2021年春季総合特集(11)/トップインタビュー  帝人/社長 鈴木 純 氏/素材や技術で機会をつかむ/成長の絵が描けた繊維・製品

2021年04月22日 (木曜日)

 「いろいろなビジネスチャンスが生まれる」。帝人の鈴木純社長は新型コロナウイルス禍が収束した後に訪れる世の中をそのように予測する。世界経済も緩やかながら回復に向かうとみられ、日本の産業の先行きにも明るさが出てきたが、「ビジネスの機会はそれぞれの企業が見つけていかなければならない」と強調する。同社は2021年が中期経営計画の2年目に当たる。将来の収益源育成「ストラテジック フォーカス」の伸長を図るなど、ぶれることなく着実に計画を前に進める。

  ――新型コロナが収束した後、日本の産業が発展するために必要なものとは。

 これは日本の産業だけではなく社会全体に関わることですが、新型コロナ禍で浮上した「非接触」と「デジタルへの依存」というキーワードは収束後も残るでしょう。それに関連するサービスは確実に増えていき、そこに新しいビジネスの機会が出てくると考えられます。化学産業や日本の企業は直接ではなくても素材や技術の展開で機会をつかむことができるのではないでしょうか。

 一方で、人は対面でのコミュニケーションを求めるのではないかと感じています。感染が拡大している時はリモート、オンラインで対応していますが、新型コロナ禍が収束して制限がなくなった時にはリアルでのコミュニケーションが比較的早い段階で復活すると思います。これによって人の移動が増えれば、モビリティー分野に良い影響を与えるでしょう。

  ――収束時期の想定はありますか。

 全く分かりません。昨年4月に緊急事態宣言が発出された時、割と早く収束すると予想していました。その後「夏には」という感覚に移ったのですが、それも外れました。そして「これは長い戦いになる。新型コロナとの共存が必要」という考えに変わっていきました。現在も収束に向けて進んでいるという実感はありません。ワクチン接種が遅れている日本では少なくとも秋までは続くと覚悟しています。

 繰り返しになりますが、そのような中でもビジネスの機会はかなりあります。世の中が変わっているからです。例えば自動車の販売です。新型コロナ前は、アジアや新興国では増えるものの、先進国での拡大は見込めないと目されていました。ところが新型コロナによって先進国でも自動車販売台数は増加傾向にあります。非接触の移動手段として注目度が高まりました。こうした変化に気付き、ビジネスの機会を見つけることが重要になります。

  ――21年度の経済をどのように予測していますか。

 観光産業や飲食業は落ち込んでいますが、これは人の動きが制限されたことで生じました。観光や飲食以外の分野・産業は、今のところなのかもしれませんが、それほど深刻なダメージを受けていません。新型コロナ前よりも良くなった産業もあります。こうしたことを考えると、経済は緩やかに回復するのではないでしょうか。

 ただし、懸念材料は残っています。その最たるものが米国と中国の問題です。そこに中東情勢が絡むと先行きは一気に不透明感が増します。だからといって現段階で中国を切り離すことはできません。帝人グループを含め、タイやベトナムにビジネスの領域を広げる企業はありますが、すぐに中国の代わりが務まるわけではありません。米国と中国の両国の動きには引き続き注視が必要です。

  ――22年度が最終の中期経営計画を進行中ですが、初年度を振り返ると。

 20年度は19年度と比べて横ばいで推移しており、数字的には伸びていません。新型コロナ禍の中ではある意味仕方がないと思っています。実際に良い面もありました。その代表が繊維・製品事業での医療従事者向け医療用防護具(ガウンなど)の供給です。帝人フロンティアが機動的に動き、1週間で1900万枚を供給できる体制を整えてくれました。社会貢献の観点からもすごく意義がありました。

 全体で見ると、マテリアルは弱含みましたが、自動車関連が下支えとなりました。インフラ系の材料は一瞬弱含みましたが、少しずつ回復しています。ヘルスケアは製品が強くキープでしたが、数字に表れない部分で遅れが生じています。新型コロナがなければ、地域包括ケアシステムの実現に向けた動きをもっと進めることができたはずです。

  ――21年度の方針は。

 まずは後れを取り戻すために巻き返しを図ることです。業績面では20年度比増収増益を狙う方針ですが、19年度の数字にどれだけ近づけるかになります。そして「その次」をどのようにして伸ばすかも考えていかなければなりません。その中でヘルスケアはきっちりと取り組みます。繊維・製品事業も成長に向かう絵が描けてきたので期待しています。アラミド繊維は増設計画を着実に進めます。

 自動車は堅調な推移が予想できますが、航空機の早期回復は難しいかもしれません。今年の後半にはある程度人の動きが戻ると予想し、今もそう思いたいのですが、実際のところは分かりません。人が動き出せば、旅客や乗客が増え、航空機業界にも良い影響を与えるでしょう。帝人としては24年度の回復を見込んでいますが、私個人は22年度の回復に期待を寄せています。

  ――どこの市場に伸び代を求めますか。

 分野や領域によって全く異なりますが、例えば航空機向けの炭素繊維中間材料などであれば欧米のほか、中国にも注目していかなければならないでしょう。欧米の航空機メーカーによる中国でのモノ作りへの対応に加えて、中国航空機メーカーの成長もあるからです。いずれにしてもアラミド繊維や樹脂、繊維・製品を含め、コストが付加価値の分野では勝負しません。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/高級料亭ではなく〉

 「新型コロナウイルス禍で飲みに行く機会が減った」と鈴木さん。友人との飲み会は不定期ながら数カ月に1回は開いていたが、それがなくなってしまった。中学や高校、大学時代の友人と飲むことが多かったのだが、今はメールのやり取りだけ。「それではつまらない。新型コロナ禍が収束し自粛の必要がなくなれば早く復活したい」と話す。高級料亭に行くのかと思っていたが「飲み放題で5千円ぐらいの店がほとんど」とのこと。皆が良く知るチェーン店なども利用する。

〈略歴〉

 すずき・じゅん 1983年帝人入社。2011年帝人グループ駐欧州総代表兼Teijin Holdings Netherlands B.V.社長、12年帝人グループ執行役員、13年4月帝人グループ常務執行役員、同年6月取締役常務執行役員、14年代表取締役社長執行役員CEO。