではのもの。硬い樹脂を用いた方が光沢が出る。しかし、スクリーン捺染機で硬い樹脂をプリントすると、染料などを生地へ刷り込む金属の棒(巣ケージ)が裏返ってしまいがちだという。人力で調整しながら行う手捺染ならその心配がない。

 このような手の込んだ仕事を行っているため、同社の1メートル当たりの加工料は高いと1300円、平均でも800円する。さすがに、国内からの加工依頼は減少傾向だが、3年ほど前から欧州の著名ブランドから注文が入り始めた。

 4、5年前に、京都商工会議所の事業に参加する形で、パリの展示会に参加。パリ在住のエージェントも探してもらう。このエージェットから、注文が来るようになった。同社で作った着分見本を、イタリアの「ミラノ・ウニカ」に毎年出品する商社もある。北陸の産元商社を通じて、欧州の著名ブランド向け加工も受託した。今春は、欧州の著名ブランド3社向けに合計1万メートルを加工した。

 8年前から、服のOEM事業も行っている。この事業にも、同社で加工した生地を使う場合が多い。現在のOEMの主要顧客は10社ほどだ。

社名:有限会社久山染工

本社:京都市伏見区久我西出町10-91

代表者:久山健作

主要設備:手捺染機6面

従業員:9人