2021春季総合特集Ⅲ(9)/トップインタビュー  東洋紡STC/社長 田保 高幸 氏/DXで大量生産・廃棄をなくす/組織再編し強みに重点化

2021年04月26日 (月曜日)

 東洋紡STCは新型コロナ禍で苦戦に転じた業績を回復させるべく、自社の強みと位置付けるユニフォームや中東輸出、ニットシャツ地などに経営資源を重点的に投入する競争力強化に取り組んでいる。このための組織再編を4月1日付で実施、新体制による取り組みで21年度から収益を反転させる。コロナ後の戦略を田保高幸社長に聞いた。

  ――新型コロナウイルス禍が収束して以降、日本の繊維産業が再び拡大へと向かうには何が必要だとお考えですか。

 DX(デジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション)を活用し、これまでの“大量生産・大量廃棄”を回避するためのシステムを構築することが重要になってくるのではないでしょうか。他国が簡単にまねすることができない環境に優しい繊維製品を開発することができれば、再び成長軌道を取り戻せるのではないかと考えています。

  ――2020年度の業績をどう見通していますか。

 残念ながら上半期、衣料繊維事業では営業損失を計上しました。スポーツ、インナー、ユニフォームでともに苦戦を強いられ、中東輸出以外はほぼ全滅といった状態でした。下半期に入り、用途によって凸凹はありますが、インナー以外が復調しているため、衣料繊維全体を何とか黒字に浮上させられそうです。

  ――中東輸出がようやく回復基調に転じました。

 下半期を迎えたタイミングで最後の加工指図が入り始め、庄川工場をほぼフル操業状態に転換することができました。21年度に入り、新型コロナ禍の影響で現地への出張ができていません。さらに、ここに来てコンテナ不足が露呈しています。それでも昨年の上半期に比べると状況はだいぶ改善してきています。

  ――中期4カ年計画の最終年度を迎えています。

 新型コロナ禍の影響で目標に掲げた業績には届きそうもありません。フィルム事業が想定していたよりも急ピッチで回復を遂げていますが、繊維のマイナスがそれを上回っています。21年度は再度、20年度の予算に掲げた数値を目標に業績回復を図ります。

  ――21年度の重点課題に何を掲げていますか。

 4月1日付で組織を再編しました。これまでの4事業部を輸出織物、ユニフォーム、スクール、スポーツ、マテリアルの5事業部体制に組み替えました。当社の強みと位置付ける中東輸出、ユニフォームを人員増強を含めて強化する一方、スポーツ、インナーはぎゅっと圧縮し立て直しを急ぎます。もう一つの柱が高機能ニットの強化・拡大です。テレワークの普及で巣ごもり需要に向けたニットの販売が伸びており実際、当社の高機能ニット「Zシャツ」は新型コロナ禍のアゲンストをはねのけて好調を維持しています。

  ――郊外型量販店が「Zシャツ」で商品化したニットドレスシャツも販売好調のようですが。

 当社の20年度の販売量は枚数ベースで前年比50%増になりました。21年度は前年を上回る拡販を達成できるとみています。縫製をインドネシアのSTGで行っており、スペースが足りなくなるのであればミシンを増やします。テキスタイルはインドネシアのTMIです。今後の増産の際は外注を増やして対応していきます。

  ――SDGsへの対応を避けて通れなくなっていますが。

 当社はかなり以前からペット再生ポリエステル「エコールクラブ」を展開しており、ユニフォームや学販で多くの実績を積み重ねてきました。これまでの取り組みを1回整理して、マテリアル事業部が各部門に供給する体制を導入します。

  ――エクスラン(アクリル)事業が苦戦を続けています。

 20年度に減損処理を行っており今後、収益は改善へと向かう見通しです。21年度で何とか採算ラインに乗せたいと考えています。アクリレート繊維の販売は今も好調で、とくに大手と組んだインテリア・寝装系の取り組みが増えてきました。いずれはアクリレートの増産につなげるつもりです。

〈新型コロナ禍収束後にまずやってみたいこと/会食の復活を熱望〉

 新型コロナ禍によってテレワークが増え、人と対面で話し合う機会が激減してしまったと言う。だから、新型コロナ収束後にまずやってみたいのが「リアルなコミュニケーション活動を復活させること」。ビフォアーコロナの頃に当たり前のように実施していた「当時の規模での会食を復活させたい」と話す。プライベートでは、これもこの間、全くできなくなっていた「海外旅行に行きたい」。

〈略歴〉

 たぼ・たかゆき 1983年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社。10年3月経理部長、11年4月経理部長兼総務部主幹、13年10月参与経理部長、17年4月執行役員、18年4月東洋紡STC取締役、20年4月代表取締役社長。