2020年秋季総合特集Ⅰ(9)/トップインタビュー 帝人/IT駆使が必要不可欠に/取締役常務執行役員/小山 俊也 氏/新社会への対応も視野

2020年10月26日 (月曜日)

 アラミド繊維や炭素繊維などを展開している帝人のマテリアル事業領域。マテリアル事業統轄の小山俊也取締役常務執行役員は新型コロナウイルス禍でもたらされた新たな世界では「ITの駆使が必要」と説く。同事業領域ではマーケティングオートメーションやセールスフォースオートメーションを導入するなど、着実にIT化への対応を図っている。販売面では安心・安全・防災ソリューション、環境ソリューションを軸に展開し、欧州がつくろうとしている新社会への対応も視野に入れる。

  ――新型コロナとの共存で、日本の製造業や産業はどのように変わるのでしょうか。

 グループ会社である帝人フロンティアの非常勤取締役を兼務しているので、私自身は衣料品分野にも接点を持っています。衣料品では抗ウイルスや抗菌が注視されています。ニーズが高まっている素材や加工をどう提案するかが重要になっていますが、帝人フロンティアと村田製作所は力が加わることで電気エネルギーを生み出して抗菌性能を発揮する圧電繊維を共同開発しました。

 それ以外にもさまざまなニーズが生まれようとしています。例えばメディカル用ガウンです。使い捨てではなく、回収・再利用を求める声はいずれ高まり、その対応も必要です。電子商取引(EC)サイトでの販売が増えていますが、人工知能(AI)の進化によって採寸の精度が上がります。これによって受注生産のような形が一般化し、衣料品ロスもなくなっていくのではないでしょうか。

  ――アラミド繊維や炭素繊維など、帝人の産業資材分野は。

 新型コロナ禍とは直接関係ありませんが、台風や地震などの自然災害が頻発する中で、災害対策・社会インフラ整備に関する安心・安全・防災ソリューションが果たす役割は増えていくでしょう。川ののり面や橋の補強にアラミド繊維や炭素繊維が使用されているのですが、ここにセンサーを組み合わせることができれば、守るだけでなく、予防が可能になります。

  ――変化したものにどのような対応が求められるのでしょうか。

 ITをもっと駆使する必要があるでしょう。一例がロジスティクスです。アラミド繊維と炭素繊維は輸出を行っていますが、洋上に送り出しておいてから仕向け地を決めるという方策もITを使えば不可能ではなくなります。そのほか、街中は防犯カメラなどがあふれていますが、AIを用いれば、人がどのような色を好んでいるのかを解析し、どのような需要が生まれるかを予測することも可能です。

  ――経済の動向をどのように捉えていますか。

 素材や分野、国によって違うので一概には言えないのですが、スポーツ分野には動きが見えます。テニスラケットや自転車のフレーム、ゴルフシャフト、釣り関連向けの炭素繊維が堅調に推移しています。これらの用途は糸売りが主体でしたが、中間材料での提案を増やしています。炭素繊維では風力発電関連の需要も旺盛です。

 自動車については国・地域によってばらつきが出ています。中国は比較的早い回復を示し、米国はピックアップトラックの販売が伸びています。その一方で欧州や新興国については回復が遅れています。樹脂関連は自動車向けが復調基調にあり、パソコンやゲームの筐体が底堅く推移しています。航空機は人の移動がなかなか戻らず、厳しい状況が続きそうですが、全体として明るさが出てきた感があります。

  ――そうした状況下でマテリアル事業領域の2020年度上半期(4~9月)は。

 新型コロナ禍の影響もあって前年実績には届かない水準で推移しています。ただ、年間で見るとアラミド繊維は堅調に推移し、樹脂も底堅い動きを示すとみています。マテリアル事業領域として黒字確保を目指したいと思っています。

  ――下半期はどのような方針ですか。

 デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)に焦点を当てています。企業のマーケティング活動の効率を高めるツールであるマーケティングオートメーションとIT技術を活用して営業部隊の生産性向上・効率化を進めるセールスフォースオートメーションは導入を終えており、AIによるプライシングツールについても利用していく予定です。

 販売面では、アラミド繊維は強みが発揮できる分野の一つであるタイヤコードの需要をもっと取りに行くほか、5G(第5世代移動通信システム)によって光ファイバー用途のニーズが高まっていくと予想しています。そのほかでは、補修・補強分野はアラミド繊維と炭素繊維の両方で期待ができます。将来に到来が見込まれる水素社会への対応にも目を向けています。

  ――水素社会への対応とはどのような取り組みですか。

 欧州では、生産過程で二酸化炭素を排出しない再生可能な水素の活用を推進する「欧州の気候中立に向けた水素戦略」が掲げられ、脱炭素が難しいとされる航空業や運送業などに広がる可能性があります。

 水素はパイプラインでの輸送が想定されていますが。金属では強度の低下(水素脆化)が起こるので、アラミド繊維を使った複合成形材料が応用できないか模索しています。

 個社で解決できる問題ではないので、国などとの共同事業体の構築も考えないといけないでしょう。欧州市場に向けた環境ソリューションでは、水素社会への対応のほかに、バイオ原料やサーキュラーエコノミー(循環型経済)もターゲットです。バイオ原料ではアクリロニトリルなどで研究を進めます。

 これらはまずオランダやドイツなどで事業化を実現したいと思っています。

〈私の新常態/巣ごもりで若返り〉

 新型コロナウイルス禍でイエナカ時間が増え、昔のギターを引っ張り出したり、B級映画を見たりして過ごしている。映画はジョン・カーペンター監督作品の『遊星からの物体X』が好きだという。そんな小山さんが“はまった”と話すのがユーチューブ。小説を音楽にするユニット、YOASOBIの『夜に駆ける』が特にお気に入りで、繰り返し視聴している。5月に60歳を迎えたが、「どんどん若くなっている」と力強い。ただ、ギターを弾こうとしても「指は動かない」らしい……。

〈略歴〉

 こやま・としや 1986年帝人入社。2000年フイルム開発センター宇都宮開発室長、08年新機能材料事業開発部長兼電子材料開発室長、15年帝人グループ執行役員新事業推進本部電池部材事業推進班長、17年帝人グループ常務執行役員マテリアル事業グループ長などを経て、20年4月マテリアル事業統轄、同年6月取締役常務執行役員兼帝人フロンティア非常勤取締役。