2021年春季総合特集(7)/トップインタビュー 東洋紡/社長 竹内 郁夫 氏/ESG踏まえ事業拡大/エアバッグ23年度で浮上

2021年04月22日 (木曜日)

 東洋紡は2021年度で中期4カ年計画の最終年度を迎えている。エアバッグ用ナイロン66などを生産してきた敦賀事業所第二での火災に新型コロナウイルス禍によるマイナスが重なり、中計の目標達成は難しくなったと言う。しかし、この間、4ソリューション本部体制への再編、ポリエステルフィルム事業でのM&A、エアバッグ用ナイロン66事業での海外展開、岩国事業所での新拠点設立といった成長路線に回帰させるための幾つかの施策を講じてきた。4月に就任した竹内郁夫社長に今後の戦略を聞いた。

  ――新型コロナ禍の収束後、日本の繊維産業が再び成長路線を取り戻すには何が必要だとお考えですか。

 企業経営のスタンスに、より資本コストを意識した取り組みが求められるようになってくると思います。あるいはサステナビリティーへの関心がますます高まっていくに伴い、より持続可能なビジネスを志向する傾向が強まってくるのではないでしょうか。当社の場合は、存在意義のあるビジネスしか残らないと見ています。今後はESG(環境、社会、ガバナンス)を意識したビジネスを大きく伸ばしていきます。

  ――繊維事業でも環境に配慮した取り組みが欠かせない?

 当社は90年代から「エコパートナーシップ」を展開してきました。2000年代の初頭、営業だった私が再生ポリエステル「エコールクラブ」を売りにいったところ、お客さんからは高い、質が悪いと文句を言われたものです。しかし、最近はリサイクル素材を持ってきてくれという要望が強くなっています。カーボンニュートラルの実現も同様ですが、こういう取り組みを避けて通れない時代を迎えています。

  ――21年度までの中期4カ年計画には目標として売上高3750億円、営業利益300億円を掲げていました。

 エアバッグ用ナイロン66を主力に生産してきた敦賀事業所第二で発生した火災によるマイナス要因に新型コロナ禍の影響が重なり、残念ながら業績目標の達成は遠のいてしまいました。一方で、フィルム事業は当初の想定を大きく上回る伸びを示しています。

 中期計画というのは、もちろん目標数値の達成は重要ですが、やるべきことにきちんと取り組んできたのかも問われます。その意味では、この間、定性的な課題消化を順調に進めてくることができました。新しい中期計画は22年度スタートですが、私の経営方針を1年先取りして今年度から進めています。

  ――衣料繊維事業の今後をどう見ていますか。

 国内需要は今後も減少するでしょうが、ある程度が輸入品に置き換わっているため、そう大きく需要が後退することはないと思います。

 新型コロナ禍の前までに用途・分野を絞り込む選択と集中をあらかた終わらせましたので、機能性を認めてくれるユニフォーム、中東輸出、スポーツへの重点化をさらに加速します。今日、私が来ているのは高機能ニット「Zシャツ」によるドレスシャツです。編み立て、後加工、縫製で独自のノウハウを詰め込み、こういういいものを作ることができました。こういうのを増やしていきます。

  ――東洋紡STCは苦戦していますが。

 衣料繊維事業が拡大することはないでしょうが、機能材事業を伸ばしていくことは可能です。東洋紡単体ではできないような取り組み、例えば他社品の融通や他社品との組み合わせで新規ビジネスを開拓します。

  ――日本エクスラン工業の今後をどう見通していますか。

 20年度に減損処理を行いましたので、収益はかなり改善されると見ています。アクリレートで事業性を確保する作戦を検討中です。アクリレートは化学編成をしやすく、新素材を出しやすい素材です。ブレーキパッドといった資材での取り組みにも力を入れています。

  ――エアバッグ用の原糸生産でタイに進出します。

 予定よりも多少遅れて来春から稼動させる計画です。お客さんからの認証に時間がかかるため、業績に寄与してくるのはもう少し先になります。コスト高の買い糸で展開している分、現状の収益は厳しいのですが、タイが本格的に動き出す23年度に黒字に浮上させる計画です。グローバルでの自動車生産の伸びは3~5%といわれています。エアバッグの成長率は装着部位が拡大する分、自動車生産の伸び率を2~3%上回ると見ています。

  ――岩国事業所に不織布の拠点を新設します。

 メルトブローの設備を入れてマスク用の原反を供給できる体制を整備します。これまでは提携先に作ってもらっていましたが、来年7月から量産を開始します。スパンボンドでも足りない分を台湾や中国メーカーから調達しています。中国市場の回復につれて現在は堅調です。

  ――スーパー繊維事業の最近の状況は。

 PBO繊維「ザイロン」は現在、フル操業に近い状態を維持しています。当面、現状の設備で走り続けますが、スペックインに取り組む新規案件が大きく育ちそうなことが分かった時点で増産投資を検討します。高強力ポリエチレン繊維「イザナス」は自動車産業などでの減産の影響を受け、耐切創手袋向けの販売が低調でしたが、新型コロナ禍が収束して以降は元の状態に戻るとみています。

  ――昨年4月から4ソリューション本部体制に再編しました。

 バリューチェーンの中でお客さんに価値を提供する能力を引き上げるための組織再編でした。しかし道半ば、まだ物にこだわった事業運営にとどまっています。オール東洋紡としてお客さんのために何ができるのか、もっと発想を広げられるような方向に導いていきます。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/ファゴットを続けたいのだが……〉

 まず、この1年間、行くことができなかった工場を巡回してみたいという。海外のお客さんへのあいさつまわりにも取り掛かりたいと言う。それと、これもできなかった「送別会、歓迎会を開きたい」とも。こういう催しのないのが1年以上も続くのは「われわれ昭和世代にとっては寂しい」とのこと。個人的には、趣味のファゴット(バスーンとも呼ばれる木管楽器)の再開。年1~2回のペースで演奏会に参加してきたが、社長業との両立が可能かどうか逡巡している様子。「是非とも続けていきたい」と語る。

〈略歴〉

 たけうち・いくお 1985年4月東洋紡績(現東洋紡)入社、2014年10月経営企画室長、15年10月参与経営企画室長、17年5月参与グローバル推進部勤務および東洋紡〈上海〉、東洋紡チャイナへ出向(董事長)、18年4月執行役員機能膜・環境本部長、20年4月常務執行役員、同年6月取締役兼常務執行役員企画部門の統括、カエルプロジェクト推進部の担当、21年4月代表取締役社長。