変わる提案手法/コロナでデジタル化加速/「現物+オンライン」定着か

2020年11月13日 (金曜日)

 デジタル化の進捗(しんちょく)が遅いとされてきた繊維業界だが、くしくも新型コロナウイルスがそれを加速させている。まず、人の密集を避けるために展示会を休止した上でその補完策としてオンラインの提案が始まり、最近はオンラインとオフラインの融合を試みる動きが目立ち始めた。(吉田武史)

 9月に東京都内で開催された「インドトレンドフェア」は、各ブースに衣料品などの現物を置き、モバイル端末を通じて現地企業とオンラインで結んだ。来場バイヤーからは「1対1で集中して商談ができた」などおおむね好評だった。

 このほど大阪市内で開かれた「山東省輸出商品展示商談会」も同様の形をとった。来場者からは「ネット環境が不安定で会話がしづらかった」というオンライン商談ならではの苦言も出たが、「(ブースに人がいないため)逆にじっくり商品を見ることができた」「(画面越しなので)新規先とも気軽に話ができた」といった前向きな評価も多かった。

 同展では6ブースに1人の割り当てで通訳スタッフが配されたが、スタッフが機転を利かし、ネット環境が安定している自分のスマートフォンをモバイル端末の代替として使い、商談を進めるケースも多く見られた。

 さすがに来場者が盛況とは言い難かった同展だが、ある中国出展者からは「新型コロナ禍では致し方ないし、想定よりも多くの商談ができた。やらない(休止)よりは絶対にやったほうがいいし、今の状況では商談会の手法としてベストだろう」との声が挙がった。

 国内展でも、繊維リソースいしかわが12月に東京で開く「次代を創る可能性素材展」を、生地など現物をブースに置き、オンラインで商談する形とすることを決めた。

 今後この形態が定着するかどうかは不明だが、少なくとも新型コロナ禍で人の密集を避けながらも、ビジネスを前進させるためには商談が必要という判断の中ではベストな手法かもしれない。

 一方、個社でも似たような動きが出てきた。服地販売最大手のスタイレムはこのほど、生地のプロモーションサイト「スタイレム テキスタイル ギャラリー」を会員以外にも公開した。同社が打ち出すシーズンテーマや新作生地が誰でも閲覧できるようになっており、同時に現物のスワッチカタログを主要顧客に発送することで、オンとオフの融合を試みている。

 新型コロナ禍で提案の場が失われたことによる苦肉の策だが、「ウェブやデジタルでしか伝えられないこともある」とし、仮に新型コロナが収束したとしても同サイトは継続させる意向だ。

 店頭では、ショールーミングなどリアルとネットの利点を融合させる試みが活発化しているが、川上、川中でもその動きは活発化しつつある。課題であったデジタル化を新型コロナ禍が加速させている。