特集 事業戦略Ⅱ(4)/ダイワボウレーヨン/機能と持続可能性を追求/リサイクル技術の活用推進/社長 福嶋 一成 氏

2021年02月25日 (木曜日)

 「レーヨンの機能化とサステイナビリティーの追求を推進するという方向性に変わりはない」――ダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は強調する。新型コロナウイルス禍で事業環境が一変し、大きな打撃を受ける一方で、機能レーヨンの可能性に対する期待も高まっている。このため海水中生分解性を確認したレーヨン短繊維「エコロナ」など環境配慮商品のウエートを拡大する。先進的なリサイクル技術の活用も積極的に推進する。

  ――2020年度(21年3月期)を振り返ると。

 上半期(4~9月)は、まさにジェットコースターのようでした。新型コロナ禍が深刻化する中、世界各国でロックダウン(都市封鎖)や店舗休業・外出自粛などが実施されたことでレーヨンの輸出でもキャンセルが多発しました。国内向けでもアパレル用途での販売が急減します。ところが下半期(20年10月~21年3月)に入ると、アパレル向けの不振は相変わらずですが、除菌シート向けなど不織布用途の販売が増加し始めます。米国で住宅着工数が増加しており、その波及効果でベッドマットに使われる防炎レーヨンの対米輸出が増加しています。こうしたことで上半期の落ち込みを何とかカバーし、結果的に現段階では計画以上の売上高になっています。アパレル、不織布、資材と多様な用途にバランスよく販売していたことに助けられました。

  ――新型コロナ禍によって事業環境が大きく変化しました。

 流通構造が大きく変わろうとしています。今後、ネット通販などEC(電子商取引)へのシフトが一段と進むでしょう。こうした変化は素材メーカーにとってチャンスでもあります。機能性などを消費者に伝える機会が増える可能性があるからです。実際にここにきて機能レーヨンへの引き合いが増加傾向です。食品分野ではテークアウトや個食の増加で不織布包材の需要が高まっており、その関係の商談も増えてきました。そして抗ウイルス素材への引き合いも増加しています。清潔への要求が一段と強まったのでは。これは世界的な流れでしょう。こうした動きは、特に不織布用途で顕著です。このため当社も紡績原綿用の製造ラインの一部を不織布原綿用に転換し、能力増強を進めました。

 SDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みの要求も新型コロナ禍にもかかわらず、かえって強まっています。特にグローバルSPAなどが、そこに今後の活路を見いだしているのでしょう。このため海水中での生分解性も確認している当社のレーヨン短繊維「エコロナ」が指名買いされるケースも増えてきました。今後、販売するレーヨンを全てエコロナに切り替えることも検討しています。

 湿式不織布でもケミカルフリーへの要望が高まっています。このため現在、水素結合する短カットわたの提案も進めています。これによりケミカルバインダーを用いずに湿式不織布を作ることができます。

  ――21年度(22年3月期)の課題と戦略は。

 基本戦略はこれまでと変わりません。レーヨンの機能化を進め、生分解性などレーヨンのサステイナビリティーを追求します。そのためにリサイクルに関する先進技術開発にも積極的に取り組みます。既に使用済みデニム製品をレーヨン原料として活用した「リコビス」を開発しています。その他、H&M財団と香港繊維アパレル研究所(HKRITA)がポリエステル綿混の使用済み衣料品からポリエステルと綿を分離回収するリサイクルシステム「グリーンマシン」を開発しましたが、このプロジェクトにも参加しています。回収されたコットンパウダーを当社がレーヨン原料として再利用することに成功しました。

 そのほか、日本の衛材メーカーが紙おむつのリサイクル技術開発に取り組んでおり、このプロジェクトにも参加しています。紙おむつの吸水材はパルプと高分子ポリマーでできていますが、このパルプをレーヨンの原料にアップサイクルします。

  ――3月の国際生地展示会「インターテキスタイル上海」にオーミケンシと共同出展します。

 オーミケンシさんがレーヨンの自社生産から撤退したことから、当社で一部を受託生産することになりました。これまで日本のレーヨンメーカーはさまざまな機能レーヨンを開発してきました。その“ジャパン・レーヨン”の技術を守っていくという考え方で一致しました。オーミケンシさんの中国子会社である近絹〈上海〉商貿が中国で当社のレーヨンも販売することになり、販売網の拡充にもなります。中国では「日本製」原料を求める動きが強まっているので、インターテキスタイル上海でも両社で“ジャパン・レーヨン”を打ち出します。

 そのほか、ドイツのケルハイムファイバーズとの提携・技術交流もあります。環境関連などで最新技術を積極的に導入します。