特集 商社OEM/独自性でニーズの多様化に対応/サステ時代のビジネス戦略

2021年06月28日 (月曜日)

 新型コロナウイルスの感染拡大で生活様式や消費行動が一変し、商社もビジネスモデルの転換を迫られている。繊維事業の生き残りをかけた業界再編が始まるほど状況は厳しい。主力としてきたOEM/ODM事業も大きく揺らぐ。小ロット・短納期のニーズが増え、サステイナブルなモノ作りが求められる中、デジタル化などの新たな動きが加速している。

 3次元(3D)サンプルを活用したデジタルなモノ作りは、各商社によって普及が図られている。

 豊島は3Dサンプルを自社で製作するため、社内のデザイナーやパタンナーに向け、専用ソフトウエアの研修を実施している。全社的にデジタル化を推進し、顧客の生産効率化の支援に生かすのが狙い。各営業課でも、顧客に向けた3Dデザイン活用の提案を行う。取り扱うアイテムによって変わるニーズにも、ロットを問わずに対応できるメリットを訴求する。

 三菱商事ファッションは、CADパターンから電子商取引(EC)サイトへの商品掲載までの工程をデジタル化する「3D・CGデジタルスキーム」を打ち出す。生地メーカーなど川上からECプラットフォーマーのような川下まで3D・CGの活用を提案する。

 ニーズの多様化、細分化に対応するため、各商社の提案も独自色が強まっている。

 蝶理は、得意の合成繊維について「サステイナビリティーは標準装備」とし、高機能性を追求した素材提案を強める。メンズのアイテムに向けて新たに、スーパーストレッチ素材「TEX―FLEX」(テックス・フレックス)、洗濯を繰り返しても型崩れしにくい「DURABRID」(デュラブリッド)を打ち出した。

 三井物産アイ・ファッションは、自社ECサイトを使って独自ブランドを消費者に直販するD2Cに力を注ぐ。原料からモノ作りを担う強みを生かし、商社発のブランドとして展開する。川下に近い位置で販売を行うことで、顧客と同じ視点を持てるようになり、既存事業での提案力の向上にもつながっているという。

〈バリューゾーンにも提案/ニーズの多様化に対応/蝶理〉

 蝶理は、メイン・ターゲットにしてきた中・高級の価格帯より下のゾーンに向けても、ODMの提案を強めていく。消費行動や販売チャネルの多様化に対応するため、幅広い価格帯で提案できる事業体制を構築する。

 百貨店や高級セレクトショップに向けたOEM/ODMを、アパレル事業の主力としてきた。しかし、新型コロナウイルス禍で消費者の低価格志向の拡大が加速したことから、価格訴求力に対するニーズにも応える方針を決めた。

 ショッピングセンターなどに向けたODMの提案を進めるため、デザイナーを新規に採用し、デザインの段階から顧客を支援する体制を整えた。原料から提案できる強みや高機能性の合繊素材を活用し、顧客層の拡大を図る。

 同社は昨年末と今年5月に、価格訴求を前面に打ち出したレディース展示会「リ・セレクト」を東京都内で開催し、中・高級より下の「バリュー・プライス」にも提案する姿勢をアピールした。

 初回となった昨年末の展示会は晩夏・初秋向けで、新常態を意識したカジュアル寄りの製品・素材をそろえた。5月に行った2回目の秋冬向け展示会では、デザイン面でさらにカジュアル化を進めた。抗菌などで衛生状態を維持し、軽量やストレッチといった機能性で快適さを追求した商材を出品した。

 同社は今後、メンズでもカジュアルに向けた展示会を計画しており、ニーズの多様化に合わせ、アピールの場も増やしていく。

〈サステとDXを推進/外部企業との協業も深耕/豊島〉

 豊島はサステイナビリティーを推進しながら、デジタル技術で社会を変革するDXの活用も進める。スタートアップをはじめとした外部企業との協業のほか社内連携にも取り組み、時流に沿った商品の提案に力を入れる。

 同社は繊維を軸としながらもライフスタイル商社として存在感を高めている。近年では従来の衣料品にとどまらず、健康や福祉などに重きを置いたスマートウエアを中心に生活雑貨や衛生品を手掛けるなど多種多様な商材に幅を広げている。

 それにはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)ファンドによる外部企業との協業が大きい。独自の技術や強みを持った企業と連携を深めることで新たな価値を生み出し差別化を図る。部署をまたいだ社内連携も進め現代の生活様式に合った商材を作り上げる。

 こうして開発した商材はいずれもサステイナビリティーの考えが土台にある。例えば同社の「着るスマートタウン〝kurumi〟(クルミ)構想」は、協業して開発したスマートウエアを用いて人々の健康増進や安心安全な社会作りに貢献する。

