特集 第18回ジャパン・ヤーン・フェア&総合展「ザ尾州」(2)/原料・製法で差別化/多彩な糸勢ぞろい

2021年02月10日 (水曜日)

〈浅野撚糸/「スーパーゼロ」Tシャツで〉

 浅野撚糸(岐阜県安八町)は、特殊複合撚糸「スーパーゼロ」(国際特許取得)の用途拡大提案としてTシャツを打ち出す。「エアーかおるTシャツ」として主に衣料品分野への拡販を目指す。

 スーパーゼロは抜群の吸水性、軽量感、速乾性、「気化熱」の機能性を持つ。毛羽立ちも少なく洗濯後もふんわり感が持続する。その特徴を生かしたタオルシリーズ「エアーかおる」は昨年、累計販売1千万枚を超えた。

 エアーかおるTシャツは2種類。①10番のトルファン綿基軸のスーパーゼロ糸使用②16番のスーパーゼロと和紙を組み合わせた糸を使用――がそろう。10番のトルファン綿Tシャツはハリ・コシと柔らかさを両立。和紙を組み合わせた糸使用のTシャツはシャリ感と柔らかさを兼ね備える。

 Tシャツの企画は三恵メリヤス(大阪市北区)と協業。生地の編み立ては和歌山で行い、吊り式の丸編み機で丁寧に編み立てる。2種類とも丸首の半袖で、カラーは白・黒・紺を基本色とする。

 浅野宏介専務は「肌触りの良さを体感してもらうのが目的」と話す。ワンマイルウエアやインナー向けも視野に、セレクト系アパレルやSPA(製造小売業)業態への提案を想定している。

〈伊髙撚糸/「ノーカットモール」用途広げる〉

 伊髙撚糸(愛知県江南市)はソフトでモールに近い風合いを備える「ノーカットモール」の用途拡大提案に注力する。本来はセーター向けの用途が多いが、服飾雑貨や小物雑貨向けの訴求を図る。

 ノーカットモールはループ糸に近い撚糸構造のため毛抜けの心配が少なく撚糸機で製造することから量産の対応も可能。毛羽の方向性がなく扱いやすいため織布や編み立てがストレスなく行えるのが特徴だ。

 ポリエステルを主に使った擬似モールとの差別化も強調。疑似モールは毛羽の抜けがあり風合いも固くなりがちな傾向がある。半面、マイクロファイバーを使用するノーカットモールはソフトな風合を表現しつつ廉価での対応が可能。使い勝手の良さが特徴だ。糸番手は8番単糸のみを展開しモール糸らしさを保つ。

 今回展でもファンシー雑貨や服飾雑貨向けへの提案を意識し、ヘアゴムやバッグの製品展示も行う。同社売上高に占める雑貨向けの比率は10%だが、この分野に伸び代があるとみている。

 同社は初回から出展を継続中。伊藤裕晥(ひろあき)社長は「感染対策を万全に行いながら新しい商機に期待する」と話す。

〈大津毛織/無染色紡毛糸を提案〉

 大津毛織(大阪府泉大津市)の原糸部は希少なカラードウールを使った無染色紡毛糸を開発した。世界的に要望が高まるサステイナビリティーに対応した紡毛糸として提案する。

 無染色紡毛糸はニュージーランドやウルグアイから調達した希少な有色原毛を利用したものの。原毛の色を生かすことで染色せずに白、ベージュ、ナチュラルブラウン、ブラウンなどの色を表現できる。染色工程が不要であることに加え、原毛はノンミュールシングのウールであることを生かし、サステイナブル素材として提案する。

 そのほか希少な獣毛の紡毛糸も充実する。キッドモヘア90%・ナイロン10%混とキッドモヘア80%・ナイロン20%混の2タイプを用意する紡毛糸「スーパーキッドモヘア」や、ベビーアルパカ90%・ナイロン10%混とベビーアルパカ80%・ナイロン20%混をそろえる紡毛糸「スーパーベビーアルパカ」を提案する。

 現在、市場ではサステイナビリティーへの要求が高まると同時に、より独自性のある糸を使った高付加価値商品しか消費者に支持されないという市場の二極化が生じている。こうした消費構造の変化に対して、希少な高級原毛を生かした糸の開発と提案に取り組む。

〈近藤/サステやリサイクルをテーマに〉

 近藤(愛知県一宮市)はサステイナビリティーやリサイクルをテーマにした糸を継続してアピールする。

 近藤は環境に配慮したモノ作りをテーマに掲げる。サステイナビリティーやリサイクル原料使用の訴求を続けることで、その浸透度を深める。今回展では環境に配慮した原料でストレッチ性の高い糸シリーズを打ち出す。

