島精機/海外展示会を香港で自主再現/渡航制限の顧客に配慮

2021年06月24日 (木曜日)

 海外で開かれた大型展示会での自社展示をそのままの形で、香港で再現する――。ニットの横編機で世界トップシェアを誇る島精機製作所(和歌山市)がユニークな試みを行った。渡航制限のため展示会に行けない香港の取引先に、同じ出展品を同じタイミングで見てもらおうという狙い。新型コロナウイルスの影響で制約を受ける展示会の機能を、企業が自ら補完する新たな方式として注目されそうだ。

 島精機は15、16の両日、九龍地区・茘枝角の商工業ビルで「シマ・クロステックス2021」と銘打った展示会を開催した。中国・上海市で12~16日に開かれたアジア最大級の国際繊維機械展示会「ITMAアジア+CITME2020」で同社が行った展示を完全に再現したものだ。

 新型コロナの感染がほぼ収まった中国本土では現在、大型の展示会を開くことは可能になっている。ただ、隔離を伴う厳しい水際対策が実施されているため、海外の出展者やバイヤーが参加することは難しい。シマ・クロステックス2021は、ITMAアジアに参加したくても本土に渡航できない取引先のために企画した。

 同社の展示は、製品であるニットマシンやそれを使って生産できる衣料品のサンプルと、衣料品の生産にかかわるソリューションの実演がメインとなる。今回のITMAアジアでは、糸の状態から完成品になるまでの工程を1台で自動的に行えるホールガーメント横編み機の最新機種「次世代型ホールガーメント機SWG―XR」と、ニット衣料品のデザインや配色、糸のシミュレーションなどを一元化して3Dサンプルを作成できる最新のバーチャルシステムなどを紹介した。

〈同じものをいち早く〉

 香港はニット産業における輸出の中心地で、島精機は現地法人の島精機(香港)を置いている。ITMAアジアに出品したサンプルやシステムを香港の取引先に披露する計画は当初からあったが、同じ展示会方式で日程も重ねた理由を、島精機〈香港〉の梅田郁人・最高経営責任者(CEO)は、「今回の最新機種はITMAアジアに合わせてリリースしたもの。香港の取引先にも同じタイミングでいち早く見てもらいたかった」と説明する。

 シマ・クロステックス2021は、ITMAアジアの島精機ブース、日本本社との間をそれぞれオンラインで接続。本社担当者によるウェビナーを開催したり、上海法人の董事長を兼務して本土事業も統括する梅田CEOが上海の来場者とオンライン商談を行ったりと、3カ国・地域の現場がオンラインでトライアングルに連動する新しい形の展示会になった。

 香港会場には、地場企業をはじめ香港に拠点を置く日本や欧米のアパレルメーカー、ブランド、商社などから2日間で約360人が来場。参観者の1人は、実際にサンプルに触れたことで「最新機種がこれまでとは全く違う機能を持つことがよく分かった」と満足げに語っていた。

〈今後はハイブリッドが主流か〉

 新型コロナで打撃を受けた世界の展示会業界だが、香港でも毎回100万人が訪れる「香港書展(香港ブックフェア)」が今年は7月に実施できる見通しとなるなど、開催自体は解禁の流れに向かっている。ただ、国・地域をまたぐ人の往来は依然として制限され、海外の展示会に出展する上でのハードルは高い。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所の高島大浩所長は「対面での展示会には困難がある中で各社ともさまざまな方法を模索している」と指摘。日本からオンラインで商談を行ったり、代理店やジェトロ、香港に拠点を置く地方銀行を介してサンプルを紹介したりといった取り組みが広がっていると説明する。

 香港貿易発展局(HKTDC)も現在はバーチャル展示会に力を入れており、当面の国際的な販路開拓にはオンラインが欠かせない状況だ。オンラインでは実際に海外を訪れなくても商談ができる手軽さという利点もあり、高島所長は「実際の商談会とオンラインを併用する“ハイブリッドモデル”がコロナ後も定着していくのではないか」と予想している。

[NNA]