ダイワボウ情報システム・社長 横山 満氏/2002年のIT市場展望
2002年01月08日 (火曜日)
ダイワボウ情報システム(略称DIS、横山満社長)は1982年4月にダイワボウの非繊維分野拡大路線に呼応し、情報関連の機器販売及びシステムの開発・販売事業を目的に設立されたが、今や傘下に6つのグループ会社を持ち、02年3月期で連結売上げ3300億円を目指すわが国最大のパソコンディストリビューターに成長している。今年4月、会社創立20周年を迎えるDISの横山社長に、IT市場の動向や同社の戦略を聞いた。
■日本のIT市場は依然成長途上
――昨年は米国発のIT(情報技術)不況が世界的にまん延し、日本でもIT=不況の代名詞のような雰囲気が醸成されました。今年の見通しはいかがでしょう。
横山 日本経済の悪化、個人需要の停滞、企業のIT投資への削減、市況の低迷からの競争激化と価格下落など、(IT市場でも)悪材料が一気に噴き出し、ここに追い打ちをかけたのが同時多発テロ事件で、世界経済への危機感が一段と強まりました。ただITバブルと言われる時代を経験した米国市場と違って、(IT産業がまだ十分に成長していない)日本に「IT不況」の表現はあまりマッチしません。確かに一時のような成長率は見られませんが、日本のIT市場がまだ成長途上にあることは事実です。パソコン販売も、5割超の一般家庭に普及するなどで成長率は鈍化しつつありますが、複数台のパソコンをネットワークで繋ぐなど新たなビジネスが伸長する状況にあります。IT産業はこれまで「谷」の経験が少なかっただけに、やや過剰反応している嫌いがあります。
――では、回復の時期もそれほど遅くないと予想されていますか。
横山 希望的観測も含め春先から流れが変わると見ていますが、正直回復の時期は断定できません。ただ繰り返しますが、ITが大きな流れとして成長基調にあることは事実です。
――確かにインターネット利用などは着実に進展していますね。
横山 「ブロードバンド元年」の名の通り、光通信、ADSL、次世代情報端末、無線LANなど次々と情報インフラは普及し、B2B、B2C、B2B2C、G2G、G2B、G2Cまでインターネットによる取引の領域は確実に広がっています。昨年央の統計ですが、わが国のインターネット人口は3,264万人で、この5年間で5・7倍、前年に比べても1・7倍になっているように、コンシューマー市場でもほとんどのパソコン保有者がインターネットを利用しています。引き続きネットワークを介したビジネスは着実に進展するでしょう。
――「e―Japan構想」なども後押しとなります。
横山 政府が提唱する「e―Japan構想」に沿って、地域の官公庁・自治体などで新規需要が活発です。しかも結構奥行きの深いシステム案件が多いのが特徴です。確かに厳しい地域も少なくありませんが、日本全国が押し並べて不況と表現するのは乱暴で、元気な地域というのは必ずあります。そういった意味でも地域市場は楽しみです。
■ポテンシャルある繊維産業のIT投資
――地域市場を均質に見てはだめだということですね。同じことは産業分野別でもいえますが、繊維産業をどうご覧になっていますか。
横山 アジアからの輸入増などで繊維製造業の空洞化が進み、全体として厳しい状況にあるとききおよんでいます。しかし個々に見ると、繊維産業のIT投資には十分ポテンシャルがあると認識しています。当社は昨年10月に大阪で開かれたOTEMASで、ITパビリオンのシンボリックゾーンの形で出展、「DISわぁるど」を展開しましたが、その際にも繊維産業の方々のITに対する関心の強さをひしひしと感じました。繊維産業の場合、各工程間が複雑に絡み合っていることから、それをITで連結することでSCMを構築したり、QR対応を図ることなどが焦眉の急だと聞いています。また先述したブロードバンドは、複雑な色柄、スタイルなどの表現が求められる繊維・ファッション分野にとってうってつけのインフラと言えるでしょう。
――ただ繊維・ファッション産業は「感性」が重視されるため、なかなかITは普及しないと言われてきましたが。
横山 確かにITから感性は生まれません。つまりITは、あくまでツールであって、ITで出来る仕事はITに、Web上で片付く仕事はWebにまかせて、感性を育てたり、企画を立案する時間を極力確保することもIT化の大きな目的です。
実は当社のようなパソコンのディストリビューターにとっても、顧客といかに密度の濃い関係を築くかが最重要課題となっています。当社は「iDATEN(韋駄天)」というWeb上で24時間365日、パソコン関連商品の受発注や在庫確認ができるシステムを運用していますが、この目的の1つは顧客との関係を深めるための時間創出です。Web上でやれることはWeb上でやる。しかしそれだけでは、われわれの思いのすべてはつながりません。やはり顧客のところに出かけて商談を行い、対話の中で一緒になって問題を解決していく。そうした時間を極力持つよう社員に指示しています。
■全国60の営業サービス拠点などDISには5つの強さ
――そのような戦略に取り組む上で、DISの強さを上げていただくと。
横山 大きく分けて5つの強みがあります。まずマルチベンダー、マルチフィールドであること。2つ目が全国に広がる60余の営業サービス拠点網、3つ目は同じく北海道から九州まで12の拠点網を持つ物流ネットワークで、4つ目が社内ネットワークの「DIS―NET」や「iDATEN(韋駄天)」に代表される効率化システム。そして5つ目が6つのグループ企業です。
とりわけ日本全国に網の目状に構築してある営業サービス拠点は、各企業が地方から撤退している中で、今後ますます重要な役割を果たすはずです。これは前述した地域市場へのアプローチという戦略もさることながら、「顧客の間近に居てサービスを提供できる」というDISの存在感です。地方に拠点を置くことは、企業にとって負担かもしれませんが、当社では各地方に拠点を持って、顧客の間近でサービスするというスタンスを変えません。
――最後に、創立20周年を迎える今年を展望して下さい。
横山 「モノの動き」をみると、パソコンの売れ行き鈍化、個人消費の低迷、先行き不透明感、メーカーの一斉事業改革断行―など厳しいフレーズが並びます。しかし「コトの動き」をみると、インターネットによる取引領域は拡大し、ソリューション展開も当然、進展するでしょう。また「e―Japan構想」に関連したビジネスも期待できます。それだけに、「モノ」を動かそうとするのではなく、「コト」を動かして初めて「モノ」が出てくるという取り組みを心掛けます。
悪い悪いと悲観するだけでは良くなるものも良くなりません。今ある商品をただ「売り込みましたが、市場が悪くて売れませんでした」では、負け戦です。自分が動いていないのに市場が悪いという言い訳は、決してさせません。社員には失敗を恐れることなく、アイディアをどしどし出してもらい、とにかく自分から動くという意識を全員に持たせます。そこで失敗してもとがめません。まずトライすることで、一段のストレッチを図る。そういった状況下で、創立20周年を迎えたいと考えています。