特集 アジアの繊維産業Ⅰ(2)/対談/商社OEMの現状と今後/果たすべき新たな役割とは/豊島 東京十七部部長 岩井 清貴 氏/蝶理 アパレル部長 前川 達哉 氏

2021年03月29日 (月曜日)

 新型コロナウイルスの感染拡大は、商社が手掛けるOEM/ODM事業を根幹から揺るがせた。国内の衣料品販売の落ち込みに拍車が掛かり、海外のサプライチェーンは分断され、従来のビジネスモデルが立ち行かないほどの危機感が広がっている。かつてない逆風が吹く中、アパレルOEMはどうなっていくのか。商社の担当者に現状と今後の在り方を語り合ってもらった。

(3月9日にオンラインで実施)

〈工場管理はリモートで〉

  ――新型コロナウイルス禍の発生以降、生産現場の状況はいかがでしたか。

 岩井氏(以下、敬称略) まず中国についてですが、新型コロナの問題が発生した当初は、一時的に生産がASEAN・南アジアへ移行しました。感染者が減少し始めた4月ごろからは通常の状態に戻っていきました。一方、ASEAN・南アジアでは、昨年秋ごろに各地でロックダウン(都市封鎖)が解除されてから、稼働率を下げながらも何とか生産が続いている状況です。

 前川氏(同) 昨年4月に緊急事態宣言が発出され、日本国内の衣料品販売が厳しい状況に追い込まれると、われわれにもオーダーのキャンセルが相次ぎました。それに伴う減産が生じたことで、中国はもとよりASEANや日本でも生産現場が混乱を来しました。防護服などの衛材関連でしのぐこともありました。

  ――こうした非常事態に、どのように対応していますか。

 岩井 生産管理者が海外へ出張できないので、現地スタッフの増員で、工場や検品所での品質管理の補強を図っています。日本では、現地スタッフから送られる動画・画像などで状況把握に努めています。改善を要する工場については、第三者機関と連携して現地調査を行い、一部では360度カメラによる撮影動画も駆使して、より正確に実態をつかむようにしています。主要な検品所の拠点長とは密にコミュニケーションをとり、検品所や地域の工場についての情報交換をしています。

 前川 1年以上も海外出張に行けない事態は、入社してから初めての経験ですね。戸惑いもある中、試みたのがオンラインでの工場の監査、認定でした。オンラインではお互いに伝え切れない部分も多く、苦労もしました。しかし、こうしたノウハウを蓄積できるのは、今後に向けてプラスになるはずです。改めて海外出張の意義を考えるようになったのも、気付きの一つです。結局、何をするにも、パートナーとの信頼関係があってこそだと痛感しています。

 岩井 確かに、無駄な出張もあったかもしれないですね。ただ、現地に足を運び工場の状況を直接確かめることの意義は大きいので、全てをそぎ落とすわけにもいかず、そのあたりの加減が難しいです。

〈小ロットQRのニーズ増〉

  ――OEMに対するニーズに、どのような変化が表れているでしょうか。

 前川 新型コロナ禍で〝イエナカ需要〟が増える一方、スーツ、セットアップといった外出着が大幅に減少しました。当社は中高級ゾーンのお客さまが多いので、影響は大きいですね。生活様式が変化し、消費者がファッション衣料にかける金額は明らかに減っていき〝コロナ後〟もカジュアル化は続くでしょう。

 岩井 今のマーケットでは、ボリュームのオーダーはごく一部です。当社のお客さまもほとんどが新型コロナ禍の影響を受けているため、先が見えない状況では、小ロットQRの要求が大半を占めるようになります。要求に応えるため、材料をストックしてQRに対応できる生産体制を整えています。

  ――国際情勢にも、事業環境に影響を及ぼす要素はありますか。

 前川 米国の前政権の時代には、欧米のファッションアパレルが中国からASEANに生産を大きくシフトさせました。欧州では中国に対する人権問題を問う動きが加速している印象です。ただし、日本のマーケットに向けて事業を展開するわれわれにとっては、中国企業は依然として欠かせないパートナーです。

 岩井 むしろ中国については、原材料、人民元の高騰に伴うコスト上昇の影響の方が大きいと感じていますね。

  ――ミャンマー情勢が緊迫しています。

 前川 地域によって状況が大きく異なるらしく、当社と関わりのある郊外の工場は通常の業務をこなしているようです。しかし、航空や船舶での輸送の手配ができたりできなかったりと、物流面の混乱ぶりが伝わってきています。秋冬のデリバリーで、1カ月の納期遅れが発生したりしています。

 岩井 現地からの情報が錯綜(さくそう)しているので、お客さまへの丁寧な説明が重要です。これだけ大きく報道されていますから、ご理解はいただけていますが。まだ「秋冬のカジュアルのアウターはミャンマーで」とお考えのお客さまもいるのですが、あまりにも先行きが不透明で対応が難しいところです。中国や他の第三国でカバーするのか、模索が続いています。

  ――ASEANシフトの現状と今後について。

 前川 当社は2010年ごろから、ベトナムを中心にミャンマー、カンボジア、バングラデシュなどで生産を拡大してきました。特にベトナムでは、素材の供給をかなりの規模で進めていますので、今後も生産の比率が高まっていくと見込んでいます。10年が経過した現在は、作り場を開拓するというより、深く付き合っていくパートナーをしっかり選定する段階に入っています。

 岩井 小ロットQRの流れに合わせ、弊社も全般的に中国回帰の傾向にあります。計画生産が可能なスポーツウエアやワーキングは一部、価格競争力のあるASEANでの生産に落ち着いていくのかなと考えています。

