北陸産地特集(2)/新常態への対応を

2021年03月31日 (水曜日)

〈ブランド糸をさらに強化/北陸品の輸出拡大へ/蝶理〉

 蝶理の繊維本部は4月1日付で機構改革を行い、3事業部体制から2事業部体制とするとともに、繊維第一事業部下の部を商材・機能軸で再編する。今期は横断型プロジェクトが成果を挙げた中、来期は専門分野での深堀りと、横の連携で事業強化を図る。

 同日付で海外と国内の人材を入れ替える異動も積極的に行う。海外出張が難しい状況が続くとみられる中、日本と海外が連携しやすい形にしてグローバル生産・開発をスムーズに進める狙い。

 繊維原料部、車輛資材部、資材部、テキスタイル部で構成する繊維第一事業部は来期、前年比15%増を計画する。商品面ではサステイナブル素材群「エコブルー」のさらなる拡大を図る。けん引役は再生ポリエステルで、ウツミリサイクルシステムズに導入した再生ペレット押出機も稼働を始めた。「世界的にリサイクルへの要望が高まっている」(吉田裕志取締役上席執行役員)ことに対応するもので、現在展開する年間1万トンに加えて1・5万~2万トンの供給増となり、糸、生地、製品の各段階で拡販する。蝶理の再生ポリエステルであることを証明するトレーサビリティーも確立しているほか、北陸産地の工場から出る繊維くずを有効活用する循環型リサイクルも展開する。

 リサイクルや植物由来原料によるナイロン糸の提案も開始したほか、ポリエステル原着糸、環境配慮型撥水(はっすい)素材などを含めて総合的にサステイナブル素材を強化する。

 ストレスフリーなリラックスウエアへの需要が高まる中、高伸縮糸「テックスブリッド」の拡販にも力を入れる。用途が広がる中で糸種も拡充している。

 北陸で生産したテキスタイルを欧米市場に拡販していく取り組みも強化する方向で、「出資も視野に入れながら、産地の出口強化を進めていく」とする。

〈来期は衣料分野を回復/AJLの稼働が鍵に/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスの繊維本部は来期(2022年3月期)、売り上げを前年比10%増、営業利益を20%増とする計画だ。資材用途をさらに強化するとともに、衣料用途も回復させる。

 衣料は来下半期(22春夏向け)から大きく回復させる計画。サステイナブル素材群「エコセンサー」を国内外で伸ばすなどテキスタイルの開発強化に注力する。国内の生地販売は厳しい環境が続くとみる中、縫製までの一貫展開を強化して拡大につなげる。

 北陸産地との取り組みも回復させる。織物は特にウオータージェット(WJL)での回復が早く、スポーツ関連は好調なアウトドアを中心に21秋冬向けから数量を戻している。来期は19年比90%の水準には戻す考え。エアジェット(AJL)のアウター用途や裏地の回復がカギとなり、裏地のジャカード機でのアウター用途の生産や、堅調に推移する民族衣装用で裏地のスペースを活用するなどアウターと裏地の部署を統合した効果を出していく。

 ニットは堅調なラッセルを中心に資材用途が今下半期から回復基調にあり、徐々に回復しているという丸編みでの取り組みも来期は10%増を計画する。懸念は撚糸だが、商品の高付加価値化に向けて産地との取り組みを強化する。

 「エコセンサー」は国内外に拡販していく計画で、北陸産地との取り組みによる開発を強化する。ジアセテートの糸販売も拡大する計画で、今期は前年比30%増を見込み、来期はさらに伸ばす。

 順調に拡大する資材分野は来期、横ばいを計画する。不織布はスパンボンドの米国向けを伸ばすとともに、エアバッグ包材などの車両関連や、3次元立体編物「フュージョン」、耐炎繊維「ラスタン」などの独自商材を伸ばす。好調なジオテキスタイルは取り組み先を増やすことを検討する。

〈来年1~3月に元の形へ/再生ナイロン糸拡充/東レ〉

 東レの繊維事業本部は「国内生産の維持と産地との取り組み強化」を重点方針の一つに掲げている。三木憲一郎常務執行役員繊維事業本部長は産地との取り組みについて①国内マザー工場における原糸・原綿全素材の生産基盤を維持・強化②国内で先端材料や革新プロセスなど最先端の研究・技術開発を推進――により産地への供給責任を果たすとともに、産地との取り組みをより強固にして高性能・高感性素材の創出を図る考えを示した。

