特集 スポーツ(4)/ギア・パラスポーツ編/炭素繊維などが欠かせない存在に

2021年02月19日 (金曜日)

 炭素繊維や高性能繊維がスポーツギア向けの素材として広がりを見せている。自転車やテニスラケットといった分野で採用が増えているが、軽量性や強度がアスリートのパフォーマンス向上につながり、なくてはならない存在になっている。パラスポーツでもさまざまな分野で使用されている。

〈東レ/炭素繊維でスポーツ支援〉

 東レは、釣りざおとゴルフシャフト、自転車を主力に幅広い用途に炭素繊維「トレカ」と中間製品であるプリプレグ(炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のもの)を展開している。技術力や品質力、幅広いラインアップが評価されて世界トップシェアを誇り、スポーツ分野に欠かせない存在だ。

 釣りざおやゴルフシャフトでは1970年代から同社の炭素繊維が使われ、自転車向けも約30年にわたって供給してきた。ラケットやバットなどの用途でも採用されている。新型コロナウイルス禍の中でも、2020年度下半期(20年10月~21年3月)は前年を上回る水準で推移している。

 航空機用途で培ってきた高い技術力と品質力、プリプレグで約400種類という豊富なラインアップ、需要変化や顧客の要望に柔軟に対応できる生産能力、情報収集力などが強み。主力用途に加えて、スポーツシューズの底板など、新分野・領域の開拓も図っている。プリプレグは熱硬化だけでなく、熱可塑タイプの提案も強める。

 一般スポーツのほか、パラスポーツ分野でも使用されている。車いすや義足用途を中心に糸とプリプレグの両方を供給している。

〈帝人/自転車や釣りざおなどに〉

 帝人は、炭素繊維をスポーツギア用途に展開している。自転車、釣りざお、ゴルフシャフト、ラケット(テニス、バドミントン)を主力としているが、アイスホッケーのスティックや野球のバット、ランニングシューズなどにも広がってきた。パラスポーツ用の車いすにも採用されている。

 同社における炭素繊維のスポーツ(レクリエーション)用途への販売は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で一時は動きが止まったが、6月以降は釣りざおや自転車、ゴルフシャフト向けを中心に需要が急速に回復した。特に釣りざおは過去数年間の中でも高い水準で推移していると言う。

 炭素繊維そのものが持つ軽量性や高い強度がメーカーに浸透しているほか、同社の強みと言える汎用品から高級グレードまでそろう幅広いラインアップ、熱可塑性プリプレグの提案をはじめとする開発力が評価されている。2021年3月にはベトナムでプリプレグ新工場が商業生産を始める。

 一般スポーツに加え、パラスポーツにも領域を拡大している。OXエンジニアリングが開発したバスケットボール競技用車いすの構造部材の一部に用いられている。

〈地球快適化インスティテュート/選手から高齢者まで支える〉

 三菱ケミカルホールディングスグループの地球快適化インスティテュートは、炭素繊維でパラスポーツを支援している。2016年にパラ陸上競技の前川楓選手とスポンサー契約を結び、スポーツ用義足ブレードも開発した。こうした取り組みは障害のある人だけでなく、高齢者の歩行サポートにも活用する。

 近年はパラスポーツの注目度が高まり、使用される用具にも高い安全性や耐久性、機能が求められるようになった。地球快適化インスティテュートは、前川選手の協力を得て義足ユーザーの全力疾走動作の計測・データ解析などを行い、スポーツ用義足の開発に必要な知見を集積してきた。

 その中から生まれたのがスポーツ用義足ブレード「グリフォンビーク」だ。バイオメカニクスと計算工学に基づいてコンピュータ上でアスリートの動作を再現できる「デジタルアスリート」を構築し、走者の速度を最大化する義足ブレードの形状を導き出した。

 義足の開発は、パラスポーツ選手のパフォーマンス向上に貢献するだけにとどまらない。獲得した技術や知見を歩行アシストなどに生かし、将来は高齢者の“移動”を支える。

〈東洋紡/競技用車いすに「ザイロン」〉

 東洋紡が展開するPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維「ザイロン」は、現存する有機繊維の中で最高レベルの強度と弾性率、耐熱性、難燃性を持つ。資材用途などで活躍しているが、パラスポーツにも貢献している。競技用車いすのスポークに用いられ、選手を支える。

 ザイロンスポークの特徴は強度と軽量性を兼ね備えているところにある。一般的なステンレススポークの3倍の強度を持ちながら、重量は半分。もう一つ重要な意味を持つのが振動減衰特性で、ホイール同士がぶつかった際などにザイロンスポークがエネルギーを吸収し、ショックを和らげる。他の繊維では得られない特性と言える。

 テニスやバスケットボール用の車いすにザイロンスポークが使われるケースが多い。ザイロンスポークは米国の企業が製造・販売しているが、ザイロンヤーンを束ねて樹脂で被覆した構造を持つ。ザイロンヤーン同士は樹脂で接着されていないため、柔らかいと言う。

 卓球ラケットの合板の間にもザイロン織物が用いられている。ボールの反発やコントロールに差が出るとされ、パラ卓球にも使用されているとみられる。