 環境配慮への取り組みも欠かさない。日本環境設計(川崎市)の協力のもと河川敷や海岸の美化活動「グリーン・アンド・ブルー・チャレンジ」を実施する。そこで回収したペットボトルを使い衣料品を作る取り組み「アップドリフト」を推進。このほどリサイクルした繊維がシチズン時計の腕時計のバンドに採用された。

 同社は今後もSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けて多彩な取り組みを続ける方針だ。

〈3Dサンプルを社内で共有/業務に幅広く取り入れる/三井物産 アイ・ファッション〉

 三井物産アイ・ファッション(MIF)は2019年12月、3Dモデリスタ事業を専業とする子会社「デジタルクロージング」を設立した。同社は、MIFが取り組む3Dサンプルを活用したサステイナブルなモノ作りを支援する。その一方で、MIFのOEM/ODMから独立した事業として、3Dサンプルの製作をアパレルから受注している。

 こうしてMIFは子会社と連携し、繊維商社としていち早く3D技術の活用を打ち出していた。現在は顧客にもその活用が多様な形で広がり、ゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス」のデジタルカタログにも技術が生かされている。

 MIFの社内でも3Dサンプルの共有化が進んでいる。アーカイブ化されたサンプルデータをプレゼンテーションに使うなど、業務ツールとして活用する取り組みが始まった。画像を中心に情報を共有する会員制交流サイト「ピンタレスト」を使って、サンプルデータを業務に取り入れることを促進している。

 3Dサンプルと共にパターンや仕様書のデータを確認することも可能で、共有できる情報の量が増加している。これらのデータを基に、デザイン、色、素材などの変更の要望にも迅速に対応できる。

 現在は、社内で3Dサンプルの操作に関する研修を実施し、データを使いこなせる人材を増やそうとしている。デジタル専門の子会社を持つ強みを生かし、全社的に3Dサンプルの活用を浸透させ、営業活動にも取り入れていく方針だ。

〈SDGsの取り組みが進展/素材、生産、雇用など/クラボウインターナショナル〉

 クラボウインターナショナルの2021年3月期業績は前期比減収ながらも増益となった。新型コロナウイルス禍で減益を見込んでいたが、海外出張旅費などが「かなりの減額」(西澤厚彦社長)となったことや、期末の追加発注にQR供給機能を発揮したことなどで想定より上振れした。今期は「市況はさらに悪くなる」と見つつ、サステイナブルの取り組みやデジタル活用を推進する。

 同社は製品OEM/ODMを主体とする。通常の商社と異なる点は、糸、生地を国内外で生産するクラボウグループに属すること。「素材メーカー系商社」として糸、生地から製品まで一気通貫で差別化できることが強みだ。

 この状況下で推進するのがSDGs(持続可能な開発目標)対応。今年3月にはクラボウとの協業により「リサイクル」「オーガニック」「ルナセル」に3分類するサステイナブル素材ブランド「エコロジック」を立ち上げた。下げ札の発行も伸び顧客から好評を得ている。

 生産面でも、クラボウ徳島工場や竹田、村上の両自社縫製工場などでゼロエミッションが進展し、海外工場では「雇用を創出する」という役割も担う。

 デジタル技術の活用も進む。新型コロナ禍でウェブミーティングによる生産管理・品質管理が進み、ウェブ展示会も開催した。仕様書、パターン、デザインなどをアーカイブとしてデータベース化する取り組みも始めた。これらにより顧客満足度を向上させ、業績の維持拡大を狙う。

〈「Zシャツ」さらに伸ばす/「スクラムテック」を戦列に/東洋紡STC〉

 東洋紡STCはインドネシアやベトナムに構える海外生産拠点を駆使した製品OEM事業に力を入れており、ユニフォームやスポーツをターゲットに位置付ける。

 ユニフォームでは、ベトナムの縫製拠点・東洋紡ビンズンとの連携を強化しOEM事業の拡大に力を入れてきた。

 高機能ニット「Zシャツ」や「Eシャツ」の販売が21年度も好調を維持している。新規客先の開拓、既存ユーザーからのリピートの双方が増え続けており、両素材をユニフォーム事業を牽引する「一つの柱に育成したい」との意欲を示す。

 一方で、定番のワーキングが「今年も良くないのでは」との懸念を強めており、製品OEMやエコ素材などでテコ入れを図りたい考えだ。

 スポーツでは、インドネシアに構えるニットの編み・染め拠点である東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア、縫製拠点のSTGガーメントとの連携で製品OEM事業を展開中。こちらも「Zシャツ」の販売が好調を維持しており、今のところ編み立て、染色、縫製のいずれもがフル操業を続けているという。

 21春夏では数量ベースで20~30%の増販を計画しており、22春夏に向けても「さらに増やせる」との手応えを示している。

 新たに開発した高密度ニット「スクラムテック」の販促に力を入れており、テレワーク用の巣ごもり着などをターゲットとする売り込みに取り組んでいる。