 綿・ポリエステル混のストレッチ糸「エコグローリー」ではエコ原料使用を前面に押し出す。持続可能な綿花栽培を目指す取り組みを行う「BCI(ベター・コットン・イニシアチブ)」認証を受けた綿を採用。使用済みペットボトル原料のポリエステルを合わせる。

 同じくペットボトル原料のポリエステルとアセテート混の「リサ」はしなやかで柔らかくストレッチ性も付与。自然由来のアセテートと再生ポリエステルでエコ素材としての価値を高める。

 さらにおうち時間の増加に伴いホームウエア向けの企画を強化。ナイロンモールと綿ブークレーの提案も広がる。レギンスや部屋着用途のパンツへの引き合いも増加中だ。

 企画の見せ方にもこだわる。糸の訴求点を凝縮して編集した「ミニカラーブック」で分かりやすい提案を支える。

〈近藤紡績所/原料や紡績にこだわる〉

 近藤紡績所(名古屋市中区)は綿を中心に原料や紡績のこだわりを丁寧にアピールする。サステイナビリティーに着目した新商品も開発し展示を行う。

 同社は「シーアイランドコットン(海島綿)」を扱う国内唯一の企業。海島綿は超長綿の中で最も長い繊維長を持つ。原料自体に天然の撚りが多く入っているためバルキー性や光沢と滑らかさを兼ね備える。トレーサビリティーも実現可能だ。

 カード糸の「ほたか」は甘撚りで柔らかな風合いが特徴。主にタオルでの使用実績が多いがさらなる用途拡大を目指す。さらに、ほたかを改良した甘撚りカード糸「さらしな」もそろう。撚り回数や原料のブレンドを工夫し毛羽立ちを抑え、耐久性を向上させた。

 さらにサステイナビリティーの表現として短繊維中心の落ちわたをアップサイクルした糸も開発。カード糸の落ちわたが原料の「レナルス」、コーマ糸の「クムルス」として出展し来店客の評価を聞く。

 営業部の塩原規広部長の前任地は大町工場(長野県大町市)。“作り手”側のノウハウとストーリーを織り交ぜて説明と提案に深みを持たせる。

〈サイボー/環境対応素材を前面に〉

 サイボーは、環境に配慮した素材の打ち出しを強める。サステイナビリティーが欠くことのできない潮流になっていると捉えているためで、今回はレーヨンのフィラメント(長繊維)や環境配慮シリーズ「エコリアル」などを重点訴求する。麻の提案についても検討している。

 レーヨン自体は珍しい素材ではないが、「フィラメントを知らない若いデザイナーや担当者もいる」として展示を決めた。生分解性という特性のほか、シルクのような質感や優れたドレープ性などを改めて訴求する。衣料用途が中心になるが、用途探索も併せて行う。

 エコリアルは原着の再生ポリエステルや植物由来エチレングリコールを用いたポリエステルなどがそろう冠ブランド。このうち部分植物由来ポリエステルは引き合いが増えており、カジュアル衣料などでの採用が目立ってきた。

 原着の再生ポリエステルは、糸の製造工程における二酸化炭素の排出量を大幅に減らし、染色時の水と化学品の使用量も削減できる。167デシテックスと84デシテックスをラインアップし、靴下などで使われている。

〈高田編物 AMIu/独自の撚糸技術を駆使〉

 高田編物(愛知県江南市)はリリヤーンを主体に独自の撚糸技術を駆使した独創性の高い糸を製造する。販売会社のAMIu(アミぅ、同)が顧客のニーズを織り交ぜながら販売を行う。

 高田剛代表取締役は「ジャパン・ヤーン・フェアは技術を発表する場と捉えている」と話す。顧客の要望に合わせて機械をカスタムし多種多様な糸の提供を続ける。こうした独自性が他社との圧倒的な差別化を生む。

 昨年特に引き合いが多かったのが伸縮性に優れるゴムひものような糸。主にマスクの耳ひもや資材用途に需要が多いという。ポリエステルとポリウレタンのカバリング糸(FTY)を、撚糸せずに引きそろえてひも状に織り成型する。さらに糸に凹凸(おうとつ)が出ないようQTワインダーで糸を巻き見た目も奇麗に仕上げる。白以外の生産も可能だ。

