特集 アジアの繊維産業Ⅰ(6)/わが社のアジア戦略

2021年03月29日 (月曜日)

〈一村産業/リモート技術指導が軌道に〉

 一村産業は近年、「4極オペレーション」と題したプロジェクトを推進している。日本、インドネシア、ベトナム、中国がその対象。この4極で糸や生地を生産し、糸・織り・染めという各工程をコスト、納期の面で最大限有利になる最適な形で組み合わせるものだ。

 今期(2021年3月期)は生産数量が全体で前期比30%減少した。ポリエステル短繊維が主力のインドネシアは糸が20%減、生機が35%減。ベトナムは糸が30%減、生地全体が20%減だったが、生地を生機と染め生地に分けると染め生地は拡大した。中国は日本からの置き換えを進めたことなどで糸が90%増、生地が25%増と大きく伸びたが分母はまだ小さい。

 インドネシア生産品は中東民族衣装が主要市場だが、市況悪化に苦しんだ。ベトナムでは遠隔地からのライブ技術指導が軌道に乗り始めた。日本と現地の協力工場をオンラインで結び、ピンポイントで技術指導することでC反発生率を抑制するものだ。導入した下半期から早速効果を発揮しており、「営業スタッフも安心して提案できるようになった」。中国は、生産量は伸びたものの大口販売先が消滅したことで販売は不振、法人は赤字となった。

 来期は中国法人の黒字転換やベトナム生産の反転を目指す。インドネシアは中東要因で厳しくみる。

〈ブラザー工業/非衣料向けの提案に注力〉

 ブラザー工業は工業用ミシンの海外販売で非衣料向けの提案に力を入れる。新型コロナウイルス禍による商況の変化で衣料向けの需要復活には時間がかかると推測。技術力や自動化システムといった同社の強みを生かした非衣料向けのミシンを訴求する。

 衣料品の低価格化に加えて、新型コロナ禍の影響で在庫を持たない傾向やカジュアル化が進展。海外メーカーの安価なミシンの台頭もあり生産国への設備投資は限定的だ。北村達也工業ミシン営業部長は「当面、アパレルの領域は厳しいだろう」と語る。

 非衣料向けとしてエアバッグやカーシートといった自動車内装材向けのほかに靴や鞄などの厚物品向けを狙う。2018年からこうした縫製物に対応できるミシン「ネクシオBAS―360H/365H」、翌年には広い縫製エリアがあり、より多彩な縫製物に対応できる「370H/375H」を発売した。

 これらのシリーズを訴求し他社との差別化を図る。特に自動化を含めた技術力や通信ネットワークのシステムは大きな強みだ。同社は産業機器や通信カラオケを手掛ける部署があり、ミシンの開発や提案で各部署とのシナジーを発揮できる。「他社にはない技術の広がりがある」と述べる。

 同シリーズは現場では効率化や省人化を担うマテリアルハンドリング機器と組み合わせて使用される。使い勝手の良さから中国や欧米での販売は堅調だ。

〈双日/コスト競争力とQRを両立〉

 双日の生産現場は、新型コロナウイルス禍の発生直後に一時的な混乱はあったが、2020年5月以降は順調に回復した。同年の2月から4月にかけては、中国を皮切りにASEANでも工場が操業を停止。復旧後も物流が混乱状態にあり、調達(輸入)に大きな影響が出たが、その混乱も次第に収まったという。

 それでも、移動が制限される非常事態が続く。同社は客先、仕入れ先とはリモートで商談や情報共有を行い、情報伝達の遅れを最小限に抑えた。

 21年に入ると、ミャンマー情勢もアジアの生産に影響を及ぼしている。同国から仕入れをしている顧客の調達に支障が生じたため、他のASEAN諸国や中国への振り替え生産で対応する。

 社会環境が目まぐるしく変化する中、同社が手掛けるアパレルOEMも転換が迫られている。日本向けの市場では、コスト低減にとどまらず、商品企画の高速化、在庫抑制のためのQRなどへの要求が高まる一方だという。これらの要求に応えるための生産地として、中国の優位性が見直されている。一方で、コスト競争力の面ではカンボジア、ベトナム、インドネシア、バングラデシュが優位であり、QRとコスト競争力のバランスを見極めた調達が必要になる。さらに品質面でもニーズに応えることで、OEM事業者としての存在感を高めていく。

〈クラボウインターナショナル/各国をバランスよく采配〉

 クラボウインターナショナルは、中国、バングラデシュ、インドネシア、ベトナムなどで縫製品OEM/ODM事業を展開している。2020年3月期の数量ベースの国別実績は、中国42%、バングラデシュ34%、インドネシア14%、ベトナム8%、その他2%だった。

 近年はチャイナ・プラスワンを推進してきたが、新型コロナウイルス禍でQRや小口生産が求められるようになったことから、中国の見直しを図る。人件費の安いバングラデシュは価格訴求型商品が中心で、今後は現地での素材調達に力を入れる。インドネシアは自社縫製工場であるAKMガーメントと周辺協力工場による品質の高さが強み。ベトナムはタイのクラボウグループとの連携による素材調達力に秀でる。「リスク分散は不可欠」(西澤厚彦社長)とし、各国生産をバランスよく采配していく。

 今後さらに力を入れるのが、クラボウグループとの連携。タイやベトナム、インドネシア、中国など各国で拠点間連携を進め、商品開発につなげる。社会的な企業責任として、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を意識した調達構造も確立する。

 内販拡大もテーマに掲げており、中国では日本の素材を活用したODM事業が定着し、インドネシアでは日系企業向けユニフォームや輸出で実績を積んでいる。

〈日新運輸/DX導入し取引先拡大へ〉

 アパレル物流を主力とする日新運輸(大阪市此花区)は来期(2022年3月期)の重点方針に、デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入、活用を掲げる。

 国軍によるクーデターで混乱するミャンマーでは、ヤンゴンとタイ・バンコクを陸路で結んで輸送時間を大幅に短縮する同社独自のサービス「スマートマイロード」も休止状態を余儀なくされた。昨年春に事務所を開設したバングラデシュも、新型コロナウイルス禍で物量が減り、苦戦を強いられている。

 こうした状況下、DXを顧客数拡大に活用する。国内衣料品市況悪化や廃棄問題を背景にアパレルや商社からの物流総量が減少しており、「今後も元には戻らない」と見る。顧客数拡大に向けては対応する人材の数や手間、労力がかかるが、これをDX導入で解決する。「人海戦術では限界がある。ネット受発注システムを組んで効率的に進める」とし、1月に新システムを稼働させた。

 OCR(光学的文字認識技術)も導入する。同技術は手書きや印刷された文字を、イメージスキャナーやデジタルカメラによって読みとり、コンピューターが利用できるデジタルの文字コードに変換するもの。この導入を、ペーパーレス化、人的コストの削減、テレワークの推進に役立てる。