 今期の原糸投入量は昨年7~9月を底に回復している。昨年4~6月は秋冬物の受注残もあり80%だったが、7~9月は生産調整をかけて70%となった。ここから回復基調となり、10~12月は85%、足元は90%の水準になった。自動車関連は好調な一方、まだ動きが鈍い分野もあるものの、全体として回復に向かっていると言う。

 北陸産地への発注量も同様の形で推移した。新型コロナウイルス禍前の状況に完全に戻るには少し時間がかかる見通しだが、「産地との取り組みは重要。2022年1~3月には元の水準に戻したい」とする。現状については「ナイロン高密度織物が最も影響を受けている。中国品のレベルも上がっており、価格が下落している」とし、新たな開発で差別化を進める重要性を指摘する。

 サステイナブル素材の拡販に力を注ぐ。ポリエステルでは、ペットボトルリサイクル繊維「&+」(アンドプラス)の採用が広がり、既に異形断面や細繊度など多様なバリエーションの生産を可能としているが、今後はナイロンでも再生糸を拡充する。工場の繊維くずからのマテリアルリサイクルで再生ナイロン糸の展開を既に始めているが、名古屋事業場でケミカルリサイクルを始めることも検討中で、22年半ばからの展開を目指す。インドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS)など海外拠点の活用も視野に入れる。

〈来期はピークの80%へ/エコの機能糸を軸に/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアの繊維素材本部は、北陸産地との取り組みを来期にピーク時の80%の水準に回復させ、その次の期に元の形に戻す。原糸販売ではエコを基軸に機能糸の提案を強化し、テキスタイルではインテリアや資材など注力分野での取り組みを増やす。

 今期はインテリアや車両資材など堅調な分野はあるものの、ファッションなど総じて新型コロナ禍の影響を受けた。来期も市場環境は引き続き厳しいとみる中、インテリアや資材、スポーツ、ユニフォームなど重点を置く分野をさらに強くする方向で取り組み、22年に元の形に戻す布石を打つ。

 原糸販売はエコに軸足を置き、拡充している再生ポリエステル「エコペット」の機能糸や「ソロテックス エコハイブリッド」などの提案に力を入れる。今期もエコの機能糸への注目は高く、採光プラス紫外線遮蔽、遮熱プラス消臭、吸水速乾などが伸びている。

 テキスタイルもエコに軸足を置く。チョップ以外でも原糸販売で終わらずテキスタイルにしての展開を増やす方向で、インテリアやユニフォームなどでもエコの機能糸を使ったテキスタイル展開を伸ばしていく。

 新しい商品を作り出していくために北陸産地との取り組みを重視し、「来期は産地との対話を増やしながら、新しい取り組みを進めていく」(門脇秀樹繊維素材本部長)とする。

〈繊維は全用途を回復/産地との取り組み強化/一村産業〉

 一村産業は今期、売上収益が前年比15%減だが事業利益は前年比微増となる見通し。コストダウンや経費削減が寄与する形で増益は非繊維がけん引した。

 繊維は約20%の減収で、約10%の減益となる見通し。売り上げは7~9月が前年の60~70%になったのを底に、10~12月は82%、1~3月は85~86%になるなど回復基調だが、主力のユニフォーム、欧米向けのカジュアル、中東向け、旗・のぼりなどの資材など全用途が売り上げを落とした。

 来期は売上収益が10%増、事業利益が13%増と増収増益を計画する。繊維も増収増益の計画で、海外では中国や欧米向け、国内ではユニフォームや資材など全ての用途を回復させる。

 ニーズが増えている機能やサステイナビリティーを切り口にした商品群を強化するとともに、新しい商流作りに注力する。デジタル技術の活用も引き続き重視し、「リモートの技術サービスは武器になっている。引き続きDX(デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション)の活用を進めていく」(藤原篤社長)とする。

 今期の調達量は売り上げの落ち込みとともに減少したが、「需給の調整は海外生産を減らす形で行い、国内生産は維持した」と言う。来期もこの方向は継続する考えだが、「明らかにコスト競争力に差があるものを生産し続けることは理にかなっていない」とし、コストダウンの支援や商品の高付加価値化を進めていく考えを示す。

 原材料の中には玉が足りず調達が困難になっている品種も出ている中、産地への安定供給も来期のポイントとなる。藤原社長は北陸産地との取り組みを引き続き強化していく考えを示し、「安定的に発注を継続するとともに、産地が開発するサステイナブル素材を販売していくパートナーとしての存在感も高めていきたい。原材料の安定供給を含めて、生産に関する支援も引き続き行っていく」と話す。

