2021年新年号(7)/新型コロナ禍に対応する検査機関

2021年01月04日 (月曜日)

 新型コロナウイルス感染拡大は衣料業界に打撃を与えた。検査機関も例外ではない。抗ウイルス性試験や抗菌性試験依頼は増加したが、主たる試験は量的減が目立つ。衣料市場の回復を待つ形だが、新たな市場開拓や業務改革などにも着手している。

〈カケン/繊維以外の分野にも〉

 カケンテストセンター(カケン)の寺坂信昭理事長は「新型コロナ禍を契機に、さまざまな分野で変化が起きている。元の状況に戻らない。新型コロナ以前に変化していたものが、新型コロナ禍で加速されている」と語る。

 サステイナビリティーの潮流もその一つ。日本は欧米ほどの意識に到達していないが、「実現に向けて今後も長く続いていく」とみる。米中対立、日本の人口減、衣料市場の低迷などに対し「柔軟性を持った事業構造にしないといけない」と変革を進めていく。中国の上海科懇検験服務、南通分公司、無錫試験室などが回復しつつも、業況にばらつきがある。

 検査機関として「カケンにしかできない分野を強化し、安心安全、衛生、機能性試験などを、繊維以外の分野にも広げる」。縮小・不採算分野の見直し、デジタル技術で企業を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)を武器に、業務や試験プロセスの見直しなどにも着手する。

 情報収集ではテキスタイル・エクスチェンジ、ZDHC(環境系への有害化学物質の排出ゼロを目指す企業連合)に加盟した。昨年新設した「環境化学分析ラボ」(神戸市東灘区)」も今後大きな役割を果たすとみられる。

〈QTEC/機構改革で変化に対応〉

 「衣料需要は元の量に戻ることはない。アパレルがプロパー販売を重視し、無駄なものは作らないという基調は続く」とは、日本繊維製品品質技術センター(QTEC)の山中毅理事長。こうした変化に対応するため、昨年10月に機構改革を行った。

 営業部門は顧客や市場ニーズに迅速に対応し、施策実行のスピード化を図る。国内営業業務は東日本事業所、西日本事業所を新設し、これに海外事業所を加え、営業部門を3事業所体制にした。

 東部事業所は東京試験センター、中部事業所は名古屋試験センター、西部事業所は大阪試験センター、中四国試験センターは四国試験センターに改称。神戸試験センターを増員し、抗菌・抗ウイルス試験増に対応する。衣料品にとどまらずメディカルや、プラスチック分野の企業とも交流していく。CSR監査にも注力している。

 海外事業は上海、無錫、南通の華東3拠点の連携を強化する。上海総合試験センターはサービスの充実を図るため、閔行区虹中路に移転した。リモート対応のダッカ試験センターは、ナショナルスタッフへの権限移譲を進めていく。新型コロナ禍にはBCP(事業継続計画)本部が対応する。

〈ニッセンケン/事業の見直し図る〉

 ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)の駒田展大理事長は、新型コロナ禍で「検査機関もビジネスモデルを変えなくてはいけない」と話す。「衣料向けの単純な試験だけでは事業継続が難しい」とし、「需要が伸び、かつ得意な分野を深堀する」考えだ。

 新型コロナが収束しても、「衣料生産も減っていく。消費者は無駄なものは買わず、アパレルも在庫を残さない方向に向かう」。試験の採算性をしっかり見て、事業の見直しを図っていく。

 ニッセンケンは、エコテックス事業などサステイナビリティーに直結した認証や検査を得意とし、「今後も伸びが期待できる」とみる。エコテックススタンダード100認証だけでなく、素材の安全性や生産地を示せるトレーサビリティー(追跡可能性)証明「メイドイングリーン」など、サプライチェーンの安全性、社会的責任もサポートしていく。

 厚生労働省登録検査機関として、化粧品などの定量試験も行っている。こうした衣料品以外の分野にも事業領域を広げていく。「営業体制の強化を進めるとともに、中長期的視点で方向性を打ち出し、ソリューション能力の向上にも注力していく」と言う。

〈ボーケン/品質パートナー戦略が加速〉

 ボーケン品質評価機構(ボーケン)は中期経営計画で品質パートナー戦略を推進している。新型コロナウイルス禍で外部環境が大きく変化する中、事業本部制の強みを生かし、更なる専門性の向上、社会から必要とされるニーズへの対応強化に取り組む。

 試験業務に加えて工場監査など取引先企業の品質管理など品質サポート業務の拡大を進めた。取り組み先との関係も深まり、専門性を持つ「人財」の育成も進むなど成果が表れつつある。新型コロナ禍にも対応し、マスクや防護服の試験を拡大し、抗菌・抗ウイルス性試験は従来の5倍以上の能力を確立している。家具や日用品の試験や容器包装材料の食品衛生法試験なども強化し、「衣」だけでなく「住、食、医」分野への事業領域拡大が進む。

 吉田泰教理事長は「従業員の間で危機感が共有され、現場主導で新しい試験にも取り組むなど成果が出ている」と話す。引き続き厳しい事業環境が続く中、21年度は機能性試験の拡大や納期対応力の強化、そして「人財」育成に力を入れる。

 品質検査だけなくモノ作りをトータルにサポートする総合試験機関としての役割をさらに強化することを目指す。