2021春季総合特集Ⅱ(11)/トップインタビュー  ダイワボウレーヨン/社長 福嶋 一成 氏/“機能”の重要性が高まる/レーヨン使用比率引き上げ目指す

2021年04月23日 (金曜日)

 「不織布、アパレルいずれの用途でも“機能”への要求が一段と強まっている」――ダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は指摘する。背景にあるのが新型コロナウイルス禍を契機とした消費構造の変化。清潔や衛生への意識が急速に高まった。ネット通販のウエートも急速に高まる。消費者の要求を実現し、訴求ポイントとなる機能が今後の日本の繊維産業のテーマとなる。

  ――新型コロナ収束後に向けて繊維産業が取り組むべき課題は。

 レーヨン分野だけを見ても、消費者の間で明らかに清潔や衛生に対する意識が従来とは別の次元に高まっています。新型コロナ禍を契機に除菌シートなどの需要が一時的に高まりました。特需的な面がありますから、いずれ落ち着くでしょう。しかし、清潔や衛生への要求はアジアの新興国などを含めて世界規模で高いレベルで定着するはずです。こうした要求に応える繊維原料が求められるでしょう。特に日本の繊維に対しては品質要求も高まります。品質、安全性、そして“機能”を実現することが重要です。

 アパレル用途でも同様です。ここに来て機能素材への引き合いが急増しています。背景にあるのがネット通販などEC(電子商取引)の増加でしょう。ネット通販では商品の具体的な訴求ポイントが必要ですから、機能性がその材料になっています。店頭と異なり、ECは文章や画像、動画による説明も容易なことも機能素材にとって有利に働きます。今後、ECに対応した商品開発や提案がますます重要になります。

 もう一つは、やはりサステイナビリティーへの要求の高まりです。例えば羽毛代替としてふとんの中わたでレーヨンへの注目が高まってきました。使用済み綿製品を原料にリサイクルしたレーヨン「リコビス」や、海水中での生分解性を確認しているレーヨン「エコロナ」などに対して海外からも引き合いが増えています。この動きはグローバルアパレルが主導で、ますます重要性が高まるでしょう。

  ――2020年度(21年3月期)を振り返ると。

 新型コロナ禍で、まさにジェットコースターのような動きの年でした。レーヨンもアパレル向けの需要が急速に減退する一方、不織布用途は除菌シートやウエットティッシュの需要が急増し、販売量が増加しています。結局、全体では微増収微増益で推移しました。特に機能レーヨンで具体的な商談につながるなど成果が出ています。これまでさまざまな開発を通じて準備していたものが、新型コロナ禍の中で商品化できたのは大きかったと思います。

  ――21年度の課題と基本戦略は。

 パルプや化学品など原材料価格が上昇し、中国や米国への輸出などではコンテナ費用など物流コストも高騰していることが懸念材料。その中でどうやって利益を確保するのか。やはり機能レーヨンの拡販を進めることが基本戦略となります。植物由来であることや生分解性などを打ち出すことでサステイナブル繊維としてのレーヨンを認知させることが重要になります。それにより、合成繊維代替としての需要を掘り起こします。例えば不織布製品には合繊とレーヨンを複合したものが多くありますが、これらアイテムでレーヨンの混率を少しずつでも引き上げることができれば、それだけで需要の拡大になるでしょう。採用する側も製品のサステイナビリティーを高めることができます。

  ――中国など海外市場については。

 中国はECの存在感が大きな市場ですから、ECを得意とするアパレルに向けた提案を強化します。不織布用途でもコスメティック関連などの市場をどのように攻めるかが課題です。いずれも取引先の数を増やしていくことが重要になります。

  ――3月には中国での展示会「インターテキスタイル上海」にオーミケンシと共同出展しました。

 オーミケンシさんと連携しての最初の取り組みだったわけですが、集客やサンプル依頼も多く成果があったと思います。今後、両社による連携もさらに進むでしょう。特に機能レーヨンに関しては両社とも多くの技術を蓄積してきました。これが合わさることで今後、面白い機能レーヨンを出していきたいと思います。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/いよいよ禁断症状が出てきた〉

 新型コロナ禍で海外渡航が難しくなって1年が経過した。「新型コロナ禍が収束したら、海外旅行に行きたい」と言う福嶋さん。ここ20年ほどは毎年、仕事かプライベートいずれかで海外に足を運んでいたが、新型コロナ禍が発生する直前の韓国出張を最後に海外はお預け状態が続く。これには「いよいよ禁断症状が出てきた」と笑う。まずはどの国に行きたいのか聞くと「どこでもいいから、海外でゴルフがしたい」と即答。

〈略歴〉

 ふくしま・かずなり 1982年大和紡績(現ダイワボウホールディングス)入社。2013年ダイワボウレーヨン専務、16年大和紡績取締役兼ダイワボウレーヨン社長、17年6月から20年3月までダイワボウホールディングス執行役員兼務。21年4月から大和紡績取締役合繊事業統括兼合繊事業本部長を兼務。