産資・不織布通信(59)/シキボウ 機能材料部門/航空宇宙分野で存在感

2021年02月01日 (月曜日)

 シキボウの機能材料部門は、得意とする繊維強化複合材料の加工技術を生かし、航空宇宙分野で存在感を高めている。プロセス開発や装置開発まで自家で行える技術力は、次世代材料を活用した研究開発でも大きな役割を果たす。

 同部門はガラス繊維や炭素繊維の複合材料成形からスタートした。中でも八日市事業所(滋賀県東近江市)で加工するフィラメントワインディング(樹脂含侵した繊維束を心棒に巻き付けて成形する製法)は高い技術力を持ち、電気絶縁材など幅広い用途に採用されている。同部門長の大森良行取締役兼常務執行役員は「特に巨大構造物をこの製法で生産できるのは事実上、当社だけ」と話す。

 こうした技術を生かし、力を入れているのが航空宇宙分野。近年、航空機部材は軽量化への要請から炭素繊維複合材料の使用率が飛躍的に高まっており、需要拡大が期待できる。中央研究所(同)などでの研究開発を経て2006年には尾道事業所(広島県尾道市)を新設し、航空機部材の生産を開始した。17年には長野事業所(長野県箕輪町)を開設し、航空機エンジン部材にも進出した。

 同社の複合材料事業の最大の強みに、これまでの実績を生かして高い品質・工程保証体制を整備していることがある。複合材料は素材だけでなく加工工程によって必要とされる物性を実現する。このため高レベルの工程管理・保証が求められる。同社は航空宇宙部品製造の国際的な特殊工程認証「Nadcap」も取得することで航空機の機体構造材やエンジン部材に参入することができた。

 現在、新型コロナウイルス禍によって世界の航空機と航空機エンジンの生産が事実上、ストップしている。このため同社の受注にも大きな影響が及んでいるが、大森取締役兼常務執行役員は「おそらく20年が底。ここに来て航空機メーカーの生産も徐々に回復傾向に向かっている」とし、引き続き重点分野として取り組む考えを強調する。

 一方、次世代材料の実用化に向けた研究開発も加速する。その一つがセラミックの繊維と母材を複合して成形するセラミック・マトリックス・コンポジット(CMC)。炭化ケイ素繊維を使用することで軽量性と高い耐熱性、強度、靭(じん)性(粘り強さ)を併せ持つことから、航空機エンジンなどの次世代材料として期待は大きい。

 現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにも採用され、大学や原料メーカー、重工業企業との共同研究が進む。シキボウは繊維の三次元製織によるプリフォーム(成形用基材)の開発を担っており、繊維企業として培った技術が生かされている。19年には中央研究所に専用の研究棟も完成した。

 「持てる技術は全て投入することでプロセス開発から加工設備まで自前で作ることができるのが当社の強み」とし、航空宇宙分野でさらに存在感を高めることを目指す。