〈中国の重要性は変わらず〉

 ――中国での内販は進んでいますか。

 前川 中国での製品販売は当社にとって大きな課題でして、私も成長分野だと強く認識しており、昨年は日本から中国に30代の営業担当者を駐在員として派遣しました。新型コロナ禍からいち早く回復した中国市場は、極めて魅力的なのは間違いありません。当社も結構な人数の現地法人を構えているので、OEMで培ったモノ作りのノウハウや企画提案力を中国のアパレルに対しても活用していきたい。〝川上〟事業での強さも生かせると思います。上海現地法人を通じた欧米向けのビジネスにも力を入れます。営業担当者はもっと海外に出るべきであり、グローバルな経験を積んで日本に戻ってくる機会を作ることが重要ですね。

 岩井 中国の内販は、新型コロナ禍でも順調に推移していると聞いています。素材関連で言えば、中国アパレル向けの衣料生地の販売が増えています。製品関連のOEMでは、日系スポーツメーカーやローカルのカジュアル向けが伸びているようです。ただ、自分もかつて中国に駐在していたため分かるのですが、ローカル企業に関しては支払いの習慣の違いが往々にして問題となります。歩みが遅くなっても、与信には充分に注意しながらローカル企業と付き合っていく必要があります。当社も上海から欧米への販売を手掛けており、現地社員の戦力化、また展示会への積極的な参加、3Dソフト導入といった各種の取り組みを、日本から支援しています。

 ――CSR(社会的責任)監査にはどう取り組んでいますか。

 前川 法令順守や環境保全、リスクマネジメントといったCSRに関する項目を設けたアンケートを定期的に実施しています。国内はもとより海外の仕入れ先に対し、当社の基準に沿った共通のマニュアルで工場監査を行っています。

 岩井 CSR監査については、弊社も品質管理室が中心となり行動規範を定めて実施しています。ただ、監査といっても上から目線ではなく、サプライヤーの現状を把握し、そこから共にどう改善していけばいいのかを検証する機会だと捉えています。持続的取引のための監査という認識です。

〈サステ対応は必須要件〉

  ――サステイナビリティー対応が一層求められています。

 前川 サステイナブルに関して、当社はどちらかと言うと商材の取り組みが多いですね。再生ポリエステル糸の独自ブランド「エコブルー」は象徴的な商材ですし、植物や鉱物から抽出した天然色素を繊維に固着させる染色法「ナチュラル・ダイ」も長期にわたり提案を続けています。最近では、ウズベキスタン産のオーガニックコットン「フェルガナコットン」なども打ち出しています。アパレル産業が大量廃棄などで環境に悪影響を及ぼす業種だと見られる風潮が、新型コロナ禍で一層強まりました。サステイナブル対応は、商品を供給する上で絶対に外せない要件になっていきそうです。

 岩井 弊社の取り扱いの多い綿にはどうしても力が入ります。トルコ産コットン「トゥルーコットン」の拡販には素材部門・製品部門全体で注力しています。抗ウイルス、制菌・抗菌、防臭加工の機能を発揮する薬剤の取り扱いも、サステイナブルの取り組みの一環だと捉えています。商材以外では、3次元(3D)デザインの導入でサンプルレスを図ったり、オンデマンドの生産で在庫を抱えないというような無駄をなくす努力も必要です。

  ――デジタル活用を含めた生産の効率化をどのように進めていますか。

 前川 デジタル化は今後のアパレル事業にとって重要なファクターですので、当社も3Dシミュレーションソフトを導入し、オペレーターを育成している最中です。3DCADが標準装備とされる状況を見据え、備えていかなければなりません。

 こうしたことは生産前の段階での効率化だと思いますが、生産管理のデジタル化も検討しています。しかし、小ロットQRへの対応が増える中、パートナーの縫製工場に対し、いたずらに効率化を要求するのは負担が大き過ぎます。パートナーも確実に利益を上げられるようにしてウィン・ウィンの関係を構築するというのが、効率化の本来の目的だと認識します。

 岩井 材料をストックしてQR生産に対応しています。3Dソフトを使ったバーチャルサンプルの提案も進めていますし、使いこなす人材の育成にも取り組んでいます。生産進行の管理については、クラウド上で各工程を確認できる体制を築いています。

  ――今後、OEM事業はどのようになっていくのでしょうか。

 前川 われわれ商社の役割がどうあるべきか、という命題につながりますね。これまで商社は大量生産型、プロダクトアウト型のビジネスモデルが最も収益性が高いという認識でいました。しかし、消費の多様化が進む今後は、マーケットインの発想がビジネスには不可欠になります。それはアパレル、小売り、(自社製品をネットで直接消費者に販売する)D2Cまで業態に関係なく、共通して言えることでしょう。実際、豊島さんはクラウドファンディングなどを活用して自社商品を販売されていますね。単なるOEMのモノ作りを担うだけでなく、さまざまなモノ作りに携わる中で課題を解決する〝総合コンサルタント〟の立ち位置を目指す必要があります。

 岩井 独自商品の開発・販売は将来に向けた取り組みの部分が大きいですね。喫緊の課題は、衣料品ロスや環境負荷をもたらさない生産・販売の仕組み作りだと思います。3D技術の活用によるサンプルの削減、小ロットQR強化、データに基づく販売予測などでいかにロスをなくしていくか、という地道な積み重ねが、今後のビジネスの可能性を切り開いていくと考えます。

  ――ありがとうございました。