 ほかにも定番化しつつある綿100%のリリヤーンも少量から対応可。生産スペースによるが10㌔までなら10日程で仕上げる。素材となる綿糸は20~100番までさまざまな番手をストックしている。昨年開発した非常に長い毛が出ているリリヤーンも進化。これまでの最長は20㌢だったが、現在は27㌢まで伸びたそうだ。

〈滝善/秋冬企画の半数を更新〉

 滝善(愛知県一宮市)は秋冬向け企画強化の具体策として100品番のうち約半数を新シリーズとして更新する。

 同社のシーズン別売り上げ比率は春夏向け70%、秋冬向け30%。春夏物は100品番程がそろうが特に美濃和紙使いの綿混・ナイロン混糸が人気を博している。半面、秋冬向けの売り上げの底上げを課題に挙げ企画の見直しを実行。今回の大幅な更新に至った。

 特に提案を強化するのが「リッツ」と「ビーム」の2シリーズ。それぞれソリッドで98色をストックする。リッツはアクリルとウール混で32番手双糸と48番手双糸の2種類。編み地にすると膨らみとスポンジのような弾力性が出る。ウールは繊度21・5ミクロンの未加工原料を使う。

 ビームは高い抗ピル性を持つマイクロファイバーアクリルと19・5マイクロメートルの防縮加工を施したウール混の糸シリーズ。主に48番手の双糸使いで主にハイゲージ向けでの使用を想定。シルクのような光沢感とドレープ性の高い編み地に仕上がる。

 ほかにもサステイナビリティーの提案としてカシミヤやウールの裁断くずや落ちわたを再生した糸も訴求。「マチス」と名付けラインアップに加える。

〈タキヒヨー/伊のリサイクル糸・意匠糸展示〉

 タキヒヨーはイタリアのリサイクル糸や意匠糸を主に展示する。サステイナビリティー(持続可能性)を意識した全社的な取り組みの一環として打ち出しを強める。

 リサイクル糸はイタリア・ビエラにあるリサイクル紡績会社、アストロ社が製造。綿やウールといった天然繊維が主力で、世界の縫製工場で出る裁断くずを色ごとに輸入して粉砕し新たに紡績し直す。イタリアならではの独特な色使いも特徴的だ。「GRS」や「エコテックス」の認証も取得済み。

 同じくイタリアにあるアゼタ社の布帛向け意匠撚糸もラインアップ。尾州産地の生地商や糸商に販売実績があるが、さらなる知名度の向上を狙う。

 タキヒヨーは中・重衣料向けで、紳士服以外にもファッション性の高い婦人服向けの需要に細かく対応できるのが強み。これらの糸はミラノ支店を介することで国内販売を可能としている。

 さらに一宮工場(愛知県一宮市)の希少性の高い英式梳毛紡績機を生かした糸作りも紹介。繊維が持つ風合いや光沢を損なわないモノ作りを生かす。主に英国・シェットランド産として認証済みのウールや、南米産のノンミュールシングウール原料で糸の生産を行う。

〈トスコ/オーガニックラミー軸に〉

 トスコは、オーガニックラミーなどを積極提案する。サステイナビリティーへの関心が高まる中、顧客の問い合わせが増えており、下げ札も刷新した。オーガニックラミーとオーガニックコットンの混紡糸などをラインアップし、横編み用途を中心に訴求を図る。

 同社のオーガニックラミーは、農場の管理、原草の栽培、原料の加工、糸を紡ぐ工程、輸送、保管などの全てで国際基準を満たし、公的機関から認証を得てサステイナビリティーとトレーサビリティー(追跡可能性)を確保している。原草の品種改良を重ねているため、柔らかな風合いと光沢感といった特徴も持つ。

 同社によると、オーガニックラミーは最大30トン(原料ベース)しか生産ができず、希少価値の高さも伝える。100%使いに加え、混紡糸を打ち出すことで多用途に対応する。混紡糸ではオーガニックコットン混のほか、再生ポリエステル混もそろえる。

 今回の展示会では横編み用途の訴求を強める。約40点展示するが、横編みは製品で4、5点、生地で十数点を並べる。そのほか、織物と丸編み地でも紹介する。

〈豊島/サステ素材を中心に訴求〉

 豊島はサステイナビリティーや環境配慮はもちろん、トレーサビリティーを意識した素材を中心に提案する。廃棄食材の有効活用やオーガニック綿などを訴求し新規顧客の開拓に注力する。

