明日へ これが我が社の生きる道 染色加工編(97)/大長/独自性追求、大型設備投資も

2021年01月15日 (金曜日)

 数量は漸減傾向ながらも売り上げは横ばいを維持している染色加工場がある。麻織物への染色加工を祖業とする滋賀県・湖東産地の大長だ。

 大橋富美夫社長(67)によれば、8年前の年間加工数量は750万メートルだったが、直近は630万メートルに減った。しかし、売り上げは横ばいと言う。売り上げを維持できたのは、「あまりの細かな要望に現場から悲鳴が出る」ほどの徹底した顧客ニーズへの対応と、他社にはないこだわりの加工を追求してきた結果、平均加工単価が上がったためだ。

 イタリアの生地見本市「ミラノ・ウニカ」では初出展でバルク注文を獲得するという快挙を成し遂げ、その後もメゾンブランドなどから定期的に注文が入る。和装向けの麻織物加工技術を改良した塩縮加工や、旧カネボウから継承した綿に麻のようなシャリ感を付与する技術、手もみ風の表面感が特徴の「近江ちぢみ」、生機の段階で生地をもみ込み、ランダムなシボを出す「近江晒」など設備の改良を前提とした独自のモノ作りが国内外で高い評価を得ている。

 「この流れを途切れさせたくない」とこのほど大型設備投資にも踏み切った。中古ながら液流染色機や乾燥機、脱水機などを導入。建屋スペース確保のために近隣の土地も購入し、排水処理も整えた。これにより3カ月かかっていた納期が約半分に短縮されるという。「短納期化が生き残りへの条件」と判断し、「当社にとって過去最大の設備投資」を決断した。

 「他社がやらない、やれないようなものばかりをやってきた」と大橋社長。「こんな生地をどうやって作った?」と驚かれることもたびたびあるという。現場の職人たちがそれを支えてきた。それだけに「技術の継承が課題」になる。

 ただ、同社はかなり以前から無数にあるこれまでの加工技術の開発、生産履歴をこと細かにデータ保存している。「品番さえ分かれば一部を除きほとんどの加工をすぐに復元できる」。これが技術の継承に一役買いそうだ。

 SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献する。例えば、生地商社で不良在庫化してしまった生地があっても、「当社の仕上げ加工でよみがえらせることができる」。実際、自主的なものも含めてこうした加工のやり直しによって生地を再販することは多いという。「麻は綿などよりも高額。もったいないという文化が古くから残っている」ことも再加工、再利用を促してきた要素のようだ。

 同社は現在、アクリルを除く主要素材の染色や後加工を行っている。「麻で培った技術を他の素材に応用してきたから生き残れた」と大橋社長は分析する。時代や顧客ニーズの変化に細やかに対応してきたからとも言い換えられる。

社名:大長

本社:滋賀県東近江市五個荘簗瀬町611

代表者:大橋富美夫

主要設備:毛焼き機、シルケット機、常圧ジッカー染色機、高圧液流染色機、常圧液流染色機、高圧マイヤー染色機、常圧マイヤー染色機、連続精練漂白機、連続亜鉛素漂白機、シリンダー乾燥機、ショートループ乾燥機、ネットサーファー乾燥機、ヒートセット、防縮機、塩縮機、各種風合出し機、特殊シワ加工機、など

年産能力:630万メートル(直近実績)

従業員数:90人