2021年春季総合特集(4)/どうなる輸出/チャンスは平等に与えられている/Muto Planning 代表 武藤 和芳 氏

2021年04月22日 (木曜日)

 新型コロナウイルスが全世界にまん延したことで、繊維貿易にも大きな支障が出ている。日本繊維産業の悲願の一つである生地輸出拡大もご多分に漏れない。欧米で開かれるリアル展示会の休止が続き、渡航もできない状況の中、この悲願は果たして達成できるのか――。旧瀧定と旧瀧定大阪の貿易部門で生地の輸出入に長年携わり、欧州など現地のアパレル事情にも精通するMuto Planningの武藤和芳代表に課題と展望を聞いた。(取材は3月下旬)

〈商談停滞、商流も変わる〉

  ――現在の欧米市場はどのような状況なのでしょうか。

 欧州ではドイツやフランスなどでロックダウン(都市封鎖)が続いています。アパレルブランドは総じて苦戦を強いられており、売り上げは大体、例年と比べて30~50%ダウンしているようです。

 こうした状況下でアパレルへの生地提案も停滞しています。大手アパレルへの訪問はほぼ不可能です。アパレル側が訪問自体を禁止としているからです。

 生地の展示会も、「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」や「ミラノ・ウニカ」(MU)などの大規模展がリアル展を休止し、デジタル展に切り替えて開催しています。ローカルな小規模展はそれなりに開催していますが、盛り上がりに欠けるというのが実態です。デジタル展について言えば、主催者から「中小規模のアパレルからの問い合わせは多いが、大規模アパレルからの反応はごく少数」という声も挙がっており、デジタル展がリアル展を補完できているとは言えません。

  ――アパレル各社はどう生地を仕入れているのでしょう。

 生地メーカーからは、「長年取引があり、信頼関係がしっかりしたアパレルからの発注はある」との声が聞かれます。新しいところから仕入れる機運ではないということです。生地契約決定に至るまでは非常に時間がかかっており、長期戦を強いられているようです。こういう状況下ですから、素材背景や生産背景が明確なものが好まれる傾向が強まっています。

 商品傾向としては、カジュアルな生地やホームウエア用の生地に人気が集まっています。編み地やスポーツテイストの生地、ストレッチ生地などです。綿のセレクトが多いのも特徴です。

 イタリア、フランスではデニムへの引き合いがかなり強まっています。

 電子商取引(EC)の際に注目されるような、見た目に特徴のある一目で違いが分かるような生地も人気です。ジャカードやプリント、先染めなどです。サステイナブル関連にも注目が集まっています。生分解性や再生繊維などです。

 日本の生地への要望として挙がるのは中国で作ることが難しいもの。例えば差別化された長繊維などです。こうした際には多少の単価アップも容認されるようです。

〈伊の生産機能がピンチに〉

  ――新型コロナ禍で欧州のモノ作り機能も弱まっていると聞きます。

 欧州の生地生産国であったイタリアが疲弊しています。ロックダウンが続き、まともに生産ができないためです。代替として中国、韓国、台湾、トルコなどから生地を手当てする流れができてきています。もちろん日本も対象に含まれています。イタリア産地が崩壊するとなれば、これまでも世界的に評価が高かった日本製生地が注目されるのは当然の流れです。イタリアでよく作られていたウール生地や綿のシャツ地などに勝機がありそうで、実際に発注があったという話も聞きます。

〈現地事情を知ることから〉

  ――日本製生地を欧米に輸出したいと考える日本企業の課題とは何でしょうか。

 まず、これまでの海外販売で得た反省点をほとんど生かせていないことが問題です。出張ができないため相手と顔を突き合わせた商談ができず、ニーズをくみ取った上での生地の修正もできません。景気悪化に伴い、支払い条件が悪くなるという問題もあります。

 デジタルが一定の補完ツールになるはずなのですが、日本の生地メーカーや産地企業はデジタル化が遅れており、ビジネスチャンスの喪失につながっています。欧米アパレルと現地でしっかり交渉、対応できるエージェントが不可欠なのですが、その体制を敷いている日本企業は多くありません。日本企業全般に言えることですが、とりわけ産地企業では人材不足も深刻です。不況時や緊急時に臨機応変に対応できる人材がいることがベストですが、ほとんどいない。商社と違い、人材に対しての投資を行ってこなかったのだから、当然と言えば当然と言えます。

  ――では今後、どのようなことをすれば輸出拡大という悲願に近づくことができるのでしょうか。

 すぐには難しいことは承知の上で言いますが、マーケティングは不可欠です。現地の市場とアパレルが何を必要としているのかを知らない限り、輸出などできません。こちらで適当に選定した生地見本を送りつけるのではなく、事前にデジタルツールを使ってコレクションを送り、アパレルが興味を示したもののみを後日送るようにすれば、相手が必要としている生地の傾向が分かり、マーケティングが少し進みます。

 産地など日本の企業には、「良い品を作っていれば売れるはず」という思い込みが大きい。プロダクトアウトの発想ですね。でもこれは間違いです。市場で物が売れるのは、商品が優れているからではなく、その商品が必要とされているからなのです。

 商品面とは別に、手法の工夫やルートの整理も必要条件です。展示会、商社、エージェントなどの活用方法を、これまでの経験を基にもう一度精査する必要があります。

 海外アパレルとの信頼関係構築や人材の確保と育成も必要不可欠になります。

 販売については、商社や問屋との協業をおすすめします。やはり、産地企業が単独で海外市場を開拓するのはハードルが高すぎます。水平連携も含め、協業なしに開拓は進まないと思います。その際に気を付けておきたいのが、商社や問屋に丸投げする形で販売業務全般を委託してしまうことです。丸投げではノウハウは蓄積されません。商社や問屋、同業他社と協業するのは、自社にそのノウハウを蓄積していくためのものでもあるのです。

 新型コロナが全世界でまん延する中、商流は大きく変わります。世界中の全ての生地供給者が同じスタートラインに立っていると言えます。イタリア産地の疲弊を例にするまでもなく、日本企業にとってもチャンスは平等に与えられているのです。

 この難しい時期の企業努力が今後の企業間格差を大きく左右するのは間違いありません。