 「フードテキスタイル」は廃棄される食材から染料を抽出して再利用する。捨てられていたものを生まれ変わらせることで、“食”を中心とした衣・食・住の生活シーンをファッショナブルに楽しむプロジェクトだ。

 生地や製品展開だけでなくトップ糸の備蓄販売も行う。トップ糸にはトルコ産のオーガニック綿を使用する。抹茶や桜など6種類の廃棄食材を活用し濃淡によって計18色そろえる。

 トルコ産のオーガニック綿「トゥルーコットン」は生産農場から紡績までの流れを追跡できるトレーサビリティーな素材だ。独占契約を結んだトルコの紡績グループ・ウチャクテクスティルが綿花栽培から紡績工程までを一元管理する。

 ほかにも、対摩耗強度に優れたナイロン「コーデュラ」を展示。綿混やウール混など独自性の高い素材でスポーツやアウトドア向けなどに提案する。

〈前多/幅広いアイテムに展開〉

 産元商社の前多(金沢市)はジャパンヤーンフェアに継続出展している。今回展では、一つの糸でファッションやインテリアなど幅広い用途に使える差別化素材を紹介する。重点提案商品は杢(もく)感、膨らみ、ストレッチ性などの特徴を持つウール調素材「リッチ」で、ブースには縫製品サンプルを多く用意し、製品までのアイデアを提案する。

 リッチはサイド・バイ・サイドコンジュゲート糸の形態回復性やソフト性、クッション性を維持しながら、特殊加工でウールのような杢感と膨らみを加えた素材。ジャケットやパンツなどファッションやユニフォームのほか、クッション性を生かして椅子張りなどインテリア用途などにも展開が広がっている。

 足元では新型コロナ禍で市場が低迷する中、糸作りからこだわったテキスタイルへの要望が高まっている。同社は、産元商社として様々な糸を扱うとともに、グループに織布3子会社を持つ特徴を生かし、最終製品を見据えた糸から生地までの提案に力を入れている。近年は複合やサステイナブルなどを視点に開発を強化しており、昨年のジャパンヤーンフェアでも紹介したリッチは、注目を高めている商品の一つである。

〈モリリン/機能性充実、エコファミリー〉

 モリリンはエコな原料や生産環境で生産を行う機能性に富んだ糸を「エコファミリー」とグルーピングして紹介する。

 主にプラスチックボトル原料を再利用した「エコメイド」シリーズは吸水速乾性と保温性を兼ね備えた機能糸に進化。吸水速乾性を持つ「クールマックスエコメイド」と保温性の「サーモライトエコメイド」の原綿ブレンドで排反した機能を実現。杢(もく)を含め129色をそろえる。夏は涼しく冬は暖かいのが特徴でアパレル製品から断熱資材向けにも適する。

 エコな生産環境に配慮した繊維としてゼロカーボンの「テンセルリヨセル」と「テンセルモダール」も訴求を強める。NGO団体「カーボンニュートラル」の定める基準にのっとり生産から流通までの工程でCO2の実質排出ゼロを実現。環境負荷の削減に取り組む生産背景もストーリーに含めて提案の差別化を図る。

 需要の高まる抗菌消臭素材「デオブロック」も加えた。抗菌活性値は2・2と高水準で機能性は申し分ない。アンモニアやイソ吉酸といった臭いの成分を90%以上減少させる高い消臭効果も持続する。さらにPH値のコントロール機能も付与し肌に優しい特性も備わる。

〈ケケン/試験と認証の両方を紹介〉

 ケケン試験認証センター(ケケン)は、国際認証の認証機関としての業務に乗り出し始めており、今回はサステイナブル社会の実現に向けた取り組みをアピールする。糸や原料の評価・分析も実施できるという機能面も訴求するほか、積極的な情報発信によってウールが持つ良さを来場者に改めて伝える。

 認証業務は今年春にも始める。対象はリサイクルコンテンツ基準に製造工程の社会・環境・化学的要件を含めたグローバル認証基準GRS、畜産におけるアニマルウェルフェアおよび環境基準をクリアした羊毛のコンテンツ基準RWS(牧場認証は実施しない)などの5規格。それらを改めて紹介する。

 他方、新型コロナウイルス禍でイエナカ需要が拡大し、肌触りの良いウール製品などが求められるようになり、原料が重視されている。糸や原料の評価・分析ができることを強みとして訴求する。敷物の評価・分析も対応しており、歩行帯電圧などの特殊な試験に応じられることも見せる。

 ウールの良さについては調湿機能や消臭性などの特徴を説明する。