〈広幅ドビー機を拡充/B2Cにも注力/前多〉

 前多は織布子会社の前多工業で産業資材用途の強化に向けた投資を行う。今月中にウオータージェット(WJL)の平機8台を廃し、7台をカム機に改造する。ツイルなどドビー機で安定的に織っていた品種を,カム機に置き換えて生産性を高める。WJLでは狭幅のドビー機8台を廃棄し、広幅(210センチ幅)のドビー機13台を新たに導入する。新規に導入するのは全て津田駒工業製のWJLで、3月で設置を終え、4月から稼働させる予定。

 ビーミングも6~7月に新しい設備を入れ、広幅高密度織物の生産体制を整える。廃棄する織機の一部は鹿島テックスに移管する。

 2021年5月期は新型コロナ禍でファッション用途や中東向けが落ち込む一方、インテリアは落ち込みが小さく、資材用途は安定して推移する。今回の設備投資は、広幅でさまざまな品種が織れるドビー機を拡充して資材用途の強化につなげる狙い。リビング関連や、土木、資材、農業、メディカルなどを含めて拡大を狙う。前多工業では、一昨年にも資材強化のためにエアジェット織機を増設しており、着実に体制整備を進めている。

 今期は主力の生地販売に加え、B2Cの最終製品展開も強化している。今月にはマスク、エコバッグに続く商品として、採光性と紫外線遮蔽(しゃへい)性を両立させた「日光浴カーテン」を電子商取引(EC)で発売した。生地作りのノウハウを生かした最終製品の開発は、毎月新商品を打ち出す方向で進めおり、スーツなど衣料品の展開も視野に入れている。今後は最終製品に近いところでの開発を生地販売にも生かすとともに、B2Bでの製品提案にもつなげていく。

〈買いやすい価格帯を強化/商品構成を改めて見直し/広撚〉

 広撚はサステイナブルを視点にした商品を拡充するとともに、買いやすい価格帯の商品幅を広げて顧客対応力を強化する。モノ作りを一から見直した開発により、重点を置くトリアセテート、アセテート系、ポリエステルの各素材で独自の特徴と買いやすい価格帯を両立させた商品を打ち出す。

 今期(21年5月期)は新型コロナウイルス禍の影響を受けて苦戦する中、今期中に来期の黒字回復に向けた手を打つ。在庫圧縮など財務基盤の強化を図るとともに、中身を精査して商品ラインナップを変えていく。藤原宏一社長は、「広がり過ぎている部分は絞り込むとともに、重点を置く部分は奥行きを付けて対応力を高める」とする。

 特に力を入れるのが、買いやすい価格帯の商品群で、モノ作りを根本から見直して合理化を図り、素材の魅力と適正価格を両立させた商品を打ち出していく。重点を置くトリアセテート、アセテート系、ポリエステルの各素材で開発を進めており、間もなく本格提案を始める。価格へのニーズが高まっていることが背景にあり、「単に安くではなく、独自の特徴を持たせた上で、適正価格で使いやすい商品を拡充していく」とする

 サステイナブル素材の開発も重視する。顧客からの要望が増える中、既存商品の再生糸への置き換えは既に進んでおり、今後も市場のニーズに沿って開発を進めていく。再生ポリエステル糸使いだけでなく、トリアセテートやキュプラなど再生セルロース繊維や天然繊維使いを含めてトータルで開発を進めていく。

〈サステ素材を拡充/マスクで抗ウイルス/マツミ〉

 マツミは、主力のファッション用途で、再生ポリエステルを軸とするサステイナブル素材の開発に注力している。糸から作り込む形で2018年から開発を強化しており、昨年から試織を重ねて商品を広げてきた。まずは主力商品から再生ポリエステル100%への切り替えを進めている。今後はペットボトルからのリサイクル糸のほか、ケミカルリサイクル糸、オーガニック綿、漁網からの再生ナイロン糸などさまざまな素材を使ってサステイナブル素材を拡充していく。

 製品OEMでのノウハウを生かし、マスクの電子商取引(EC)も始めている。製品ブランド「FiBERA」(フィベラ)では、まずファッション性に重点を置いたマスクを展開したが、このほど小松マテーレの抗ウイルス加工「エアロテクノ」を施したタイプも加えた。エアロテクノは新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)に対し、室内の明るさ(千ルクス)で99・9%以上の感染能力低減効果を確認している。

 マスクの表地は清涼感のある麻混のデニム調織物と2ウエーストレッチ織物の2種類があり、裏地は共に接触冷感性に優れるメッシュを使用する。麻混は緯にPTT繊維「ソロテックス」を使っており、シワになりにくい特徴もある。