2021春季総合特集Ⅱ(3)/トップインタビュー クラボウ/社長 藤田 晴哉 氏/社会課題への対応が問われる/次期中計に向けた態勢固めの年

2021年04月23日 (金曜日)

 「人々の価値観が一段と多様化する中、社会課題の解決に向けてどのように対応するかが問われる時代になった」――クラボウの藤田晴哉社長は指摘する。例えばサステイナビリティーなどが大きなキーワードになる。こうした課題解決には「単独企業の取り組みだけでは限界がある。いかに繊維業界全体で取り組めるかが重要になるだろう」と指摘する。同社も既に伊藤忠商事との提携など企業の枠を超えた連携に取り組み、2022年度(23年3月期)から始まる次期中期経営計画に向けた態勢固めを進める。

  ――新型コロナウイルス禍収束後に繊維産業が発展するためには何が必要でしょうか。

 繊維産業は既に多くの課題を抱えていましたが、新型コロナ禍によってそれが鮮明になりました。消費者のニーズに直接つながる「価値」そのものを作らなければならなくなっています。例えば最近はSNS(会員制交流サイト)や口コミを通じてヒット商品が生まれる時代。そういった部分から価値が認められる社会になったということです。そうなると繊維産業もかつてのように売れ筋を追いかけて、同質な商品を大量生産し、価格競争の果てに結局は大量廃棄するビジネスモデルは社会的に認められなくなるのでは。現代社会は、それこそLGBTへの理解が深まるといった良い面を含めて個々人の価値観とライフスタイルが多様化しています。個々人の価値観に応じた商品・サービスを創出する必要があるでしょう。

 例えばサステイナビリティーなどがキーワードになってきます。こうした価値観を発信できない商品は市場で存在を許されなくなる可能性すらあります。その意味で、社会課題をどのように解決するのかが問われる時代になりました。当社でいえば、熱中症対策製品・システム「スマートフィット・フォー・ワーク」や、抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」などが、これに当てはまるでしょう。ただ、社会課題への対応は単独企業だけの取り組みでは限界があります。いかに業界全体で取り組むことができるかが重要になってきます。伊藤忠商事さんと協力して「アパレルサステナブルコンソーシアム」を立ち上げるのも、そうした考えがあったからでした。いずれにしても新型コロナ収束後に日本の繊維産業が発展するためには、業界全体でいかに存在価値を高めることができるかにかかっていると思います。

  ――20年度(21年3月期)が終わりました。

 全事業とも新型コロナ禍による打撃を受けた年でしたが、それでも第3四半期(10~12月)には回復傾向が鮮明になっていました。しかし、2回目の緊急事態宣言が出て以降、再び勢いが鈍化しています。回復が早かった自動車関連もここに来て半導体不足による自動車減産の影響が出ています。

 繊維事業は、前半は外出自粛や店舗休業の影響で流通在庫が減少せず、その影響が受注の大幅減となって現れました。ただ、後半からは新しい商談も始まり、受注量もまとまり始めています。クレンゼの採用も広がりました。今後、抗ウイルスなど衛生機能加工は標準装備となるのではないでしょうか。ユニフォームも流通在庫の影響で勢いがありませんでしたが、電気・電子分野の国際標準団体である国際電気標準会議(IEC)の規格に対応した制電素材「エレアース」やワーキングパンツ一体型サポートウエア「CBW」の開発、アイトスさんと立体縫製パターン「ムービンカット」の共同マーケティングを開始するなど今後につながる動きもあります。一方、カジュアルは苦戦が続きました。海外品との競争が激化し、なかなか当社の競争力が発揮できなくなっています。

  ――21年度がスタートしました。

 今期は3カ年中期経営計画の最終年度です。しかし、新型コロナ禍で前提条件が変わり、目標達成とはいかなくなりました。そこで現中計がスタートする前の18年度の連結営業利益が56億円ですから、今期はまずこの水準にまで回復させ、少しでも上積みすることで22年度からの次期中計に向けた態勢固めを目指します。

 繊維事業は次期中計までにどれだけマイナスの部分を解消できるかが重要。クレンゼやエレアース、CBW、あるいは改質原綿による機能糸「ネイテック」など新しい需要に対応する商材をどれだけ拡大できるかがポイントです。伊藤忠商事さんとの連携の成果にも期待です。伊藤忠商事さんの環境配慮素材プロジェクト「レニュー」の再生ポリエステルを使ったサステイナブル・インサレーション「エアーフレイク」など具体的な商品開発も進んでいます。エドウインさんと取り組む裁断くずを紡績原料として再利用する「ループラス」も新たに使用済みジーンズを回収・リサイクルするプロジェクトが始まりました。カジュアルも今期から営業体制を変更し、アパレルに対して課題解決型ソリューション提案を強化し、新規取引の拡大を目指します。海外はタイ子会社でクレンゼの加工をスタートさせました。ベトナム子会社や中国子会社と連携し、タイのテキスタイルを中国や東南アジア地域の縫製に向けてどれだけ供給できるかも重要になります。

 化成品事業は順調に回復していますが、ここに来て原料価格が上昇していることが懸念材料です。それでも半導体製造装置用樹脂加工品などは需要拡大が期待できますから、品質管理を一段と強化します。環境・メカトロニクス事業はロボットビジョンセンサーシステム「クラセンス」が医療分野でも採用されるなど実用化が進みつつあります。半導体洗浄装置関連も新しい開発が進んでいます。2月にFA(ファクトリーオートメーション)装置設計製作のセイキ(富山県魚津市)がグループに加わり、ロボットビジョンや半導体洗浄装置とのシナジーも期待できます。こちらも次期中計に向けた態勢固めを進めます。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/仲間との時間を取り戻す〉

 「新型コロナ禍で一番残念なのは、仕事でもプライベートでも仲間と過ごす機会が奪われたこと」という藤田さん。国内工場や海外子会社に足を運ぶこともめっきり減り、先輩OBや同期との懇親の機会もまったくご無沙汰の状態が続く。それだけに、新型コロナ禍収束後は、現場スタッフや海外パートナーとのコミュニケーションや、OBや同期との懇親のために「会合やゴルフ、そして行きつけの小料理屋での食事などで、はやく仲間との“失った時間”を取り戻したい」と話す。

〈略歴〉

 ふじた・はるや 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。