2020年秋季総合特集Ⅳ(5)/トップインタビュー 東洋紡STC/強い事業に資源集中/社長 田保 高幸 氏/ユニフォーム・中東輸出を伸ばす

2020年10月29日 (木曜日)

 2021年度までの中期4カ年計画に取り組む東洋紡STC。中東輸出の低迷に苦しめられていたが、その中東輸出の市況が好転したため、19年度までは順調に課題を消化し計画を上回る業績を確保してきた。ところが、中計3年目を迎えたタイミングで新型コロナウイルス感染拡大の影響に見舞われ苦戦に転じてしまった。東洋紡本体が4月1日付で大がかりな組織再編を実施。東洋紡STCも検討しているという。22年度末までの残る1年半にどう取り組んでいくのか、田保社長に聞いた。

  ――2019年度までは業績好調だったのでは。

 確かに良かったと思います。19年度はトータルで中期計画の目標値をやや上回る業績を確保できました。

 18年度までは低迷していた中東向けのトーブの輸出が回復へと転じたことが大きく影響しました。主力として取り組むサウジアラビアやUAE向けが活況を呈していました。ユニフォームでは企業別注の大型案件が取れましたし、スポーツも“ぼちぼち”と言える状況でした。

 一方、インナーでは当社のメインの顧客の業績が伸び悩んだため当社も苦戦し、何とか利益を残せる水準に低迷しました。アクリルでは、アクリレートが引き続き好調を維持しましたが、アクリル短繊維「エクスラン」は相変わらずでした。

  ――21年度で中計の最終年度を迎えます。

 既に予算策定に入っており、新型コロナ感染拡大の影響で中計に掲げた目標を達成するのは困難だと見ています。21春夏商戦は新型コロナ禍以前を100とすると、良くて8割にとどまるでしょう。21秋冬商戦がどうなるかですが、ここで採算を取れるような組み立てを考えていきます。

  ――中計も残すところ1年半、何を課題に掲げ取り組んでいきますか。

 この間、当社が展開する各事業の間に強弱がはっきりと出てきました。ユニフォームや中東輸出のような強みを発揮できる事業には今後も経営資源を重点的に投下していきます。

 ユニフォームでは、これまで提案しきれていなかった素材、機能を売り込んでいきます。それと、別注やスクールで攻め切れていなかった顧客へのアプローチを徹底します。

 中東輸出は、最悪期を脱し巡航速度に戻りつつあります。下半期の半年間で19年度並みの業績に近づけられると見ています。

  ――スポーツ用のニットで企画した「Zシャツ」の売れ行きが好調なようですが。

 在宅勤務の浸透によって家で着ることができる楽できちんとしたシャツという「Zシャツ」の特徴が評価されているのではないでしょうか。今年も販売量は順調に拡大しています。もっとカジュアルなどへも用途を広げていくための販促に力を入れています。

  ――抗ウイルス素材に注目が集まっています。

 当社は「ナノバリアー」「ヴァイアブロック」を展開しています。新型コロナ禍の拡大に伴い、いずれにも各方面から引き合いが舞い込んでいます。ノロウイルスなどへの効果は既に確認されていて、現在はコロナウイルスに効くかどうかを検証中です。

  ――新型コロナ禍に伴い他に特需のような現象は発生していませんか。

 もっとも好調なのはマスクでしょう。不織布製はそうでもないんですが、関連会社・トーヨーニットがスポーツウエア用の2ウエートリコットで商品化したマスクカバーをあるスポーツアパレルに供給しており、これがすごく売れしています。

 それと、医療用のアイソレーションガウンや空気清浄機用のフィルターの販売が好調に推移しています。トーヨーニットがトヨタさんの指導を仰ぎながら生産チームに加わり、メディカルガウンを生産しています。

 非繊維事業では、巣ごもり需要の増大で液晶パネル向けの工業用フイルムの売れ行きが好調で、今も需要に追い付いていない状況が続いています。

 東洋紡本体は豊田合成さんとの連携を通じ、エアバッグ基布で商品化した防護服200着を名古屋大学医学部付属病院などに納めさせてもらいました。

  ――「エクスラン」の苦戦が続いているようですが。

 「エクスラン」にも強弱がはっきりと表れており、苦戦しているところの大半が中国向けの輸出です。アンチダンピングの行く末を見極めながら対策を考えていきます。

 一方、アクリレートは今年も好調で、この間、年産4千㌧体制まで増産を続けてきました。今後も開発を強化するとともに、さらに増産を目指した用途開拓、客先へのアプローチに取り組んでいきます。

  ――エコ素材の今後については。

 ユニフォーム用途での売り込みを改めて強化し、バイオ原料由来のポリエステル「エコールクラブ・バイオ」の市場浸透を目指していきます。生分解性素材「ダース」を本格販売するにはもう少し時間がかかると見通しています。

 ある流通とタイアップし、先方が店頭で回収した使用済みのPETボトルを当社が「エコールクラブ・バイオ」に再生する取り組みが滑り出しました。こちらにも期待しています。

  ――海外展開についてはどう考えますか。

 インドネシアにニット製造の東洋紡マニュファクチャリングインドネシア、縫製のSTGガーメントを構え、テキスタイルから製品に至る一貫生産体制を構築し、スポーツを中心とする製品OEM事業を展開しています。STGでは布帛製のシャツ、ニットシャツを50%ずつで展開しており、ニットシャツの方を今後も伸ばしていきます。

〈私の新常態/時間の有効活用に腐心〉

 新型コロナ禍に伴い「日常が劇的に変化した」と言う。会社生活では、「会議にかける時間がものすごく減った」と驚きを隠せない様子。同時に、在宅勤務の増加で通勤などにかかる時間が不要になったものの、「時間の使い方をこれまで以上に真剣に考えるようになった」話す。読書に充てたり、パソコンで情報収集をしたり……。在宅勤務によって生じた時間的余裕をより有効に活用するために「毎日、じっくりと考えるようになった」ことをこの間の一つの収穫に位置付けている。

〈略歴〉

 たぼ・たかゆき 1983年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社。2010年3月経理部長、11年4月経理部長兼総務部主幹、13年10月参与経理部長、17年4月執行役員、18年4月東洋紡STC取締役、20年4月代表取締役社長。