2021年春季総合特集(13)/トップインタビュー カケンテストセンター/理事長 寺坂 信昭 氏/掲げた方針の着実な実行を/人材の確保・育成が課題

2021年04月22日 (木曜日)

 「新型コロナウイルス禍でも方向性は変わらない」。カケンテストセンター(カケン)の寺坂信昭理事長は2021年度の方針をそのように話す。22年度が最終の中期経営計画を着実に進めるが、課題に挙げるのが人材の確保と育成。それには「カケンの知名度をもっと高める必要がある」とし、繊維だけでなく、異業種にも事業を広げる。

  ――新型コロナ収束後に日本の繊維産業や検査機関が発展するには何が必要ですか。

 新型コロナ禍が起こる前から検討し、進めようとしていた方針や施策があると思います。新型コロナ禍によって新たな課題が生まれたのは事実ですが、掲げていた方針・施策を確実に実行することが大切になるでしょう。スピード感も求められます。それについては繊維産業や繊維関連企業だけに限らず、カケンも同じです。

 例えば、日本市場は人口減少もあって量的な拡大は期待できず、質を高めて消費者に関心を持ってもらうことが不可欠です。海外も一時はサプライチェーンの見直しが叫ばれましたが、グローバル化の重要性は変わりません。これらは新型コロナ禍前からあった大きな流れです。柔軟な対応は必要ですが、日本繊維産業の方向性は変わりません。

  ――ただ事業環境は変化しています。

 確かにスーツをはじめとするビジネス服の需要減少は一気に加速しました。テレワークの浸透などで働き方が変わったことが影響しています。服装の変化はこれからも続くと予想され、従来型の繊維・生地の検査だけでなく、機能性試験や安心・安全、衛生試験などがますます増えます。カケンとしてもそうしたニーズをつかまえないといけません。

 安心・安全や衛生に関連する試験については繊維業界だけでなく、異業種からの問い合わせも多くなっています。さまざまな業種・分野で関心が高まっているので、しっかりと対応していきます。

 そのほか、デジタル技術で企業を変革するDXをどのように活用するかを模索していきます。

  ――21年度が始まりましたが、20年度を振り返ると。

 20年度が始まる前は「新型コロナ禍の影響で前半は大きく落ち込み、後半から回復。通年では19年度並み、もしくは上回れる」という見通しでした。実際には前半の落ち込みは想定ほどではありませんでしたが、後半の回復には時間がかかりました。中国は大きな落ち込みもなく堅調でしたが、全体としては19年度に届かない見通しです。

 その中で質的向上を図る取り組みを行いました。一つが足元だけでなく先を考えた投資です。東京事業所にバイオラボを開設し、抗菌性試験などにスムーズに対応できる体制を整えました。設備だけあっても試験ができませんので、人材も育成しています。そのほか、新型コロナ対応のためのテレワーク体制も構築しました。

  ――今年度の方針については。

 新型コロナ感染者は当分の間、増加したり、減少したりを繰り返すのではないでしょうか。ただし働き方の改革をはじめ、対処の仕方が少しずつ分かってきました。これは昨年とは大きな違いだと言えます。カケンは22年度を最終年度とする中期経営計画を実行中であり、掲げた目標に向かって着実に進んでいきます。

 中国は回復が早かったこともあり、今後も堅調に推移していくと思っています。中国市場はまだ拡大していくと予想しており、新たな拠点が必要になるのかどうか、調査していきます。ASEAN地域は回復が遅れています。重要な拠点ですが、まずは職員の安全・感染予防に万全を期します。インドは早い段階での稼働を目指しています。

  ――中長期的な課題は。

 カケンでしかできない独自メニューを積み上げていくことが課題の一つですが、これも人があってこそです。技術が継承できる人を確保し、育てる。繰り返しますが設備があっても使える人がいなければ意味はありません。人材確保は難しいですが、異業種の試験にも積極対応してカケンの存在を広く知ってもらうことが大事だと考えています。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/誰はばかることなく〉

 「気軽に声を掛けたい」と話す寺坂さん。新型コロナウイルス禍で人との接触がはばかられるようになり、実際に会うにしても少人数になってしまった。「声を掛けて良いのかも迷う。顔を見たい人はたくさんいるので、自由に誘える世の中が早く戻ってきてほしい」と言う。学生時代の友人らに会いたいかと尋ねると、「それよりも仕事でお世話になった人や知り合った人に会いたい」。寺坂さんらしい実直な答えだと感じた。

〈略歴〉

 てらさか・のぶあき 1976年4月通商産業省(現経済産業省)に入省。2004年6月経産省大臣官房審議官、07年7月経産省商務流通審議官、09年7月原子力安全・保安院長、11年8月退官。15年6月冠婚葬祭総合研究所社長、17年8月互助会保証社長を経て、20年7月からカケンテストセンター理事長。