2020年秋季総合特集Ⅳ(14)/トップインタビュー カケンテストセンター(カケン)/SCの今後の変化に注目/理事長 寺坂 信昭 氏/中計の方向性は変わらず

2020年10月29日 (木曜日)

 「カケンの存在感を異業種にも広げないといけない」と、カケンテストセンター(カケン)の寺坂信昭理事長。繊維業界では知名度は高いが、衣料以外の分野を広げていくためにはまず認知度の向上は重要だ。新型コロナウイルス禍でカケンの抗菌や抗ウイルス性試験などは異業種からも注目を集めている。そうした分野の材料や製品にも事業を広げていく。

  ――新型コロナ感染と共存する中で、繊維産業はどのように変わっていきますか。

 新型コロナ感染を契機に、いろいろなことが変化しています。元の状況に戻ることはないでしょう。コロナ以前に変化していたものが、新型コロナ禍で加速されています。

 例えば、サステイナビリティー、SDGs(持続可能な開発目標)は、新型コロナ以前から潮流になっていました。一気に拡大するものではなく、実現に向けて今後も長く続いていくでしょう。そういう時代の流れの中で、考え、工夫し、実行していくことです。

 変化という点では、人口構造の変化もあります。日本の人口は減少しており、先行き不安や不透明感から少子化がさらに進むかもしれません。意識面でも、個性化や価値観の多様化が進み、衣料でも多面的な機能性が求められています。在宅勤務も増えました。新型コロナ禍は触媒効果かもしれない。さらに変化は加速されて進んでいくでしょう。

  ――経済環境の変化という点では。

 米中関係が対立の方向にあります。さらに厳しくなるかもしれません。その影響を受け、サプライチェーン(SC)を見直す動きもある。米中の経済的な対立はありますが、グローバル化の流れは止まらないでしょう。アジアも欧州も新型コロナの影響があります。柔軟性を持った事業構造にしないといけません。

  ――サプライチェーンでは短納期化が重視されて中国を見直す動きもあります。

 新型コロナ禍で中国回帰も見られます。経済の回復も比較的早い。IT技術などの進歩もすばらしい。しかし、米中対立の側面もありますから、中国にどれだけ戻したらいいかが分かりません。ベトナムなど東南アジアは感染者数が比較的少なく、堅調です。インドも注目されていますが、新型コロナ感染が広がっています。サプライチェーンの見直しが今後、どのように変化していくかを注目しています。生産地はリスクヘッジで分散化も考えられます。

  ――カケンの上半期(4~9月期)はいかがでしたか。

 まだ集計中ですが、厳しさは予想の範囲です。むしろ下半期もウイズコロナが続いており問題です。新型コロナ禍が継続しており、中国の上海科懇検験服務、南通分公司、無錫試験室などは回復しつつありますが、バラつきがあります。香港検査所は政治的な面で難しさが増しています。

  ――ベトナムは7月下旬にダナンで感染が広がりました。

 ベトナムの規制は厳しいですよ。それゆえに、封じ込めも進んでいます。厳しい状況は変わりません。タイも同様です。検査機関は日本向けの試験が中心ですので、日本市場の動向にも左右されます。

  ――下半期については。

 新型コロナの下半期からの回復を前提に計画していましたが、収束のめどは立っていません。当面を日々の努力でどう乗り切るか。合わせてこれをベースに中長期的にどう事業を進めていくかの両方を考えないといけません。

  ――4月から中期経営計画(2020~22年度)をスタートしました。

 この中計の方向性は変わりません。その中身一つ一つを進めていきます。特にカケンにしかできない分野を展開していきます。安心安全、衛生、機能性試験などで、繊維だけでなく、他分野への提案も必要です。一方、縮小・不採算分野の見直しも重要です。デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)を武器に業務や試験プロセスの見直しなども行っていきます。情報収集ではテキスタイル・エクスチェンジ、ZDHC(環境系への有害化学物質の排出ゼロを目指す企業連合)に加盟しており、より接点を強めないといけませんが、新型コロナ禍がそれを阻む側面もあります。従来のやり方だけではいけません。

〈私の新常態/人との接触が減った〉

 新型コロナ禍で「人との接触が減った。どこかさびしさがある」と、寺坂さん。在宅やリモート会議も増えたが、活発な議論ができにくい。「ウイズコロナだから慣れないといけないのだが、どうもなじめない」ところがある。それでも「新しい仕事のスタイルになっていくと考えざるをえない」という心境にある。デジタル化はそういう方向に進む。とはいえ、「人は接触の拡大で、人類として進歩してきた」のも事実である。

〈略歴〉

 てらさか・のぶあき 1976年4月通商産業省(現経済産業省)に入省。2004年6月経産省大臣官房審議官、07年7月経産省商務流通審議官、09年7月原子力安全・保安院長、11年8月退官。15年6月冠婚葬祭総合研究所社長、17年8月互助会保証社長を経て、20年7月からカケンテストセンター理事長。